白月の願い
創白の領地、昔の創白が村。
「…月様の匂いはこのまま先へ続いています。ずっと直進です」
「わかった。他に情報は?」
夢白当主、夢白夜を横抱きに抱えながら、百間星夢は問う。
「また表情から読んだですか」
「夜ちゃんはわかりやすい。焔ちゃんもだけど」
問いかけた筈の焔の方が少しばかり驚いた表情を見せるが、夜はそれに気付かずに、
「…武白のお二人の匂いが途切れました。それから月様の焦るような匂いが残っています。これは…」
「こっちも一筋縄ではいかなかったか。だけど今ここに居ても仕方ない。後を追おう」
そして、川を挟み、少し林を抜けた先では。
「……。」
武白の能力は『対人戦闘』。そして『制圧』。
輝白の、俺の貫いた傷は、もうすっかり修復されていた。
《ここまでが『能力』らしいな》
武白は、別に相手が人でなくても攻撃性は発揮できる。ただし、対人で相手を傷付ければ、その本質に従って、相手を昏倒させたうえでその傷だけを修復する。
つまり『制圧』。
カリナは引っ込めた。彼は幽霊であるから、見える部分が傷付いたとて、死にはしない。
そして、センラ、メイナは……――
花の一つもこの場にはない。姉妹で寄り添い、そして上着を掛けてやることしか出来なかった。
もういまや魂の所在すらも分からないが。どうか…、どうか――。
気付けば、足元には、地下に続く扉があった。少しずつ場所を移動していたためか。
「…」
言葉は出なかったが、地下に何があるのか。
全くの勘だが――
『白の門』。
地下であるのに薄明るいのは、この『創白の奥義』なる造形物が、白く妖しく光を放っているからか。
創白当主、期規さんの娘、期沙ちゃんの話では、くぐればいいという話だった。
見た目は木造りの門をそのまま物質だけ変えたようなものだ。重々しい門だが、押せば意外にも簡単に開いた。
「……っ」
この涙は…、溢れた眩しい光のせいか。いいや――。
――最期に…。別れを告げることも、顔を合わせることすらも叶わなかったが。
どうか、この場で。
この神々の故郷で。
…。
この扉は、願いを持ってくぐりさえすればよい。
ならば。
願わくは――
合理性でも、正義すらもなく。
俺は―――。
ただ愛した人が、安らかにあり続けることを――――――
温もりがあった。
懐かしい匂いも。
重たい瞼を上げるだけでも面倒な程の幸福感に満たされて。
ああ…、いつまでもこのまま――、とも願ったこともあった。
「――。――?」
声はゆっくりと。優しく。
いつも聞いていた、その声。
私の愛したその人の――。
日常が。
そこに在った。




