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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
四章 白い存在
33/61

脱出の姫












 ―――翌日。






 おかしい。

「なんだ…?」

《ここにきて寝坊なんてあるか?》

今日はヒメの『親戚』と名乗る者からの胡散臭い申し出を断りに行く予定だ。

 だが、当のヒメからの連絡がない。

 朝食までに手荷物をまとめて、すぐに出発できるようにするという予定である。その筈なのだが、向こうから何の連絡も返ってこない。

「とりあえず部屋に寄っていこう。昨日の時点で電車の中で色々あったから疲れてるだろうし、まだぐっすりかもしれない」

本当にそうなら笑って済ませられる。

 ただ、嫌な予感があるのも確かである。昨日の時点でそうだ。

「一応荷物を持っていくか」

手持ちの荷物を纏め、雁啼(カリナ)を引っ込めて、部屋を出る。

 ヒメとセンラの部屋はこの上の階である。この時間帯に女性客の多い階層へ上がるのは中々に憚られるが、別に禁止されているわけではない。

 部屋の前までたどり着いてから、もう一度電話を掛けてみた。

「やっぱり出ないか…」

部屋にはもちろん鍵がかかっているので、こちらから開けることなどできない。

 ホテルでは廊下を静かに保つのがマナーである。そのためにふつう廊下には音の出る機械はあまり置かれない。

 だが、この街は例外か。それぞれの部屋の前にはドアホンが取り付けられている。指向性音声技術実験を兼ねて、らしい。

 とりあえずといった感覚でチャイムを鳴らしてみるが、応答がない。

「……まさか居ないのか?」

《朝シャンってヤツじゃないか?》

その可能性も全く否定はできないが、最初に連絡してからもうすぐ一時間が経つ。これで偶然と切ってしまっても良いものか。

 そう思っていたのだが。

「―――ご主人…?」

ドアを隔てた内から疲れ切った返答があった。やや遅れ気味だったのはチャイムによるやり取りを知らなかったからか。

「センラか?ヒメはどうしたんだ?」

「……いない。起きたら居なかった…」

まずは開けてくれ、とドア越しに頼むが、気付く。

 そうだ。センラにはこの手のドアを開ける方法が分からない。やや面倒な鍵も開けられないかもしれないし、そもそもこの面倒な取っ手のドアは開錠されていてもどうすれば開けられるのかがわからないだろう。

 俺やヒメは『ドアを開ける』ことなど意識はしないが慣れている。そのため初めて見るものでも勘で開けられだろう。だが、彼女の時代をぶっ飛んだような常識にはしんどいものがあるかもしれない。

 そうみると『馬鹿にし過ぎだ』と思われるだろうが、そうでもないのがあの狼である。

「雁啼。鍵を」

《あいあいー》

雁啼なら目に見えないように存在することもできる。そうして壁を抜けて部屋の中へ。

 内側から電子錠の開く音が鳴り、さらに二重の金属錠が開かれる。ついでによく知った声で短い悲鳴が聞こえた気もするが…。




 ここぞとばかりに重たく感じられるドアを開く。

 部屋の中は電灯もつけずに暗がりになっていた。ここの部屋はセンラに居心地がいいように選んだ和室であるが、一見和風の電灯は、スイッチに関してモロなハイテクである。読み取り式操作パネルはセンラには(さわ)れなかったか。

 入ってすぐの、靴を置いておく玄関部分には、霊体の雁啼が両手を挙げて苦笑しながら浮いていた。

 その視線の先には狼化してグルグル唸っているセンラが。突然天敵の雁啼を部屋に入れたために咄嗟に狼化して飛び退いたらしい。ていうか俺以外に見えないようにしていたつもりだったのだが…?

 確かにこれはセンラにとっても雁啼にとっても気マズイ。

 ひとまず雁啼を消すと、センラは急に涙目になった。狼状態でそんな乙女されても困る。

「とりあえず戻ってくれ。話ができない」

電灯操作パネルを操作しながらそう言うと、センラは我に返ったのかピクと反応して人型に戻った。

 玄関エリアからセンラのいる方まで、転々と脱ぎ捨てられた服を回収して奥へ入る。狼状態では体積が減るために、そのまま素早く動くと、着ていたものから抜け出るカタチになる。その後に人型に戻ると当然一糸纏わぬ姿なわけだが、人目が無いのはよかった。

 …出来れば俺が何かしなくても勝手に服を回収して隠れて着てほしいのだが。






「―――うぅ……っ…」

鴻野(こうの)日芽(ヒルメ)は重たい意識をどうにか興して目を醒ました。

(ここ……は……?)

身体にしっかりとした感覚が戻るまでの幾秒の内に記憶を呼び起こし、状況を把握する。

(…そうだ。確かホテルの販売機の前で…、スプレー?みたいなのを吹き付けられて……?)

