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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
五・五章
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五・五章











     






 鴻野(こうの)日芽(ひるめ)宅。

「――泉雫(いずみな)(つき)様と、ですか?」

玄関を入ってすぐの部屋。十分な日光が必要な生物が多く住み着く(主人(ひるめ)公認のもと)この家の、リビング兼食卓。

 妖狐、(こどく)

 九尾の狐の殺生石の欠片から成った妖怪のひとつ。日芽が、妖狐になれず石の姿だった彼に関わった際に、ようやく妖狐に成れた彼もまたここに住み着いている。

 この家の危険生物から、餌ジャナイ認定をもらった双尾の狐は、やっと落ち着いて日光浴(室内、たまに横にカメ等が居る)ができるようになったのだ。

 そんな彼を特に見るのでもなく、古くからの親友のカミツキガメの前脚をもっにゅもっにゅしながら日芽は、

「そうそう、結局ちゃんと事件が解決したのかも分からないけど、ナツキさんもすぐに連絡ができるようにしてくれたし、このコたちにも緊急の時は電話を使えるように教えておいたの」

この家、人間の(、、、)家族は、日芽と、それから彼女が幼い頃に亡くなった両親が雇っていた使用人の寺井(てらい)八次郎(はちじろう)の二人である。


 ただしこの家では――、


「日芽様。ワニガメから(、、、、、、)伝言…?です。『ミドリガメらの池の掃除をしようと思うけど、構わないか』と」

「…うん?あー…、うん。今日はとくに人通りが多いようなイベントも無かったと思うし、一応ネットが外れてないかだけ見ておいてくれない?」

「わかりました。それから彼は…」

そう言って八次郎は、日芽の肩へ目を向ける。

「ん…?コブラ、あなたも行くの?それと準備しだしてるけどクモさん、あなたは溺れる…」

この季節でこの家の池の環境ならば、掃除は週一回程度で済む。これまでは主の日芽がやっていたのだが、何分、今の彼女は右手と左脚などは負傷で充分に動かせない。その為にまだ杖無しで歩くにもなかなか辛い状態なのだ。

 水辺掃除担当ワニガメと、『事件』のタイミングで目的と逸れてつい日芽に懐いてしまった大型のコブラ。日芽の黒、茶、赤などの、生まれつき疎らの髪に潜り込んで遊んでいた、その髪に似てブラウンのマーブル模様タランチュラの彼…は、準備はすれど、そのまま日芽に掴まれ、引き留められてしまった。

 ちなみに。単にタランチュラを飼っている程度では、ペットショップ店員でも慣れていなければ彼女のようにがっしり掴んだら嚙まれるのが自明の理である。

 無論、ただの女子高生、鴻野日芽は(いわゆる)危険生物専門店で働いてもいなければ、その手の生物の研究職でもない。彼女はつまりそういう体質なのだ。

「それでは。彼だけ連れていきますので。私も手伝います」

そう言うと、老執事とも見える八次郎は、コブラを引き連れて外へ。

 八次郎に懐いているというよりは、動物たちからすれば、彼も日芽(あるじ)に仕えるのに彼らと変わらないということだろう。当の日芽は対等に家族として見ているようだが、さて対象者はどう考えているのか分からないものである。

 完全に姿が見えなくなると、カミツキガメの甲羅に乗っかって(こどく)は、

「で、(つき)様とはどんな方なんですか?」

「ただの幼馴染」

「それはラブコメだと『コイビト』って読むんですよね?」

「…なんであなたがラブコメなんて知ってるの…」

日芽はややまいった調子で言うが、追い打ちをかけるは妖狐でなく、その下のカミツキガメ。

 言葉にはできないので、意思疎通にのせて前脚を使って、日芽の手をべしべし。

(やっぱりあの人間(おとこ)は姫様の想い人だったのか…)

「―ッ…違うしっ……‼――ていうかカメさんはそんなこと考えなくてもいいのっ‼」

「普通にカメと話さないでください…。その影響か貴女の留守中に彼が話しかけてくるんですよ?まったく何を言おうとしてるのかわからないですけど」

かく言いながらも、日芽の手の中から脱走したタランチュラから逃げ回る(こどく)


 対して、ガラス戸を挟んだ向こうでは、池の縁に黒いミドリガメが重なり合い、押し合いして屯していた。どうにも近くの山や池から勝手にやってくるらしい。

「さて、(わたくし)は何をしましょうか。まださほど汚れてはいませんし、今日は池の岩を揚げる必要もなさそうですね」

経験豊かな彼が、自ら判断して動くのでなく、リーダーシップを張るワニカメの指示を仰ぐには理由がある。

 つまり、彼らは使う彼ら自身の手で掃除をこなすのである。故に八次郎は使用人といえど手伝いに過ぎない。この家に限っては、人間も彼ら諸々の動物の一員である。――唯一、主の日芽を除いて。

 なお、当の日芽だけが皆と同じ立場だと思っているらしいが、八次郎含め、彼らもまたその主従関係に頑なであった。


 妖狐をタランチュラが追いかけ、部屋から飛び出していくと、部屋に残るカミツキガメは主が彼女の手の中から抜け出す。

「何?あなたも行くの?」

彼女の元のカミツキガメは巧みに段差を伝って、床へ降りる。

 それから器用に背の低い冷蔵庫を開け、咥えて取り出したのは人体用の冷却シートだった。

「どうしたの?――え?私の顔が赤い…って…?――…っ……あぇ……?―――」











 某県F市。海沿いの巨大空港。

 ちょうど数分前に、超音速の最新鋭旅客機が到着したばかりだ。

「向こうから二時間もかかってないぞ…?途中ワープでもしたかな…」

「せいむ様ずっと寝てたからじゃないのです?」

空港内を歩く二人。

 比べて背の高い方は、服装次第で女性にもなってしまいそうな少年。片手でまとめて荷物を担いでいる。そうでない空いた手は口元へ、欠伸に重ねて、

「流石に四日間不眠不休だと…な」

 もう一方、小学生並みに低身長な少女の方は、相対的に大きく見える小型端末を操作する。後ろの方へ細く長い尻尾が伸び、赤と青の入り混じったような不気味な光沢の黒髪からは猫のその耳を覗かせている。

