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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
四章 白い存在
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葛藤と姫











 食堂車。

 ひとまずもっとも近い食堂車に席の空きがあるようなので、そこに三人分席をとることにした。

「私がもつけど、何にする?」

「すまない。なら、ヒメに任せるよ。同じものでも一番安いヤツでもいい」

折角なので断るのは止めておこう。朝食代をケチケチする必要は無い。・・・『安いヤツでいい』は不相応だったかもしれないが。


 席はカウンター席しかない。正確に言えば窓辺に二人用のテーブル席が全部で四セットあるが、その内の空二セットに座っても仕方ない。カウンター席は右から四席、そこから食器返却口を挟んで、左へ二席ある。

 電車内だがそれ以上に狭いのは、食糧庫が同じ車両に設置されているからか。カウンター側にめり込むように置かれているため、カウンター六席はなお狭い。

「……ねぇ、ね…、」

カウンター席には右からセンラ、俺、ヒメの順に座っている。

 さっきからいくらか静かだと思っていたが、慣れない旅に緊張していたのか。

「………。」

「――そういえばそんな時間もなかったか…」

そうだった。

 センラはバスの時も休憩だろうとずっと寝ていた。俺が言えたことでもないが、降りてからもずっとヒメに付いていくのがやっとだった。

「ゴメン、ちょっとセンラ連れていってくる」

来た号車の方を指さし、センラを連れて席を立つ。

 場所は分かるだろうが、彼女一人で行かせるのも少し心配だからだ。

 食堂でそう口にするのはマナー違反であるが、ヒメは大まかな仕草でわかってくれたようだ。ありがたい。

 ちなみにセンラには、少なくとも普通の選び方の服装では隠せないような大きな尻尾が備わっている。例のもふもふだ。また、耳の方は今は硬めの帽子を被って隠している。

 彼女はその尻尾を隠すために、厚めの生地で二重に作られたロングスカートを穿いているわけだが、椅子に座る際は一度スカートの中で迂回させる必要がある。そのため、バランスをとるための尻尾をうまく機能させるためにはコツがいるらしい。

「よっ…しょっ」

一度テーブルに突っ伏すように身体を預け、それから床に足をつき、なるべく静かに尻尾を伸ばす。ただし、よくやっている『クルンと曲げるヤツ』はできない。ただ心地がいいからそうしているらしく、今はそうでなくても良いらしい。

 それから俺を先頭に、センラは後を付いてくる。トイレの場所は来る際に見ているからわかるし、ちょっと考えたくはないが、なんなら臭いで特定することもできる。

 まだ原理やら理屈やらは分かっていないが、いつかの思い出したくない出来事以来、『匂いの階層化』や『常人の一〇〇〇倍はあろう嗅覚』など、嗅覚に関して特異的になっている。それ故に駅でもヒメを見失わずに済んだのだ。

 それから帰ってくるまでの十数分。たったそれだけの時間だったのだが。






 鴻野(こうの)日芽(ひるめ)。彼女は食堂車に残ることになる。三人居て二人が席を立ったのだから当然な算数である

 カウンターテーブルには「手作りが売りです!」と言わんばかりの食パンを二つ重ねて切った形がそのまま残るサンドイッチ。二つでワンセットである。

(・・・さすがに悪い気がするけど…。でも)

グラスにはアイスのカフェオレが半分以上残っている。先にドリンクが出されたのはそれがコーヒー飲料だからか、それとも単にラーメン屋のギョウザの流れなのか。

 正直なところ、日芽は自分がこうなってしまって仕方がないと思っていた。彼女自身の問題であるが、彼女には防ぐことはできなかったのだから。

 だから、あくまで『付き添い』という建前があるが、(ナツキ)に同行してもらえないかと頼んだ。

(私だけでは……)

行き先が隣町くらいならどうにかなったかもしれない。それとも車の往来が無いほどのド田舎なら。

 そうもいかない。行先はF市。世界有数の『実験都市』だ。

 技術的にギリギリのスタンスな車とはいえ、変わらず自動車が行き交う。日芽一人では道を渡ることもままならないだろう。

 もともとその『親戚』とやらが誰なのかもわからない。ただ、それが嘘だとも言いきれない。わざわざこの遠くから交渉してまで詐欺をはたらく必要は無いからだ。どんな方法でもいいから金が欲しいのなら隣町あたりの銀行でも襲えば解決するだろうし、東京にはいくつも豪邸はある。悪事をはたらくにしても、わざわざ遠くに住む日芽を騙すメリットが無いのだ。

 いずれにしても彼女は断らなければならない。誰とも知らぬ『親戚』に引き取ってもらうなど、どう解釈したところでロクな目に合わないだろう。こちらに良い事は一つもないのだ。

(どうしよう…。そう断ったらうまくいくのかな。相手も少なからず善意はあるのだろうし…)

一口だけサンドイッチを口にし、原稿を考える。そういえばガムやスルメなんかでなくても、やはり嚙むこと自体が思考に良い影響を与えると、当たり前のようにテレビ番組でやっていたような、そんな採るに足らない内容に思考を取られる。

 そうして睡魔に似た思考停止状態に陥っていた日芽だったが。


 ガチャッンッ‼‼


と。何度かは聞いたことはあろうが、できれば避けたいその音が日芽の耳に届く。

 ハッと我に返り、同時に彼女は自分が端の方へ寄せていた水のグラスではないかと疑った。よく身の回りの今の状態を把握できていなかったのだから、無意識に肘でもあたってしまったかもしれないと、そう思ったからだ。

 だが、自分のものは無事だった。少々狭い場所であるから、空いたサンドイッチの皿とカフェオレのグラスだけでもいっぱいに場所を取っている。そのため少し左に追いやるように水のグラスが置かれていた。最初にサービスされるものだ。

 客は少ないが、それでも少しのざわつきは起きる。その対象は日芽の二つ左の席。グラスを落とし、運悪くも割ってしまったのは、その出で立ちからしてどうやら修道女らしい。全体的に黒で統一されていて、変わった形ではあるが、目元まで隠れるようなベールを被っている。

 日芽のステレオタイプな判断では大宗教のように見えるのだが、よくよく観察すれば、やはりあまり見ない宗派か。顔を隠すような形状の修道服は、有名な宗教とはまた違うような気もする。

 表情こそよくわからなかったが、焦った様子でグラスの破片を掻き集める修道女の彼女。日芽は丁度飲み終えたカフェオレのグラスをテーブルに戻し、やや高い椅子から降りる。

(義務も無ければ特に諫められもしないんだけど…。そういうものかな)

焦って破片を片す、恐らく日芽と近い齢の修道女。それからカウンターから職員が1人。当然の対応である。

 日芽はいくらか遠くまで散っているガラスの破片を、慎重に一つずつ集めた。

 動揺する修道女は落ちた場所のガラスを集めながらあちらこちらへと謝り、礼を言い言いしているが、日芽はそれになるべく穏やかに対応する。

 それ自体は別になんでもなかったのだ。その時点で、月やセンラが帰ってきても。すぐには。











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