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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
五章 白き郷
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郷の夜






 『九狼神郷(くろうのかみがさと)』、民を治める権力者が一人、夢白(ゆめしろの)(よる)が宅。その屋敷がそもそも広大でありながら、そんな大屋敷の大広間。

 広さはもうここまでくると何畳あるのか分からない。ただ、隅に立ったら反対側に立つ人間とは会話が大変なくらい広大である。

「…。それでは、本題を簡略にして説明します」

これだけ広いが、無駄に距離を開けても意味がないので隅の方に六人が席をとり、残りの席には夢白の配下が大勢宴会を開いている|(正確には平常業務の士気挙げの意が大きい)。

 そのうち端の一席に主の(よる)さんが座る。やはり正座を崩したような座り方なのは、多分この郷ではこれが接客として正常だからだろう。

「いいご身分なのです」

「うぅ……」

(ほむら)、いい加減にしないとまた夜さんが泣くわよ」

「ぅう…年下しかいないのにどうして私は……」

「だからって例外なく年下の僕に寄り掛かられても困る」

「月クン、君は世の男に恨まれるぞ」

星夢はそういうが、だからといって俺は見本的イケメンとは違うんだ。甘い言葉の一つも吐けなければ、どう声を掛ければ適切なのかもわからない。

 しかし、夜さんが端に座るのはいいとして、恐らく主客であろう俺が対面でなく隣に座らされたのはこういうことか。今からでも遅くない。席を変わろう…。

「…あれ?」

「……あなたの席はここですよ」

「」

この狼姉さん、何気にものすごい力で押しとどめていやがった。そうまでして隣に置いておきたいか。それで夜さんが話しやすいのならば…。俺は特に何もできないが、仕方ない。

「すぐにでも本題に入りたいところですが、その前に何かありますか?」

「夜ちゃん。とりあえずどうして泉雫(いずみな)君を呼んだのか、それを知りたい」

対面に座る星夢が切り出す。彼の隣にネコミミ解放焔ちゃんが座り、俺の隣はセンラ、その対面で焔ちゃんの隣にメイナが座る。

 星夢の質問はある種の誘導として機能する。やや本題から逸らして問うて、この質問は本題に繋がりやすい。しかも、周りが宴会モードで騒がしい雰囲気の中ならば、気を紛らわせられるが話辛い本題に導きやすい。

「…わかりました。まず、この郷で起きている事の現状ですが、主犯格は輝白(かぐしろ)。黄金を操る、我々と同じ九狼(くろう)が一人です」

「ちょい、夜さん、そんな簡単に口にしてもいいモノなのか?それは――」

分かりきっているのに(、、、、、、、、、、)裁けないんだろう(、、、、、、、、)?」

遮って、再び星夢が主導する。彼は続けて、

「『クロウ』がこの郷…具体的にどんな規模なのかは知らないが、ここらを統治しているんだろ?九つの統治者が分権して在ると云えど、彼らは皆『裁く側の人間』だ。具体的にどういうルールがあるのかも聞いておきたいところだけど、トップが黒幕ってなると厄介なのに変わりはないってことだね。国民審査なんてものもなんにもなさそうだ」

「…その通りです。今この場は『夢』に統合されますから、私が指定しない人間は文字通り夢のように忘れてしまうでしょう。ですから十分にあなた方へ話をすることができます」

夜さんはようやく俺の肩から離れ、座り直して、一つ息を吐いてから、

「月様をここへ呼んだのは、貴方が『武白(たけしろ)』の力を継ぐ二人を保有していたから、ということにつきます。偶然にも、私の『夢』の干渉を妨げるようなやや複雑な魂をなさっているようでしたが…」

雁啼(カリナ)のことか。幽霊の」

「恐らく。して、武白のお二人は貴方に心酔しているようですので。貴方と共に、唯一九狼と戦うことが許される武白家の彼らの存在が必要だったのです」

(たけ)(しろ)、ね。なるほど、そりゃ月クンが必要だね」

夜さんは口ごもりながら謝罪みたいなものを言っていたが、今の状況を再認識したのかすぐに表情を戻して話を続けた。

「始まりは四年前。先代夢白(ゆめしろ)継承者、すなわち私の母は、輝白の手によって、暗殺されました」

「「―――っ⁉」」

意図してか、いたって冷静な調を取り戻した彼女の言葉に、その場の全員が言葉を失った。

 確かに紡がれた『暗殺』という二文字。しかも、夜さんの母親を、と。

「不足な説明で申し訳ない限りなのですが。先に申しました通り、輝白(かぐしろ)の神力は黄金の操作。凶器も証拠も残さずに母を殺害し、そのまま姿を消しました」

しかし、…いや、ここで口を挟むべきではない、か。

 そんな心情は無論気にせず、されど一人一人の反応を待つようなゆっくりとした調子で続ける。

「証拠はありませんが、目撃者がありました。しかし、その者にまで危険が及ぶと、その記憶を人に語ることは許されず、焦ることも許されずに対抗できるまでの時間だけが問題でした」

