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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
六章 白い神蛇
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執心の命







 夏、である。

 このクソ暑い中、身体を丸ごと絞るように汗を流し、どうしてみんなで仲良くお日様を仰いでいるかというと、

『――といった道具をお家で見たことがある人もいるかもしれませんが――』

 避難訓練、ということなのである。

 わざわざこの初夏の素晴らしき猛暑の中でしなくてもよいと思うのだが、そうは言っても学生諸君我々は、警報のアラームが鳴ったらお行儀よく列を成して炎天下へ避難しなければならないのだ。

 いい加減に座らせないと暑さで何名か脱落者が出そうな雰囲気だが、そんなことお構いなしにスピーカーからは定番のお話が流れる。

『――これは九〇年も昔の話ですが、皆さんが今立っているこの地域でも――』

 地震を仮定した避難訓練ではいつもこの話である。

 今から九〇年以上も昔、大規模な地震がこの地を襲い、市民の四分の三近くが犠牲になった、という話だ。九〇年前と言えば、戦前の、それもようやく鉄筋コンクリート造りの建物が田舎でも知られるようになった頃だ。学校ももちろんまだ木造、そんな中で起きた地震で、家屋倒壊率は九九パーセント、家屋の全壊全焼は九六パーセントに上るのだとか。流石に何度も聞けば数字すら覚えてしまう。

うちの高校の校舎も、前身であった工業高校が全壊したのだから、今の校舎は震災復興時に建てられたものだろう。この高校の歴史を知ろうとすれば、自然と行き当たるのがこの震災になる。


『――ですから、皆さんも常にこのことを念頭に置いて、いつどんな時に地震が来ても対処できるように――』

最後には定型文のような言葉で締めくくられるだろうが、そのあとは警察だか消防だかのお偉いさんが壇上へ。占めて一時間近く強烈な日光浴をさせられた後、解散の合図が出るや否や、学生たちは我先にと涼しさを求めて校舎の陰へと急ぐ。

 そんな中、

泉雫(いずみな)君! 聞きましたよ、鴻野(こうの)さんのコト!」

 呼び止められて振り返れば、お上品にハンカチをペタペタやっているお嬢様が駆け寄ってくるところだった。

 生徒会長、宇津見(うずめ)神琴(みこと)。『ヒメ』こと幼馴染み鴻野(こうの)日芽(ひるめ)とは違ったタイプの『お嬢様』だ。

 鴻野日芽(ヒメ)は確かに、人生が三回は過ごせるくらいの財産があるらしいし、境遇こそ幸せとは言えないが、しかし品行方正で成績もよく、家では傍に執事のように使用人を置いている姿は我々とは一線を画しているといえるだろう。

 幼馴染みであるヒメがどんな不幸に見舞われて、どんな世界に生きているかを俺もいくらか知っている。だが、この『お嬢様』はどうだ。

「私は今朝先生から聞いたばかりですから、今日の放課後に伺うつもりですけど……」

「見舞いに行くにしても大変そうだな、生徒会長さんは」

 この田舎に巨大な屋敷を構えるのは彼女の父親の趣味らしいが、彼女の家は高校からずっと離れた山の中に城のような広大な敷地を有している。普段は触るのも憚られるような高級車で送迎されるご身分で、自宅までの完全な直行便、寄り道も許されないらしい。

 そんな事情もあって、クラスにあるいくつかの女子グループには入れていないようだが、それでも品の良さからか、誰とでも気を置くことなく話せるようだ。俺や、虫をも愛せるヒメとでも。

ちなみに宇津見生徒会長、生徒会長なだけあって、ついこの前は試験が学年三位と貼り出されていたし、信頼からか教師陣とも深い交流があり、度々頼まれごとを受けている姿も見かける。

 つまり、教師ともよく話しているハズで、生徒会長という立場もあって個々の生徒の事情を把握してることも少なくない。急に倒れて病院に運び込まれたヒメのことも知ったというわけだ。

「てっきり生徒会長さんならまたヒメの家に押しかけてもっとはやく知ってるかと思ったけど」

「んな……っ」

そしてこの生徒会長さん(お嬢様)、あらゆる場面で完璧にふるまうのだが、ひとつだけ残念な面がある。

「べ、別にっ、毎朝のようにお邪魔してるわけじゃないですから……っ!!」


 ……そう。生徒会長こと宇津見神琴は鴻野日芽(ヒメ)にゾッコンなのである。







 その日の放課後、ヒメの家で使用人をやっている黒服執事のような老紳士、寺井(てらい)さんに案内されてヒメのお見舞いに行く予定であった。

 一旦俺は自分の家に帰り、それからまた高校のある町の大病院までヒメのお見舞いに。

「ご主人、この人なんか危ないにおいがする……」

 汗の雫すら上品に映える生徒会長たる超お嬢様に対して、訝しげにセンラは鼻を寄せる。

 当然、ヒメに面識のあるどころか衣服などの身の回りで世話になっているセンラも、オマケでその姉メイナもいる。

 一年前に拾った狼娘の妹、そしてヒメの巻き込まれた事件以来なぜか俺の家に居座っている姉狼娘だが、彼女ら『神狼』は人の姿をしていても狼のその耳と尾は残っている。どうにも神狼たる存在として必要な姿のようで、警戒すべき他人に触られるのを嫌う傾向があるらしい。

つまり興味本位で初対面の人に耳や尾を触られるわけにはいかないし、何よりもその姿は日常風景の中には異質すぎる。

しかし、今はそれなりに違和感のないように周りからは見えているハズだ。二人の故郷でもらった()のおかげで、周囲の人間は『不都合な部分』を認識しないようになっているハズなのだ。

「生徒会長さんはヒメのことになると心臓が止まるくらい緊張するんだよ。心配するときとか興奮してるときとか」

「ばっ……!?」

 息を切らせるお嬢様の上気した顔がさらに赤みを増すが、このご執心の具合はさほど知られていないにしても確かなのである。

 寺井さんとは病院前のバス停で待ち合わせしている。そこまで俺は伸縮自在の身体の神狼姉妹を荷物にして自転車で移動していたわけだが、この生徒会長さん、まさかまさかの全力ダッシュでかなりの距離あろう自宅から追いついてきたのだ。プロのマラソンランナーが見たら失神するかもしれない。

「まあでも、お見舞いに行くのだから一人増えてもいいんじゃないの?」

 メイナは言うが、この生徒会長さん、一人どころか十人分くらいの勢いで心配している。すでに応急的な検査は終えて、医者に掛かってから問題ないと言われているのに、だ。

「でも、急に倒れて『問題ない』ってどういうことなんだろうな。過労や貧血でももうちょっと何か言われそうなものだけど……」

 言ってから、生徒会長さんが今度はスッと青ざめた顔つきになったのを見てしまったが、俺だって心配していないわけじゃないんだ。口に出して少しは落ち着きたい。

が、それ以上に頭を混乱させる一言が、冗談など似合わない生徒会長の口から飛び出した。


「物憑きなどは医学で判別できないと言いますし、人狼? のお二人が何か気付かれればいいのですけど……」






六章まだ書けてないけど先行投稿します。

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