 小さな彼女は、似つかわしくない大量の情報を表示する端末画面から一度目を離し、

「でも半年分の生活費は稼げたようですよ」

「焔ちゃんはずっと遊んでただけじゃん…。二人で半年分って、私一人なら一年近く生活できるんじゃねぇか?」

「どうせせいむ様は暇すぎて働くのです」

「やっぱりその間焔ちゃんは遊び暮らすんだけどな」

図星を指されたのか、『焔ちゃん』はやや目を逸らしてしまった。しかししっかりと端末は視線に沿って揺れる。

 なお、その画面は複数の言語の暗号化されたままの情報でなく、ごく庶民的な地図アプリに切り替わっていた。


 ここはF市。国の統制からもっとも遠い場所であり、どういう理屈か独自の運営を成し、まるで一つの国としても成り立っているような、実験都市(、、、、)

 F市は実験的、つまり先駆的な技術をそのまま自治に用い、日本に属していながら市内だけはSFのような世界観を醸している。

「それにしても…。『妖怪』、ねぇ…」

「『だしろ』の能力の影響は一部例外があるみたいなのです。私のせいかと思っていたですが、そういうわけでもないようですよ」

ここ数日、彼らはその『妖怪』関連の依頼で海外に飛んでいたわけである。

 この少しずつ位相の複雑化した世界において、『妖怪』は未確認生物というよりも、突然の落石や雷と同じで『自然災害』に近い。

 さらば、それ自体をいかにしても、まだ咎められるような法律も無い。

「高額だし、文句は言えねえケド。ありゃどうすんのかね?あんなモン持ってきて…」

彼らの任務は終わっている。『それ』はもうF市に引き渡してあるし、ちっちゃい猫少女の端末で振り込みも確認されている。

「でも、せいむ様こっそりセーフティ作ったのです」

「それ付けたの焔ちゃんだけどね」

「にゃ……っ⁉」

今更になって騙されていたことに気付いたのか、硬直して銅像になった焔に構わず、少年は歩を進める。

 彼女は『日本製の悪魔』。ある程度は無茶苦茶な事象も再現できるわけだ。

 それが前方を知らぬ顔で行く『天才』の要件でも。

(台風はナシ。不自然な前線も気団もナシ。隕石も特に見つからなければ、地震も数日以内に起きやしない、か…)

少年は、自分の端末で近い未来の天災を検索する。

 しかし、特に芳しい結果が得られなかったのか、さっさと端末をしまい、まだ後悔中のネコミミを眺めながら、彼はあるひとつを可能性と絞る。

(そうなると…。神話上の化け物…いや、『妖怪』、か…)











 九狼神郷(くろうかみがさと)夢白(ゆめしろ)邸。

「―――ならば、私が代わりにやります」

「…。……(…ぷっ)」

「い、今笑いましたよね⁉確かに‼」

「…いや、失敬失敬。なんというか、やっぱり貴女は優しすぎるもんだから…。じゃあ、貴女が訊いてくるといいよ。その間我々は準備でもしておくからさ」

広く、そして豪奢を尽くしたその部屋には、二人の『九狼』。

 その内容のわりに、酒に映るはただ自信に満ちた好青年の笑みである。

「…わかりました。訊くだけ聞いて、それだけで帰ってきますから」

「四人で帰ってきたらどうすんのさ」

「そ…っ…、その時は…その時で…」

彼女もまた、このやわな『世界』に振り回されていたのだった。












 そして。或る無駄に敷地だけは広い古アパートの一室では――


「――え…?」


 少年は、部屋にはじめから在った固定電話の受話器を手にしていた。

 一見冷静な彼だが、あくまで表に出ないだけで非常に繊細な性格なのが彼―泉雫(いずみな)(つき)である。


 そして、その齢になって初めて人を愛することを知った少年である。


 電話のあるのはキッチンスペース横の棚だが、少し距離を置いたリビングで、散らかった漫画を片すのは二人の狼少女。

 その内白い方は、テンプレなれど片付ける筈の漫画を開きながら、

「誰…?」

「ここじゃ声聞こえないわね…」

黒い方は高く積んだ漫画の山を一旦棚に片付け、

「センラ、電話はにおいまで伝えないわよ?」

「…そうなの?」

白い方、すなわちセンラは記憶喪失ながら、それで説明付かぬほどハイ(?)テクオンチである。

 そんな(いと)(びと)の様子に気付いたのか、それとも不器用の彼はただ要件を聞き終えただけか、一旦受話器から耳を離して、自分がまず十分に落ち着いてから言う。

日芽(ヒメ)が…、倒れた(、、、)って…」

「…えっ」

「…誰?」






 ――かくして、日常はそも、知る日常ではなくなりつつあった。

 それは人を愛したがために嫌厭を生もうとも、既に始めた落下は止められやしない。



 ()に強いられんは、其の少女を変わらず愛せよと云うことだけである。






 ――賽は投げられた。






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