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白い序章
いつもの帰り道は、葉々に刳り貫かれた鈍い陽色に染まっていた。
僕の心情がいつもと少し殊なだけで。周りは常の通りの変哲の無い世界だっただろう。
そうとは分かっていても。何となく、正確に理由づけることもできず、ただこの視界にはかえって美しく見えた。
……きっと気のせいに違いない。世界はいつも通り、常の様子で。
人一人のちっぽけな心情なぞ――それに性格があるならば――意にも介さず。
初めての。しかし懐かしいその薫る道は、一面の幸に満ちた陽色に照らされていた。
私の気が付いた時には、既に、辺りは見慣れぬ世界。
この神々しくも無垢の絶景は。しかし、かえって寂しい様子にも見えた。
……きっと気のせいに違いない。世界はいつもの通り、無常に。
はるかはるかに小さな私は、その矮小の内に、どこか幸せのささやかなる運命を感じたのだった。
奇跡は確かにそこにあった。
彼らは、各々がその命を寄せ合わせるべくあるものでとは露ほども知らず―――。