決意の白
あれから6日が経つのか。正直なところ、『まだ』一週間しか経っていないのか、といった気分だ。
センラが俺の認めた時から家族になって、それ以来俺は毎日学校があったけど、それでも年単位に思える程に、一人の少女は俺の体感時間を引き延ばしてくれた。
最期にそんな日々を送れて、素直に良かったと思っている。
見捨てるようなカタチになることを、申し訳なく思う部分もある。
だが、その為に彼女には部屋の勝手を教え、幼馴染との付き合いをつくり、そして、俺の世|を受け継いでもらえるよう、『姓』を託した。
――思い残すことが無いと言えば嘘になる。
彼女とずっといたいなと思う気持ちだってある。
……でも、もう耐えられないんだ。
ここまで先延ばしにして、そして退けた、退け切ることなど不可能なただ一点が今、此処に在る。
そうして、俺は帰路と真逆の方角へと、一歩一歩を踏みしめていった。
立つ鳥跡を濁さず。って言葉があるけれども。
必ずそんな心境になるのかと云えば、そうでなかったりする。正直なところ、どうせ行為自体が迷惑になるのだろうし。見つからなければいいな、とも思う。
ああ、どうせお人好しな義母辺りが探すのかな。
そう考えると、ためらう気持ちはほんの少し割合が大きくなる。
ただ、それは決心を覆らせるには至らない。もしこれがプラスな決心ならよかったんだけどね。駄目ダメだな。まったく。
せめて、こればっかりは許してもらいたい。許すことのできないからこそ、無許可なのは必須なのだから。許可なんて要らない。勝手にやらせてもらう。
どうせ長いスパンで見れば、俺に費やす家計は減るのだし、そもそも進行形で拾い子を育てていたわけだから、根本からして義務は発生しない筈なのだ。
センラに責任を押し付けようとしているわけではない。
結果としてそうなってしまうかもしれないけれど、事実としては、一人減って一人増えただけだ。不幸に見舞われた奴よりも、人並みにでも幸を纏った者の方が良いに決まっている。
自己勝手なのは百も承知。
もともとそういうものである。
だから、責められようとも変わらないだけの硬度の意思が求められるのだ。いや、求められているわけでもない。寧ろ、在ってはならないとされるものなのだ。
それを裏切ることが、いかに重き大罪であるかも解っている。五十歩百歩の故事成語、ただ、一つの逃避行を除いて、それでようやく逃げることに大小は無い。とされている。
禁忌の選択肢ともいえるかもしれない。もちろん、全てを終わらせてしまう選択であるのだから当然だが。
自分自身を知っているのは自分しかいない。
だから、弁明もしない。
いかに優秀な教師であれ。
いかに頭脳明晰な幼馴染であれ。
いかに勘の鋭い家族であれ。
いかに頼れる親であれ。
――個人の事情はあくまで他人事に過ぎないのだ。
それ故に、人の訴えは、その人が背負った問題である。それは変えようもなく、そして、変わりようも、ない。
自分がこの世で一番辛いんだ。なんて、誰でも思うことだと思う。他人になることはできないから、他人の苦労は変わらず他人の苦労であるから。自分が一番辛いように思えるのは当然なのだろう。
それでも人がそれぞれの集団でやっていけるのは、それに耐え続けているからだ。若しくは、自分が世界一辛いと敢えて信じ込んで逆境を走っているのかもしれない。
だが、人は常に耐え続ける。
それは、その『人』のひとりである俺も同じである。
真に言うなら、『同じ』でも、『平等』ではない。
だから、俺はその最底辺にある。なんていうつもりもない。もしそうなら、どれだけ楽だったものか。それが偽であるからこそ、余計に煩わしい。
俺は、ただ、人よりも忍耐力が少なかっただけかもしれない。言い換えれば、俺は『頑張っていなかった』だけとも言える。
その真偽はやはり判りようのないものだ。
自分自身であることゆえに、『体感的に熟知している』ことと、他人が故に『客観的でしかない』ことは、釣り合わず、比較できないのだ。
だから、真偽は判らない。
もし仮に、俺の忍耐力や努力が人並みであり、環境試練が厳しすぎたのだとするなら、それはそれでよい。俺の決定には影響しない判明であるからだ。
この世界は自分基準に廻っている。
たとえば、自分に一切影響の出ない部分で人が何百人と亡くなろうと、自分には全く関係のない他人事なのである。表面上の建前では心配するし、不憫に思うだろう。
でも、『心の底から他人事を覆らせる』ことはできない。
ゲーム調でいうなら、自分が主人公であり、他人事は全てただのイベントに過ぎないからだ。
『不謹慎』なんて言葉がある。『不謹慎』な言動が他人に諫められることは多々あるが、その忠告する側の人間だって、当事者の心情が全く理解できないことはないと思う。あくまで、『自制していなかった』だけであると。そう考えるのではないだろうか。『やりたいと思う までは仕方ない』なんていうこともよく耳にする。つまり、誰もが認めているのだ。
だから、この自分が視点の世界は、自分の手で終わらせることができる。
世界を変える必要は無い。ただ、自分の方が退くのみ。
この場所ならば、極力に迷惑を減らしてそれができる。
―――そうして、俺は一歩、宙へと踏み込んだ。




