黒に白く
私の力が足りなかった。
「―あ……?」
姉の声には力はなく、鉄の匂いが辺りを満たした。
「姉っ‼‼」
ごぼっ…、と、返答を試みたのか、姉は咳込んだ。が、正常ではありえないほど水っぽい。
私が守り切れなかった。
それ以外に起こった事を説明する言葉は思い付かなかった。
「姉…っ‼‼」
そんな事情なぞ意にも介さずに、次の黄金の攻撃が襲い来る。
全快の姉が叩き砕き、背後で私が盾となって輝白の攻撃を凌いでいたはずだった。
だが、私には…。こんな私では力不足だった…。
「姉えええええええッッ‼‼」
愚かさを悔いているわけにもいかず、動きを止めた姉を『黄金の触腕』から守らなければならない。
しかし――
無情にも、黄金は威力を弱めはしない。
姉に覆いかぶる形で『防護』を展開させるが、少しずつ武白の能力の媒体の光は弱まり、一定間隔で残弾補充のために攻撃が止むとはいえ、それよりはやく能力が切れる――…っ‼
もう涙で視界は埋め尽くされていた。様子を見るだけの余裕も視界も無い。自分の傷の痛みなどどうでもいい。姉の貫通傷に比べれば。
「ぅぅぅぅうううう……‼‼」
明らかに防護は弱まっている。それは痛みとなって生々しく伝わってくる。
既に、背以外の防護は解けていた。貫通されるだけの厚さでは意味が無い。例え蛇ほどの太さの黄金が四肢をもごうと、頭部急所とと姉さえ守るだけの面積と厚みに集中させられれば…‼
「――ッ⁉」
だが、実際に私の腕が吹き飛ぶことは無かった。
「姉っ⁉なんで…‼」
私が覆いかぶさって盾になっていたその中から、姉は跳び出し、連続で変化して強引に傷を塞ぎ、降り注ぐ黄金を砕き、砕き、砕き、砕き、砕き、砕き――――…………‼‼‼
「―――妹を…‼殺させは…しない……ッ‼‼‼」
実姉といえど、姉の行動の意味は分からなかった。
あれだけ自分が守っておいた相手に背を預けた挙句、そいつのミスで自分が傷ついた。ドラマだったら真っ先に不要な、誰もが死んで償えと切望する登場人物だろうに。
なのに、姉は――
「なん…で…?」
姉は、こうしている今も黄金をへし折り、砕いていた。
もう防護を展開できず、立つだけのチカラも使い切ってしまった私を護るために。
「あなたには…もう…」
姉は―――。
「人死に触れさせたくない……ッ‼」
動けなかった。
どれだけ身体に力を込めても、震えるばかりで立ち上がることさえ、かなわない。
ご主人は私の能力の限界を調べはしなかった。私に気を遣ってのことなのだろうが、ここまで限界がはやいと…。
一度でもいい…。
一度でも、姉が捌ききれなくなるよりもはやく、もう一度盾に……‼
幽霊雁啼の目を借りて空から見たよりも、自分の目で地上から見た方が広く見える。コケに近い雑草が土色を隠し、錆びてボロボロになった鉄の器具や、半壊した倉庫のような石造りの建物があった。
レンガとは少し文化が違う、石垣を壁にしたような黒い石造りの倉庫は、広場の外の側の壁と一部の屋根を残して崩れてしまっていた。近寄って見てみると、中には金属や石でできた、用途不明の物品だけが散らばっていた。木や紙は朽ちてしまったか。
鉄の器具の方は…。
もともとどんなものだったのか見当もつかない。朝礼台が錆落ちても、自転車がバラバラになってもこんな感じになるだろう。造りは割としっかりしていたらしく、支柱の一部もギリギリ残っていたが、この広場に複数のそれが残っている。
見た感じ、一〇〇年以上は経っているだろう。
「神殿…みたいな感じか?役目は神社・神宮に近いかもしれないけど」
「昔のお屋敷があった場所かも。昔の創白のお家は火事で燃えちゃったって。それで今の場所に降りてきたんだって」
確かに、背の低い地を這う種類の雑草の下には、広い範囲で煤っぽい黒い地面があるようだった。燃え残りの木材がほとんど見当たらないところを見ると、だいぶ昔のものだろうが、僅かに煤の臭いも残っている。
夜さんの話から察すれば、『はじめ』から今まで、九狼は絶対的な統治者であった筈だ。そうは言っても分権されているからか、その統治に反旗を翻す者は無く、一部の小狡い犯罪程度はあったかもしれないが、皆平和に暮らしていたのだろう。
そうなると、誰かが昔の創白邸に火をつけたというよりも、事故の類になるか。
「ここが君の祖先のお屋敷だったなら、この場所は縁がありそうだ。『白の門』があるかもしれない」
倉庫…には無いか。一応探ってはいるが、やはり何もめぼしいものは無い。
となると…。
「ツキ様。これ…は?」
期沙ちゃんは少し離れた場所で同じく『白の門』を探していた。あまり離れすぎると何かあった時に手が届かないので、精々俺の今いる古くて半分ほど崩れた倉庫から、一〇メートルも無い辺り。
草に埋もれていたので目では見えず、特別変わったものでもなかったから、遠くからにおいで探ることもできなかったが、
「ハッチ…?下へ続く空間への扉だね…」
地下がある。木造建築だろう地上の建物が全焼したとすると、延焼して地下空間ごと燃えてないことから、どうやらもともと地下には空間が在ったらしい。
多分建物が立つよりもさらに昔から。
地下の空間と繋がる状態で、その上に建物を建てたのか。
さすれば…
そう考察している内に、やや遠くを捜索していたカリナが思考を遮って、
《おい、お前‼この空間――》
ただし、カリナの声もまた、途中で遮られる。
ビシッ‼‼
と、まるで偽りの景色を映し出していたスクリーンが砕けるように、空間そのものが、砕けた。
「―――は?」
その空間は、一点に始まって全体へと亀裂が広がっていき、最後にはすっかり砕け散ってしまう。
偽りが砕け、現と交わったそこには―――




