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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
一章 白い運命
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凶兆の白






 金曜が終わった。日付的にはまだ時間があるが、学生にとって学校が終わればもう、一週間が終わったような感覚になるものだ。

 鴻野家の車から降りる。いつも通学に使っている自転車は昨日、アスファルトへの衝撃によってスクラップになったばかりだ。今朝、日芽ヒメにセンラのための衣類を準備してもらった。そのついでに学校まで送ってもらい、さらに帰りも送迎してくれた。

「センラちゃん大丈夫かな?」

 日芽ヒメも車から降りる。というか、彼女もまたセンラの様子が気になるだけのようだ。僕なんかよりずっと頼りになる日芽ヒメが気にかけてくれるのはありがたいが、日芽ヒメが引き取ってくれなかったのはなぜだろう。

「まあ、一通り教えたし……」

 言いながらドアを開ける。食事はちゃんとできただろうか。何か怪我でもしていなければいいが。

 ドアの隙間から涼しい生活感が流れ出てくる。エアコンは使えているようだ。

「……ただいま」

 久しぶりに言ったような気がするセリフ。帰りを待たせる相手がいると、一日何をしていたのか気になる。生活が変わりつつあることを実感する。

 日芽ヒメが見ていることもあり、いつも以上に丁寧に靴を脱ぎ、荷物を置くべく奥へと。

「……」

 事実だけを言うと、部屋の中では白い狼少女が寝ていた。

「センラちゃん、大丈夫だった?」

 日芽が後ろから早足に歩いてくる。

 と、同時に、状況を目にした日芽が、咄嗟に後ろから目を塞いでくる。

「いや、今更だし……」

「今更でもダメ」

 ――それはもう、あられもない姿であった。

 最初に見た人型の姿が(ああ)だったことからも察せられるが、服を着る習慣が無かった可能性も考えられる。それともやっぱり服が合わないのか。どちらにしろ、せめてパジャマは寝ながら脱皮しないことを祈るばかりだ。

 日芽ヒメはこちらからの視野を遮るように、センラの衣類や布団をなおしているようだった。その間に僕は冷蔵庫を開ける。

 作っておいたオムレツは無くなっている。食器類も綺麗に洗われていた。炊飯器は触れられてもいないようだが、押し込み式の開閉装置はわからなかったようだ。

「起こしちゃ悪いし、私はもう帰るね」

 流石に暇すぎたのか幸せそうに寝ているセンラ。日芽ヒメも話でもしようかと思ったのかもしれないが、今日のところはそのまま帰るようだ。女性の身辺のことは、恋人などいるハズもない僕には分からない。いずれまたすぐに日芽ヒメの世話になることだろう。明日だって女性物の衣類や周辺道具を揃えるには日芽ヒメに頼みたい。義母よりも詳しいだろうし。

「幸せそうだな」

「え? うん」

 帰り際、靴を履きながらの日芽ヒメは軽く流す。それほど深い意味で捉えるような言葉でもなかったし、当然か。いくら日芽ヒメが聡かろうと。

「それじゃあ、明日また」

 センラに気遣ってかそっとドアを閉めて日芽ヒメは帰っていった。明日はセンラの生活に必要な物品を買いに行かなければならない。人の姿としてはまた異質なセンラは連れていけないので、日芽ヒメと二人で買い物に行くことになる。

 明日も一日暇をするのだろうか、とセンラの方へ目を向ける。幸せそうな寝顔だ。記憶が無いというのはどういう気分なのだろう。少なくとも今のこの姿を見るに、嫌なことを引き摺って悩むこともなさそうだ。自分勝手な解釈だが、無責任な視点だが、正直僕も過去の嫌なことをすべて忘れてしまいたい。

「んん……?」

 寝返りとともに布団を抱きかかえるように巻き込むセンラ。巨大な尻尾が振り回され、厚みを失わぬまま床へ広がる。わかってはいたが、寝相はいいようには見えない。真横で寝ようものなら尻尾に吸収されかねない。

 彼女は僕のことをどう思っているのだろう。過去が無ければ他人や男性に対して、偏見だとか先入観だとかいったものもないだろうし、中立的な見方をしているのだろうか。それとも、自分に怪我を負わせたうえに自宅へ拉致した変態か。

