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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
四章 白い存在
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一難の姫






 声すら聞こえずに。

 ご主人はそう表現してよいかわからない程の異常を伴って、殴り飛ばされた(、、、、、、、)

「ごしゅ…――」

叫びかけて、もうすでにその姿はなくなってしまったことに気付く。あの先はどうなっているのだろうか。木々を切り破って、その先は…。

 咄嗟に御主人の殴り飛ばされた方角へと走り出していた。何かを考えるよりも早く。

 だけれど、もっともなところで忘れていた。

「―――………あ…」

振り向きざまに単純に殴られた。

 私自身も理解できていない『防護』が機能しない。いや、確かに『白い光』が発現するが、それを無視して肩を殴り抜けられる。

 塗向く動作の最中であったからか、急所を撃たれることは無かったが、鈍い痛みに左腕がしびれて動かなくなる。

「う…っ…くぁ…」

続いて拳が迫るが、どうにか残った右腕を犠牲に…

「…⁉」

いや、拳はフェイント……っ‼


 ドズッ‼‼

 と、最小限の動作に交えての足蹴が私を弾き飛ばした。

 そこそこに広い庭だと思っていたが、そこを転がされる気分には狭く感じられるのである。背の低い茂みを突き破り、そのまま今度は背の高い草の地に転がり、ようやくのことで止まる。

「あぐ…っ…ぅ」

そのまま勢いづいて起き上がろうとしたが、強烈な痛みに動きが止まる。

 その隙に、どうやったのか恐ろしい速さでソイツは飛び込んできた。速さに圧倒されていたのもあるし、そもそもダメージが大きすぎて動けなかったのもある。

 追撃(おいうち)に耐えるだけの余裕など、もはやなかった。







 日芽(ひるめ)は――。


 壁や柱の瓦礫に埋もれて身動きの取れない彼女は、壁の大穴から外へ発砲する男を見るだけのことしか出来なかった。

 彼が今もなお引き金を引き続けているのは、つい数十秒前までは日芽に突き付けられていた拳銃だった。消音器が取り付けられているようだが、不意に自分へ火を噴くことも在り得るその凶器に怯えずにはいられない。

(…どうにか、本当にどうにもならないの…⁉)

彼女がいる方からでは残弾は見えない。どうにかして状況を打開しなければならないところだが、何ひとつ彼を止める策が思いつかないままに男は拳銃を撃つのを止めた。

「駆け付けたヒーローってェのもこれで排除できたなァ?いい稼ぎ(、、)になるだろォよ」

男は銃を構えから解いて嬉しそうにそう言った。

 後は大して力も込めずに引き金を引くだけだ。それで彼の『目的』は達成されることになる。

(駄目……何も…ない…)

日芽は変わらずに動けずにいた。脚は挟まれているようだし、腕はともに頑丈で重たい柱に押さえつけられていた。

 絶体絶命の状況で、必死に力を込めたところで、脆くなった木材の破片が割れる音が虚しいばかりだ。

 ぐらりと視界が沈んだような気さえした。実際にはほんの一、二秒くらいだろうか、漸近するように到達までが永遠に引き延ばされる。

 その不気味な不快感に日芽は何を思うか。

 ただ、彼女が撃たれるのよりも先に。

「…あァ?」

男の疑問の声がその歪んだ世界を強引に引き整えた。






 いいや。

 単なる精神的苦痛のあまり、景色が歪んでいただけではない。

「…え…っ?」

その一瞬間は、完全に音が消えた。

 これだけのことで、轟音が確かにあっただろう。ただ、理解が追いつかなかった。

「っあ…⁉」

彼女のいた屋根裏部屋の床板が、彼女が居た壁側半分の面積で崩れ落ちる。

 偶然引っ掛かったのか、咄嗟に反応できたのか分からなかったが、一度穴の縁に掴まることができた。瓦礫が穴から傾れ落ちたことで、両手が使えるようになったらしい。

 流石に十分な力は残っておらず、耐え切れなくなると、そのまま三階に当たる屋根裏部屋から吹き抜けを落ちて一回まで落ちた。

「が…っ…⁉」

瓦礫の方が先に落ちていたので、再び埋まってしまうことは無かったが、着地を準備するだけの余裕もなかった。

 そもそもこの家の構造は知らないし、精神的な疲労が酷く残っている。

(逃げ…ない、と……っ‼)

思い切り背中を打ち付け、全身に痛みが回る。が、少しでも動けるのなら、拘泥している暇はない。

 男の方はすぐにでも追ってくるだろう。彼は日芽とは違い、この建物の構造を把握しているだろうし、向こうは飛び道具をもって何の躊躇もなく殺しにきているのだ。

(外に出るべき…?)

外に出てからどうするかを考えているわけではないが、家の中にいる限りは向こうがどう来ているか分からない。誰もが予想できない外とは違い、壁に行く手を挟まれて背中から堂々と撃たれるのがオチだろう。

 日芽が落ちたフロアは、一階玄関前の吹き抜けのようだった。一番目立つ方へ自然に目が行くと、そのまま玄関扉を見つけることができた。

(外へ…。茂みでも森でもいい。隠れて逃げ切れる…‼)

一度壁の陰に隠れ、男が近くまで来ていないことを確認すると、続いて遠目に判断できる限りで鍵が掛かっていないかを確認した。

 内側なので直接的にカギに阻まれることはないが、気付かずに扉を開けようとして手間取っていたのでは危険は増すばかりだ。

(鍵は開いてる。ここから見える限りで隠れて狙撃できそうな場所もない。ここから見えない場所だけを警戒して…)

壁の構造上の陰から飛び出る。瓦礫を使って死角から隠れながら、玄関扉まで忍び寄る。

 自分の呼吸音だけが聞こえる。男が自分を見つけたらしい音は聞こえなかった。扉までたどり着いてもそれは変わらず、なるべく音を立てずに扉を開ける。

 後はそのまま隠れおおせてしまえばよかった。

 その筈だった。







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