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狼狼狼狼狼狼狼狼狼娘  作者: 宵闇レイカ
三章 白い憑き人
22/61

声の白






 帰宅して、五割くらいは後悔があった。

「ぬわああああああああああ‼‼疲れたぞおおおおおおおおおお‼‼」


 一体どういう原理であの晴天から雨になるんだ。雨模様に変わった時点で嫌な予感はあったが、そこから走って帰ったところでやっぱり雨に降られてしまった。

 センラ提案とはいえ、俺が同意してしまったためか。見事に選んだルートは車が全く通らない場所だった。しかも家屋の一つもない、というオマケ付きだ。

「ぅう~…うっうぅ…。」

びしょ濡れのレア・センラは涙目でずっと唸っている。当然だ。調整されたように回避不能の雨に降られ、屋外にすらほとんど出たことが無いセンラは『初・雨降られ』なのだから。

 やはり、失った記憶にあろう、センラがどんな生活をしていたのか、それは分からないのだが。記憶が更新された後では初めて、それも初めてでこれだけの大雨だとシャレにならない。

「鍵、落としたりしてなくてよかった。」

「落としてたら私はご主人に嚙み付いてた。」

 そうなるとシャレにならない。存在的にはセンラは肉食獣であることには変わらないのだから。丸ごと美味しく完食されてもおかしくない。

 流石にセンラに直接伝えるには抵抗があるが、モロに下着の透けているセンラをずっと人目に付きそうな状態で居てもらっては困る。まあ、雨に降られたのなら仕方ないから、申し訳程度に俺の上着を羽織らせているわけだが。

 震える手で鍵を回し、若干の引っ掛かりを生じてドアを開く。

「とりあえずシャワー浴びてきたら?」

「私が先でいいの?」

センラとしてはただ『主人』とおいている相手に形式的に聞いているのかもしれないが。彼女に気遣いができるような常識は無かったように思える。

「あいよ。」

万が一にでも気を遣っているのなら、気を遣う必要は無くなる。そうでないのが実際の所なのだろうが、それでいい。俺は役に立ちそうもない経験に基づいて、完璧な温度調節にてシャワーに繋がる蛇口ハンドルを回した。






「クーうー。」

若干人間っぽさの残るような鳴き声と共に、センラは狼化して脱衣所、浴室へと向かった。

 割と早期に発覚した現象である。

 センラは狼化・人化する際、体表面に付着したヨゴレなどは落とすか、消滅させることができる。前に実験したとおりに、その後の生活でも利用できた。

 その前後すぐに発覚した…というよりも発覚していたことなのだが。

 人化している状態だと当然衣服を身に着けているが、そこから狼化した際だ。

 狼化すると体積|(もしかしたら質量?)が減る。見た目からしてわかる。体重に関しては訊かない方がいいんじゃないかと思ってのことだ。訊いてないし訊く必要もない。

 体積が減るのだから一応は理屈が通る。だが、それ以外にも理由があるのだろうか。

 結論を先に述べるなら。センラが狼化した際には、人間形態で来ていた服から抜け出すようなカタチになる。脱皮というとわかりやすい。

 それをセンラにとっての効率化に応用したらしい。

「・・・『抜け殻』片付けるのはやっぱり僕じゃあないか…。」

センラが入浴する際、イチイチ脱衣所で服を脱ぐのが面倒なのか、狼化して脱ぎ捨てていく習慣になっている。…なってしまった。

 そもそも『衣服』そのものが煩わしいのだろうか。着るのも脱ぐのも面倒くさがるのだ。

 当然「じゃあ裸で居れば?」とは言えない。0%の確率でセンラにそう言ったら間違いなく喜んでそうするだろう。結局狼化で妥協するしかないのだ。


 ところで。

 今は浴室でシャワーを浴びているハズのセンラである。

 ごとごと、がたごと、と。シャワーの音に混じって、後のことを考えると不穏に聞こえてしまうような音が連続していた。機械的ではなく、物理に従ったままに硬いものが落下して転がっているようだ。それが数十秒おきに連続する。

 どうせ次は俺がシャワーの番なのだからそれで片付ければいいわけか。そうやってセンラの常識外行動の後片付けに慣れてしまっているのだから恐ろしい。

 一瞬、怪我でもしてやしないかと不安が頭をよぎったが、危険そうなものは置いていないし、また、落下物で頭を怪我するような原因になりうる、『高所』そのものが無い。ごく稀に、ジタバタとセンラ自身が暴れるような音も混じっているが。気のせいにしておこう。


 センラのシャワー中、俺は濡れたまま待っているしかなかった。紙に触れることができないので、勉強(マンガをよむ)こともできない。

 ちなみに洗濯機は脱衣所だ。流石に浴室のスライドドア一枚向こうにシャワーを浴びているセンラがいる、なんて状況はマズイ。センラは迷わずに「別にいいじゃん」などと言いそうだが(前科あり)、俺が良くない。

 濡れたまま着替えるのもまた妙な話だ。だから、そのままの格好でいるわけだが。部屋の奥に行く気もしない。どうなるかは言わずもがな。

 故に、仕方なしに脱衣所前で座り込むように待っているしかなかったわけだが。見方によってはこれはこれで危ない行動にも思える。

 どうしようもなくはないが、最善はこうだろう。それで ま る で 待 ち 伏 せ す る よ う に 待っ て い た だ け だ が 。




《―――――違ったのか?》




 その声は。

 誰のものだ(、、、、、)

 ―――疑問の優先順位すら狂う程に動揺していたのか。そう認めるのにも時間が掛かる。そしてそう認めること自体の優先順位は決して今の選択に相応しくない。

 漸くと言うに足る時間を掛け、『正しく』疑問に思う。


 ―――――なんだ(、、、)





《いや。お前は既に知っている。》




 ―――返答…………?




《…オレが。お前なんだってば。》







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