魂白
「―――取、リ…戻し、た…ぞ……ッ‼‼」
『意思』は取り戻した。奪われていた意思を。
『姿』は消えることはないが、それでも行動権は奪った。いや、元々俺が所有していた権利を、本来持たざる者が占領していた『それ』を。
薄く透き通ったその『姿』は、俺の取り戻した『意思』では動かせない。だが、すぐに消えてしまう、といったことは無いようだった。『姿』をその容姿から『彼』とするとして、彼はその正体が、俺から奪った『意思』を媒体なりスイッチにして現れるものであると推測できる。
《う…⁉な……‼⁉》
「返してもらったよ。コレは僕の権利だ」
怒りが消えることはなく。許そうとも思わない。だが、
「お前はどうする。真っ向から対立でもするか?」
正直なところ…。
それでも俺から望んで敵対したいわけではない。正体も正確に解らないまま、何故存在するかも理解していないのに。それでは敵と見なすにはまだ不十分だ。
和解したいなどとも、正直なところ思ってはいない。だが、俺には彼を裁くだけの材料が無いのだ。
「ぅう……」
センラは既に拘束から抜け出して壁に凭れ掛かるようにして綿の様に疲れてしまっている。もっとも、もとより彼女は真っ白なわけだが。いや、それはどうでもいいか…?
彼女が『姿』の拘束から抜け出せたのは、『姿』の活動制御を、つまり『意思』を奪い返したからであることと、増殖させた幾本の腕を消滅させたこともあるのだろう。その理屈で上手くいけば、彼を俺の意思でどうとでもできるかもしれない。そのものを消滅させてしまうこともできるかもしれないし、または精神的な拷問でもできるかもしれない。
だが。
それで良いとは思っていない。
決めるのは彼次第だ。
「悪いけどこの場の優越はこちら側だ。答えてもらう」
センラは疲れ切った表情でこちらの話を傍目に聴いていた。センラは被害者に当たるが、彼女にしてみればどうしてか俺を主人とおいているためか、俺に任せた、といったところなのだろう。俺が招いた問題であるようだから、それでいいし、もし彼女が異議ありな様であれば聴いてみてからでいい。
「どうすんだ」
《……チッ…。敵対じゃねぇだろうが。『ライバル』だ……》
「――はい?」
一瞬ワケがわからなかった。だが、訊き返す前に彼の姿が消えてしまう。
どうやら存在すべき『意思』が抜かれた状態で存在できる時間はここまでのようだ。ただ、そうであるならば完全に消失するのではないのだろう。
《竜板雁啼だ。その座、譲ったわけじゃあないからな……―――》
掴みようのない声だけが薄まりながら空間に渡る。それから彼―竜板雁啼の声が聞こえることは無かった。
正体はまだ不確定要素で構成されるようなまま、それでも解る。彼が消えたわけではない。
なによりも、彼のしっかり憎しみの込められた惜しみの声。もし彼の表情が見えたなら、彼は薄く笑っていただろうと、そう思う。