今もまだ強烈な睡魔が鼓動を誇張しているが、時間と共に次第に体に感覚が戻ってきた。

 最初に汚れきったカメラレンズのような視界が戻るが、自身は暗闇に居るようで、機能は信用ならなかった。

 さらに十数秒してどうにか指先まで最低限の感覚を取り戻し、状況と平衡を把握することにする。

(なん…っ⁉)

身体は地面に対して立った角度にあるらしい。ちゃんと頭が上で、脚が下になっていた。

 ただ、身体の感覚が戻ってくるのに従って腕の角度が把握できるようになってくる。

(コレっ…‼腕が……⁉)

腕は上へ挙がったままに、頭頂よりも高い位置で手首を拘束されていた。

 十分に時間が経って、ようやく体に運動機能が回復してくるが、少し引っ張ったくらいでは解けやしなかった。力が回復するのに従ってチャレンジしてみるのが無難なのだろうが、全快したところで力任せに解けそうにもない。

 加えて、

(地下…?いや、屋根裏か、それとも…)

視界はほぼ回復したが、辺りには十分に視認できる物体は無かった。視界を得るに足るだけの光量が無いのだ。せいぜい壁板だか窓だかから漏れる弱い光がある程度だった。

 少しばかり動かせる手を駆使してみれば、付近には低い天井が傾斜をつけて作られており、材質は充分に強度をもった木のようだった。

 手首を二重三重に結び付けているのは、布系の素材を編んだ縄と、それをさらに上からガムテープで覆いつけているもののようだ。

(どうにか根元から切れれば…?)

暗闇に目が慣れてくると、さらに詳細に辺りの状態が確認できるようになってきた。

 空間自体は狭い部屋のようで、空気の流れからしてどうやら周囲には近場のものと同様に壁があるらしい。広さはだいたい四メートル×二メートルというところか。

(アレ…カッターナイフっ‼)

どうにか周囲を見渡して見つけたのは、頼りない僅かな光を反射する、錆の浮いた小さなカッターナイフだった。

 切れ味がどれくらい生きているかは分からないが、今目に付いた道具の中で使えそうなものはそれくらいだった。

「ふっ…‼ぅう…っ」

カッターナイフの落ちている場所まではかなり距離があるが、そうは言っても二メートル弱の距離だ。限界まで身体を駆使して足を使って引き寄せられない距離ではない。

 だが、もちろん彼女はアクション映画の主人公ではない。

「うっぐぐぅー…っ‼……っ⁉」

腕が軋むほどに身体を引き延ばして足をやるが、カッターナイフに足が届くよりも先に、縄の固定強度が先に悲鳴を上げた。

「――っ‼…なっあっ‼⁉」

ぺきっ。という軽めの音と共に、布製の縄は根元を固定していた釘ごと外れてしまった。

 どうやら根元部分は何重かに布を折り返して強度を増し、上からやはりガムテープで固定しているようだったが、釘自体が抜けてしまったので強化を無視して外れてしまったようだ。

「―――っ。くぅ…」

釘が抜けた反動で盛大に床に打ち付けられてしまった。視認できなかっただけで色々なものが置かれていたのか、背中に不規則な痛みを感じる。

(ど、どっちにしてもいくらか自由に近づけた…?)

さらば次は手首の方の固定を解かなくてはならない。

 まずは試しに当初の目的であった錆びたカッターナイフを手に取るが、刃はどうにかスライドして出せるものの、錆は思ったよりもひどい。

(どうにか…)

何度かスライドを繰り返して機能を馴染ませ、刃の出し具合を適度な長さにする。

 それから刃が折れてしまわないように慎重に拘束に刃を当てていく。表面に張り付いたガムテープを切り、それから何度も何度も繊維を千切ってようやく片手を引き抜く。

 カッターナイフの刃の部分もかなり錆びていたようだったが、ガムテープや布の繊維ならば錆びていてもどうにかなったようだ。

 錆び方がよかったのだろう。刃の形を保ったまま硬質に錆びていたのかもしれない。

 片手が外れれば自然ともう一方の手も外れる。両手をまとめるように拘束されていたので、片手には布やガムテープが引っ付いていた。そちらは何のことはなく解けた。これで晴れて行動の自由は確保できた。

(…次は。どうすればここから出られる…?いや、そもそも此処は…)

なるべく丁寧かつ迅速に辺りを手探るが、手が汚れるばかりで何も見つかりはしなかった。

 そう思って隙間光を探ろうとしたところで、ポケットに難い感触があった。

(…! そうだ、スマホが)

画面を操作し、電波が届いていることを確認すると、真っ先に幼馴染に連絡を入れた。何と文章を打ったのかも理解しないまま。

 彼女の機種は(ツキ)と同じものだが、特定の手順を踏んで設定を行なうことで、連絡に応じて位置情報を同時に伝えることができる。

(落とした時のための設定…。こんなところで役に立つなんて)

彼女のスマートフォンのメール設定は月が行っていた。単に日芽が機械オンチだったためだが。その為に真っ先に位置情報を伝えることができた。

(そうだ、この場所は…)

さらに画面を操作し、地図アプリを起動させる。

 だが、そこで彼女は気付いた。







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