 口数は少なかったが、会話しての感覚としては中立か、もしくは生活の手段を頼っているといった具合に思う。僕はそう認識したが、本人がどう思っているかはもちろんわからない。

 ただ、それでも、安心して生きていけばいい。そのための場にしてくれれば、いい。

 もう少しの間だけ、センラがそうなっていけるように気を付けておこう。






 目が覚めたら食卓にはずらりと食器が並んでいた。

「起きた?」

 とっくに帰ったというような雰囲気のご主人は、先にご飯にしていたようだった。ずっと私が寝ていたからか。

「ひるめ来たの?」

 布団にはひるめの匂いがついていた。身だしなみの一環だろう香水のようなものは特徴的だ。少しだけ、とご主人は簡単に答えて、私の分も食事をよそってくれた。

「あ、炊飯器の使い方とかやってみる?」

 頷き、ご主人の傍へ。ご主人にとっては当たり前のようなことでも、私にとっては難解だったりする。とくに経験からくる直感的操作は、経験にあたることがらもほとんど忘れている私にとっては取り付きようがない。

 お米の香りがしていたアレの操作を、ご主人は言葉を詰まらせながらも説明してくれた。特別説明するようなことでもないのだろう。どう説明すべきか難儀しているようだった。

 それからご主人は、私が夕食を食べている後ろで何冊か本を選んでいるようだった。

「明日なんだけど……」

 聞けば、明日はひるめと共に私の身の回りの物を買いに出かけるらしい。また私は家にいる予定なのだとか。そのための暇つぶしを策してくれているらしい。

 わからないことはいくらでもあるが、ご主人にきいて少しずつ慣れていくのが一番やりやすいはずだ。だけれど、しばらく家の外に出られなさそうに言っていたし、家の中にいても身に付かない教養は本でも読んで身に着けておいたほうがよさそうだ。

 そうやって少しずつ私自身の力で生活できるようになっていけばいい。それは納得できる。

 ただ、一つ心配なことがある。


 いつもご主人からは哀しいにおいがするのだ。


 雰囲気と言った方がいいのかもしれない。鼻に頼った情報だけじゃない。口調、声色、表情、どれも生気がない……いや、まるで理想に近付くことをあきらめているかのような。

 私が生きていけるように周りを整えてくれているというのに、ご主人は自分自身にこだわりのないように見えるのだ。怪我をしていた私を気遣ってくれただけなら杞憂で済むけれど、布団だってロクに着ていなかったし、食事も私には食べさせるのに自分は最低限、といった具合だ。

 とはいえ私はただの常識知らずでしかない。だから、ご主人のやることに異議があるわけではない。他に何か求めているわけでもない。

 でも、せっかく私に向けられる温もりが、硬い木綿の織物で遮られてしまっているような、不透明で冷徹な感じ。

 誰もがそうなのだろうか。でもひるめは違った。

 私は――。

 私は、なんのためにここにいる?







 ここまでお読みくださった方がいればまずは感謝を。それから、これからもどうぞご愛読ください と一言。


 第一章の書き直しはこれで全話になります。3、4年前に書いて、少しずつ書き直したりはしましたが、ここまでガッツリ書き直したのは初めてになります。

 実は前々からあまり気に入った感じの小説じゃないなと思っていたんですが、その理由が拙文に過ぎるということ。例えばこの小説を宣伝しても、当然読み始めるであろう第一話があまりにもひどすぎる。

 文を書くための段落や決まりの最低限の知識も無く、なによりも慣れていなかったために、せっかく読んでくれた人が つまらないと読み進めるのをやめてしまうようなものでした。

 ですが色々と身の回りの環境が変わり、読んでみようかという方も現れるようになり、ひとつ書き直していこうと思い、なんとか第一章はやり遂げることができました。


 ちなみに第二章も同じくやっていくつもりです。また、第一章も時間とモチベーションがあればさらに書き直して読みやすく親しみやすく、また何より書きたいものになるようにしていこうかと思います。

 そのために、ぜひ新生第一章をお読みいただいた方は、気軽にコメント等お寄せくださいませ。できればポジティブな方で……。YouTube配信のコメント欄でも、Twitterのリプライでも、質問箱に放り込んでくださるのでも構いません。第二章以降、果ては続きの更新など、何より必要なモチベーションに繋がります。


 ここまでお読みくださった方々、ありがとうございました! そしてどうぞごひいきに!

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