表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
六章 白い神蛇
61/61

衰弱の姫






   (泉雫(いずみな) (つき)


 病院前のバス停で寺井(てらい)さんと合流した。

 鴻野日芽(ヒメ)はひとまず入院しているらしいのだが、この病院も狭くない。病室は数えきれないほどあるだろうし、そもそもどこからどこまでが病室なのか、どこから入ってどうやってたどり着けばいいのかも分からない。なので、それを知っている鴻野家の使用人である寺井さんに案内してもらうわけだ。

 それはいい。ヒメの病室まで案内無しでもたどり着けるように、病院内での道順を覚えておかないといけないが、それはそれでいいのだ。気になるのは、

「生徒会長さん、さっきの話って――」

「病室は別棟になってるんですね。私たちはこちらの入り口から入ればいいわけですか。お部屋もちゃんと覚えておかないと、次のときに困りますからね」

 この生徒会長さん、家に専属医師を雇っているレベルのお嬢様である。我々庶民の病院(、、、、、)は彼女にとっては珍しいものらしく、さっきからやたら興味深そうに建物の全貌から廊下の張り紙にいたるまで観察している。

 抱く思いにちょっと触れてはいけない部分もあるけれど、彼女からすれば大事なクラスメートのお見舞いだ。通うことにもなろうが慣れない場所のこと、ちゃんと様子や慣習を知っておきたいのだろう。 

そう、それもいいのだ。しかし、

「『物憑き』だとか、なんか聞きなれないこと言ってたけど――」

「私、本物の病院って初めて来たのだけど。消毒液の臭いなのかしら、あまり気分のいい場所じゃないわね……」

 今度は実際に気分の悪そうな表情をしたメイナが遮る。

確かに病院は独特の臭いだ。動物の嗅覚が優れているだとかいった話は、嗅ぎたいにおいに対してどの程度優れているかを言うものだ。気になるもの、異性、獲物など、自分が求めるにおいに関して例えば一〇〇倍スゴイだとかいうわけだ。だから、狼の嗅覚を有しているメイナやセンラにとっては、初めて来る場所の奇妙な臭いは不快なのかもしれない。薬品だし、毒性も無いとは言えないのだから。

ちなみに、いくら嗅覚が優れた動物でも、どうでもいい臭いに関しては大して人のそれと変わらないと言われている。この病院の臭いも、慣れれば狼のメイナたちも常人の何万倍も強烈に臭うことは無くなるだろうから、時間の問題だろう。

 センラもまた気にはしているようだが、そもそも記憶が無い分、双子なのにメイナほど気分が悪くはなさそうだ――って、それも別にどうでもいいのだ。

 俺が気になっているのは……、

「セート会長さん、『モノツキ』って何?」

 そう。それだ。ちょうど何故か抜群に間の悪い俺の代わりにセンラが訊いてくれたが、そんなオカルト理論を俺は知らない。

 生徒会長さんは記憶が無いだとかいったセンラの事情を知らないが、それでも彼女は、小さな子供に教えるような口調で説明しだした。わりとそういう役割は好きなのかもしれない。

「『物憑き』っていうのはつまり、よくないモノに憑りつかれて体調を崩してしまったり、様子が豹変してしまったりすることです。頻繁に起こることではないですが、霊的なものに不用意に触れたり、善くない行いをしすぎたりするのが原因になるようですよ。まあ鴻野さんがそんなことするハズが無いですが、獣の霊や一部の妖怪は、善良な一般人に憑りつくこともあるそうですし、私の鴻野さんにそんなことをする妖がいたら私は――……。ええと。そのですね、とにかく『物憑き』に遭って気分が悪くなって伏せがちになる人もいるのですが、そういった場合は病院に行っても『異常なし』と言われてしまうらしいです」

 それからも続けてすらすらと解説(時々、不穏な恋情)をお聞かせいただいたが、その内容は全くもって冗談に聞こえない。まるで数学の定理を説明してもらってるような口振り、『実在するみたい』じゃないか。

