舞踏会・前編(第5章)
舞踏会の日は、ここまで心が躍るものかと思った
新しい未来が開くのかもと思えば、心のざわめきを抑えることができなかった
母は姉に最後まで舞踏会での作法を教えていた
母はわたしには、姉を助けることを伝えた
言われなくても、十分理解していることだった
姉とお城に着くと、今まで見たこともない華やかな風景に心が奪われた
美味しそうなお料理
美しい食器
豪華な蝋燭のシャンデリア
素晴らしい演奏を奏でる音楽家達
物腰の優しい召し使い
素敵に着飾った紳士と淑女
どれもこれも見たこともない、経験もしたことのないものばかりだった
ただあまりの華やかさに、わたしは場違いな感じがして萎縮しそうだった
そんなわたしをよそに姉は、この華やかさにまったく負けていなかった
いや、それ以上に普段の異常に高い気位が華やかさを際立たせていた
姉を見て、その美しさにため息をつく男性もいた
名高い貴族の男性が姉にダンスを所望した
母と姉の夢の世界が現実のものになるような気がした
舞踏会場に一斉の拍手が起こった
王室ファミリーが登場したのだ
威厳のある王様に穏やかな優雅さを持った王妃
でも、全ての女性の目を奪ったのは王子様だった
気品あふれる雰囲気と端正な顔立ちに女達はざわついた
わたしもその中の一人だった
わたしは幸せだった。今、この場にいれることが幸せだった
わたしにもダンスを所望する男性もいた
でも、わたしの心は王子に取られていた
わたしは夢を見てるのか?と思った
全てが幸せだった