プリンセスの誕生(第9章)
群衆の姉へのざわつきが収まらない中、わたしは『わたしのヒール』に向かって歩きだした
群衆は更にざわついた
今、思えば不思議なことだが好意的な雰囲気だったような気がする
そしてわたしは『わたしのヒール』の前に立った
召し使いが促した
後はわたしが『わたしのヒール』を履くだけだった
それだけで、昨日までのわたしとはサヨナラできる
はずだった…
『わたしのヒール』はわたしを受け入れない
わたしは焦った…「なぜ?なぜ?…」気持ちが戸惑った
必死で『わたしのヒール』を履こうするのに履けない
手が震えだした。震えが止まらなくなった
わたしは我に返り顔が膠着した、あまりの滑稽さに悲しくなった、寂しくなった
わたしのヒールは…
わたしのヒールではなく、ただのガラスの靴だった
その後のことは全て他人事のように思えた
「ふざけて履いたの」とオドケてハシャぐわたしを尻目に、召し使い達は広場にいたシンデレラを見つけた。広場にいた群衆も召し使いの視線の先にいるシンデレラを見つめた
召し使いはシンデレラの前に行き「この靴を履いて下さい」と促した
シンデレラがクリスタルのヒールの前に立っただけで、群衆はこのヒールが誰の所有物であるのかを確信した
シンデレラがクリスタルのヒールを履くと、群集の歓喜が爆発した
歓声が響いた、拍手はなりやまなかった、爆竹がなった、音楽が響いた
シンデレラは自身が隠していたもう片方のクリスタルのヒールも履いた
それは素敵な素敵な演出だった
召し使い達も民衆も知的でおしとやかで綺麗なプリンセスの誕生を心から喜んだ
わたしはその光景をぼんやりと見ていた
なにも考えられなかった。なにも感じなかった
妹は誰からも愛されるヒロインになり、わたしはピエロになった
それは妹と出会った時から解ってたことだったのに