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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
四章 白い存在
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覚悟の姫






 鴻野日芽(ヒルメ)が閉じ込められていたのは、古いが十分に頑丈なつくりの屋敷である。その屋根裏部屋かどこかだろうか、木製の頑丈な壁や打ち付けられた扉は押しても引いてもビクともしないし、扉同様に外から打ち付けられた窓から申し訳程度に光が差している。

 幸運にも(、、、、)拘束から抜け出せた彼女は、付き添い幼馴染の泉雫月(ツキ)に位置情報を送信し、その後に改めて自分の居場所をGPSを用いて調べようとしたワケだ。

 

 だが、彼女はそこで気付いた。

 その一瞬のことに、何の反応をとる暇もなかった。



 ドッザァァアアッッ‼‼‼



 と、並みの自動車が一回や二回激突しても持ちこたえそうなほど、高い強度を保っていたはずの古く頑丈な壁が、紙を破く音を数百倍にしたような轟音の元に弾け飛んだ。

「――ッ‼⁉」

そして日芽は別にバトル漫画の登場人物ではない。

 呻き声をあげる余裕もなく、壁の破壊に巻き込まれ、そのまま反対側の壁へ勢いよく弾き付けられる。

 人を閉じ込めるに十分な強度を持っていたはずの部屋は、一度の破壊とその余波で四割が壊滅していた。

「――……う…っぐ……⁉」

ついさっきまで壁だった(、、、)ものに埋もれながら、しかし少女に意識はあった。

(…なん…で…、?―――いや、それ…よりも…)

明らかに兵器を持ち込んでいるレベルの破壊だ。なんの戦闘訓練も積んでないような一般人の彼女は、そのまま壁と共にグシャグシャになっていなければおかしい。

 どうにか安定しない視界を得られたが、見渡せる範囲も認識できるピントも限られる。

 どうにか情報を取り入れようと見渡せば、破壊の原因が目に入った。先入観ではきっと重機のようなゴツゴツの正体を予想していたが、それよりもずっと小さい。

(ヒ…ト……?)

自分の言わんとすることが声に繋がらないのは、喉や身体を怪我したからか、それとももっと単純に恐怖からか。

 日芽が目にしたのは黒い人型の正体だった。とても破壊兵器や重機には見えない。

 これだけの破壊だ。小さながら人型を成す正体はピントがまだ合わないが、アメコミのヒーローくらいの超人だろうか。それとも小型戦闘用二足歩行ロボットか。

「―――ッ‼‼」

いいや。たっぷり時間を掛けてピントが合わせられたが、その破壊の『原因』はもっと予想を外れていった。

 そう認識した瞬間は、その時ばかりは自分の息を飲む音が空間を支配したように感じられた。






 『彼女』は散歩でもしているかのようにゆったりとした速度で歩み寄る。

「・・・・・・」

一言も口にすることはなく、また、一切の動揺をも見せなかった。

だが。

(コレ…動物の『意思』……?)

確実とは言えないが、日芽は感じ取っていた。

 彼女が人間以外の生物と『話す』時の感覚だ。つまりそれが意味するところは、

「――か…っ、な、――ひゅっ…⁉」

傷はない。ただ、壁の瓦礫に圧迫されているせいか肺が酸素を十分に取り込んでいない。

 その間も構わず『彼女』は塵の舞う部屋の中へと歩を進める。

 さらに、日芽からは死角になってしまった横合いの扉から、バギィッ‼‼と、明らかに扉の構造を無視した音が生まれた。

 その音に反応してか、『彼女』は日芽の方へ歩くのを止め、床に投げ出された端末を拾い上げる。日芽が月に連絡したものである。

「――…GPS。やられた……」

「…一手遅ェなァ…メイナ?」

『彼女』の声に応えたのは日芽の横合い、男の声だった。打ち付けられていた扉をそのまま破壊し、使った斧を手にしたままこの屋根裏部屋へ。

 ようやく呼吸も安定してきた日芽だったが、とても動ける状況ではなかった。物理的にも、状況的にも、だ。

(どうにか…、どうすれば…いい…?)

「『今度はどうすれば切り抜けられるだろうか』ってかァ?」

男の声に目を見張る。が、それ以上に。

「…あの、時の…っ」

日芽はこの二人を知っていた。一度だけ目にしたことがあったからだ。

「ァあ?無駄に目立っちまったセイでなァ?」

男は小さく舌打ちしたように見えたが、一々拘泥している暇もない。

「――つっ‼」

扉を打ち抜いた重たい斧を振り抜き、『彼女』――葬式帰りのような修道女の手にしていた端末を引き裂いていく。メイナと呼ばれたその修道女は手を強く打ち付けたようだったが、男はそんなことを気に掛けようともしなかった。

 展開に追いつけずに空回りする思考を眺めていた日芽だったが、思い出す。

(得体が知れない…。彼女が…柱ごと壁を壊したっていうの…?何かしらの重機具すら無しに…?)

横の方へ唾を吐き捨て、男は今度こそメイナに向かって斧を振り下ろした。そこにやはり一切の躊躇なく。

「――ッ‼⁉」

その場で、これから作られるであろう光景を覚悟したのは、どうやら日芽一人だったようだ。

 修道女(メイナ)は反応する。

 まず、目元まであったベールを強引に引き裂き、視界を確保したのだろうか、赤色がかった淡い色の瞳が露わになる。

 それから、必要以上の緊張を見せず、振り下ろされる斧を横から殴り抜いた。






 ガギィッッ‼‼‼

 と、強引に金属を引き千切る音が狭い部屋に何度も反響した。

「――へっ」

男は一度鼻で笑い、柄に金属の残骸がくっついただけになった斧を投げ捨てた。

 その後。日芽には男の動作が、娘を抱き寄せる父親のように見えた。

「――かッ‼⁉がぅッッ‼‼‼」

一瞬だけ男はメイナに接触し、その次の瞬間にはメイナは床に叩き付けられていた。体内の空気を全て突き出されたようなその少女の声以来、部屋は静まり返ってしまう。会話が成り立たなくなったからか、或いは別の心理的な錯覚か。

 それでも日芽はどうにか目で追うだけの時間と角度があった。

(――『柔道』…?)

学生を経ていれば授業で習ったことがある。日芽は男の動作をどうにか捉え、柔道のそれであることまでは理解できた。

 しかしながら、それ以上には何に見えただろうか。その達人技は。

 柔道とは確かに組み合う武道ではある。だが、根本的には相手の重心を操る武道である。その為か、極められたその武道は、接触する内にメイナとやばれる少女を崩し(、、)、一瞬に浮かせて叩き付けたのだ。

「――っが…ぁ…ッ」

メイナはしばらく起き上がることもままならないだろう。床に叩き付けられた時の姿勢のままぐったりとしていた。

「ンじゃ、十分に希望は視たンだろ?」

ここにきて、日芽は男の目的を一部分だけだろうが理解した。

「――スマホを、抜き取らなかった…のは…、助かると思わせるため……」

瓦礫に重みを克服できないまま男を睨みつける日芽に対し、彼は拳銃を突き付けて返す。

「ンなことはもォいいと思うが?」

動機までは測れないし、明らかな不条理を飲み込めないが、日芽にはどうすることもできない。あとは彼が指を引けば日芽の人生は終了するらしい。

 ここまで理不尽に死を突き付けられると、最早恐怖することもままならない。日芽は半ば諦めた思考のまま自分の結末を見届けるだけだった。







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