??? - parallel 2 -
「狐ちゃーん?ちょっと手伝ってー」
その声にピクと耳を反応させて、中型犬くらいのサイズの狐が廊下を駆ける。尾は二又に分かれ、その表情には人間にのみ与えられる色彩を伴っていた。
管狐のように、殺生石の破片から成った狐の妖怪。既に存在として名は与えられど、しかし姿を成すことは能わなかった妖狐である。
「日芽様‼貴女は少しと言わず荷物は持たなくても‼」
鴻野日芽宅。丁度老いた使用人が買い物から帰って来たタイミングである。
「痛っ…⁉」
「ちょっと‼姫様、怪我してる右手でなんて持っちゃダメですよ‼」
「…狐がしゃべった…?」
「あ、うん、新しいコ、ね。狐ちゃん」
執事の彼一人では生活用品を買ったとしてすべて持ちきれないわけで、裏口から入ってそこに一度荷を降ろすのが普段の流れである。
日芽と使用人の彼だけがこの家に住んでいる。以前は彼女の両親が住み、病気がちな母親を助ける意味もあって使用人として彼――寺井八次郎を雇っている。…雇っているとはいっても、本来の雇い主であった日芽の両親は亡くなり、しかし幼い日芽を残して去るわけにもいかなかった彼は、日芽の願いもあって、今は一緒に住んでいるに至っている。
さながら祖父と孫娘のように、八次郎が他の家庭へハウスキーパー等をして収入を得、日芽が自宅を維持する。この関係が今は黄金であるのだろう、日芽も八次郎もお互い支え合っているのだ。
「ごめんねカメさん…」
「彼、上手に運ぶんですね」
結局スーパーの袋は狐の狐には持ち切れず、出たはいいものの怪我が残るまま杖を突く日芽にも持てず、しかし八次郎に往復させるのも申し訳ないと思ったのか、その意図を汲んで四〇センチを超えるカミツキガメが狐が甲羅に載せた荷物を運ぶことになった。
「日芽様、いつもありがとうございます。助かっております…」
「運んだのはカメさんだけどね」
しゃーっ!とカミツキガメの彼が返事(?)を示す。何気にこの中で、八次郎の次に日芽と古い仲になるのが彼である。日芽が動物と会話をできるのも、彼女の超人的才能と共にカメの彼とずっと一緒に過ごしていたこともあるのだろう。そもそも日芽はほとんどの動物と仲が良いわけだが、カミツキガメの彼は増して心が通じ切っているのかもしれない。
「狐ちゃんもありがとうね」
「いえ。…ていうか『ちゃん』なんですね」
「イヤ?」
「…いえ」
狐はやや考えたが、後ろに危険生物が控えていることを考えると、肯定するほかないと判断したようだ。
(…ていうかこの辺の動物たちは飼育禁止されていたものばかりな気がするんですが…はて…)
「えっ?何か言った?」
「……いえ」
「日芽様、それでは私はまた二時間程仕事に参りますので」
「あっ、うん。また私が作っとくし、十分気をつけて行ってね」
それから簡単にかつ丁寧に八次郎は返答して再び裏口からへ。
曜日によっては彼は仕事先の過程で夕食を作らなければならないので、それならばと日芽は自分と家族の分の食事を支度し、ついでに万能餌及び簡単な料理を同居する多々生物に振る舞う。
鴻野家はそうやって成り立っているのである。