ようやく衝撃から解放されてか、星夢は口を開いた。

「その内容からするに…」

「…はい。私が、当時本当に偶然に母の居た部屋を訪れようとしていた私一人が母の死を目撃していました」

「…夜さん」

彼女は、震えていた。

 四年前というと、彼女は今の俺よりも少し若いくらいの頃か。その年齢で、母親を目の前で殺されて、その心内が如何にあったか、想像もできないが果てしなく辛いことであったのは確かだ。

「その後、戦う為の神力は持たぬ九狼は護衛を再整備し、どうにか統治を続けてきました。」

ただ…と、彼女は続ける。

「私は『夢白』、『夢』を司る九狼であり、統治はすれど、その神力は戦う為のものではありません。輝白が母を殺害した理由はわかりませんが、母の死で半ば強引に『夢白』の能力を継承した私も危険である、と、護衛を買って出てくれたのが創白(だしろ)家当主、創白(だしろの)期規(きすのり)様です」

流石にこの流れで法則が読めない程ではない。始まりの神々の力を継ぐ家系は、力の種類+白の姓を継いでいるわけだ。そうであれば『ダ白』もまた、九狼だろう。

創白(だしろ)の能力は『創造』。言葉にすれば夢白の能力に似てしまいがちですが、かの能力は根本的な創造の性質にあります」

彼女が語ったものをまとめると、大体こんな感じである。


 ・『創白(だしろ)』とは、世界の構成そのものを創り、(こわ)す能力である。


 ・『創白』の全開能力は代々禁忌的手段とされ、庭訓として定められた以外の能力は使わない。


 ・『創白』の振るう能力は、『時間停止』と『予知』だけである。


「時間は人間が創り出したものだという考え方がある。人が時間を扱うようになるまでは、そもそも時間なんてものは無かった、とする考え方だね。そういう人間の勝手に創り出した概念を、『神の力』で別に創り、例えば人間の概念とズレを生じさせて未来を視たり、一瞬を引き延ばしたりできるってことだね」

「私も十分には理解していないのですが、恐らくその認識で間違ってはいないでしょう」

「それで、正当防衛のように襲ってきた輝白を返り討ちにして捉えるといった方法がなされていない、というと」


「二日前の輝白の襲撃で重傷を負った彼は、今私の『夢』に収容されて療養中です。もう、一五年前に郷から姿を消した『武白』という矛に頼るしか…、我々には…」


 彼女に説明されたとおりの創白(だしろ)の能力が、聞いた限り『黄金を操る』という輝白の能力に、純粋な戦闘で敗れるとは考えづらい。

 そうなると、いくつかパターンが想像できる。輝白の『能力』が皆の想定を超えて上達していた、だとか、どうしようもない搦め手を持ち出してきた、とか、ド素人の高校生でも尋常でない状況だとわかる。そこまででないにしても、結局は現在進行形で夢白(ゆめしろの)(よる)は命の危険に晒されていて、まともに身を護る手段がないということは変わらない。


 そうなりゃあ俺が採る選択肢なんて決まっている。

 俺自身は雁啼(カリナ)に頼らなければ何の戦力にならないにしても。

 俺では星夢(せいむ)ほどのブレインにはなれやしないにしても。

 俺は焔ちゃんやメイナ、そしてセンラのような、純粋火力になれないにしても。


 できることすべてを、じゃあない。それが例え不可能に見えたって、それがセンラの故郷のためならば。四年間ただ独りで恐怖と戦い続けてきた夜さんの、彼女の頼みなら。




「わかった。任せてくれ、とはとても言えないが、夜さん、一緒に郷を救おう。そして、皆が最後に笑って帰れるまで一緒に走ろう――」




 覚悟は決まった。もう自分を嘆くのも気は済んだか。

 あとは、戦うのみだ。










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