 生徒会長さんは無意味に冗談を言うことはないハズだ。ましてや無垢に問うたセンラに対して。それとも古典における知識としての話なのだろうか。

 それって――、と続けて訊こうとしたところで、また遮られる。機をうかがって話しかけては遮られしていたこともあって、もうヒメの病室には着いていたのだ。

「いないですね?」

「……いないです」

 俺が言うのに呼応した生徒会長さんが再び不安そうな表情になる。寺井さんがベッドの傍まで歩いて行ったが、そもそも個室、一目見て誰もいないのは俺にも生徒会長さんの目にも明らかだった。

日芽(ひるめ)さまは少し回復されていたようでしたが、まだ万全ではないでしょう。近くにいらっしゃると思いますので探してまいります。(つき)君たちはここで」

「いや、僕らが捜してきますよ。来たのは自分たちの勝手みたいなものですし」

寺井さんには、ヒメが戻ってきたときに入れ違いにならないようにここに残ってもらうとして、別に俺らは何も急ぐ必要もないから、自身で捜すことにした。

……と、いうか、センラやメイナの鼻を借りた方が手っ取り早いというのが本音である。






   (鴻野(こうの) 日芽(ひるめ)


 一つ目の要因は、そもそも私の体調が十分でなかったということ。

 二つ目に、近くのお手洗いが清掃中で、その次に近いところは改装中で、その次は……とやっているうちに病院の本棟まで来てしまったこと。

 結果。たくさんの科の並ぶ廊下待合所を借りてダウンしている私であった。

「お母さん! さっきお部屋の中にね――」

 後ろ側には小児科があるらしく、廊下に並行して並べられた長椅子には親子連れが三組ばかり診察を待っていた。

 診察室のある壁際に一列、広い廊下の真ん中に二列、反対の壁際にも診察室があればもう一列、つまり多いところで計四列、全体がやわらかい材質でできた直方体の長椅子が並んでいる。簡易待合所とでも呼ぶべきか、それぞれの科の診察を待つための場所だ。近くには自動販売機なんかもあり、休憩所としての役割もあるらしく、杖を傍に置いたお年寄りも紙パックの飲み物を片手にいくらか入れ代わり立ち代わり休憩をしている。

 そして私も利用させてもらっている。診察室の前ではないが、壁際に置かれた同様の長椅子。ちょうど柱があって角になっているため身体を預けるのに都合がよかったからだ。

「――でしょ、今日は早く寝るのよ?」

 さっきの親子は診察を終えて看護師さんの案内が来るのを待っていたい。説明を受けるとロビーの方へ歩いて行った。

 だが、私はまだ動けない。

 腕を上げるのも億劫なくらいに全身が重たくて、少し身をよじるだけで酷く頭痛が続く。丸一日横になっていて少しは回復したハズだと思っていたのだが、思いのほか私は不調だったようだ。確かに思いがけず随分な距離を歩いてしまったが、帰り道にふらついて椅子から立ち上がれなくなってしまうなんて。

 時間にすれば結構経ってしまったかもしれない。寺井さんはナツキやセンラちゃんを迎えに行ったし、ひょっとしたらもう私がいるハズの病室に着いてるかもしれない。

 そう考えて、ならば急いで戻った方がいいと思ったけれど、やっぱり思うように体が動いてくれない。

……私はどうしてしまったんだろう? 一昨日は普通に一日を終えて、普通に昨日の朝起きて、半日は普通に過ごしていたはずだ。特別疲れていたようには感じなかったし、倒れてしまうまで自分の身体に異常を感じさえしなかった。

だけど次に目が覚めたら病院のベッドの上だし、身体は全然動かない。

一日寝て、ベッドに座るくらいできるようになったし、そのうち病室内を歩くのも大して辛くもなくできるまで回復した。

 それで後は不運にも遠く遠くへと追いやられて、それまでなんともなかったのに、帰り際に急にまた振り出しに戻ってしまったわけだ。

 ていうかこの体調、座っているのも楽じゃない。壁に寄りかかって、少しは落ち着いている……と思うのだけど、なんだか熱っぽくもなってきたし。

 目の前で看護師さんたちがせわしなく通り過ぎていくが、声をかける気力もないし、もう少し待って体力が回復するのに賭けるしかない。


 だけど――


 もう、視界も―――






キャラや設定を忘れてるから誤魔化しながら書いてるなんてそんなことは絶対に決して100パーセントあり得ないです。ないない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