シーソー
部屋に戻り深呼吸をする
件名:遅くにごめんね
本文:もし寝ていて、起こしてしまったらごめん
実は今日心配になってついて行ったんだけど知らない人とキスしてるの見てしまったんだ
未来のことは大好きだけど俺、この先上手くやっている気がしないから別れよう
ごめん
文を改めて読んでみると色々思い出す
まだ付き合って3日しかたってないけど
楽しかった
送る直前で
"本当にいいの?"
と頭の片隅から語りかけてくる
"知らないふりしていれば幸せだよ?"
もちろん記憶を消せれば楽になれることは間違いなかった
付き合うからには安心したかった
文を消し、また書き直す
件名:遅くにごめんね
本文:今日も来てくれてありがと!
実は心配になってついて行っちゃったんだけど、その時に見えた男の人って兄弟か何か?
-----送信が完了しました-----
今度は迷うことなく送信した
なんて帰ってくるんだろう
バレたから振られる?それとも押し通す?
ケータイを置きベッドに横になる
そういや明日学校だったな…
ぼーっとしてるとすぐに返事が帰ってきた
未来からのようだ
件名:
本文:ここに電話して
下の方に電話番号が書いてあった
内心怖がりつつも電話をかけてみる
「もしもし?」
「……」
「未来…?」
「……」
返事がない…困った…
「……切るよ?」
半分試した意味で言ってみた
すると
「待って…!」
ようやく声を出した
その声は少し震えていた
「その…さっきの見てたの…?」
「いや…えっと…まあ」
次の言葉ですべてが変わる
息が止まりそうなほど緊張した
「違うの…あれは…その…」
必死に言い訳を考えているようだった
馬鹿で鈍い俺でもわかるくらい動揺していた
その反対に俺は自分でも驚くほど冷静だった
「未来、これからどうしたい?」
「えっ…?」
「俺はさ、さっきの見てすごく悩んだ、たぶん別れるのが正解なんだと思う、けどさ、この短期間で未来に依存するほど好きになっちゃってるんだ」
「……」
「それでね、友達にも相談して別れるって話になったんだけど、やっぱり諦められないからまだ付き合っていたいんだ、そこで、未来は今後どうしたいかな?って、別れるか、続けるか」
「………」
また沈黙が走る
言いたいこと言えた、一言二言足りないけど、大半のことは言えたと思う
「春くんは…続けてもいいの…?」
機嫌を伺うような、そんな聞き方だった
正直こういう時に怒ってもしょうがない気がしたし何より怒って傷を付けたくなかった
気分が高まってつい暴言が出ていってしまうかもしれない
「俺は……続けたい、けど、さっきの奴が浮気相手っていうか、そういうのなら別れてほしい、じゃなきゃ続けることはできないかな」
「わかった、別れる、約束する」
必死さが伝わってきた
何故ここまで縋ってくれるのだろう
こんな時だけどちょっと嬉しかった
「うん、わかった、約束だよ未来」
「ごめんね春くん…私、気の迷いで…もうあんなとこしないから…」
「わかってる、大好きだよ未来」
「ありがとう…私も大好き、春くん」
「明日から一緒に登校だよね、遅刻しないようにね」
「うん、わかった、それじゃおやすみ春くん」
「おやすみ未来」
電話を切った時、色々な物から開放されたように心が軽くなった
約束もしたしもう大丈夫
時計を見ると23時半だった
こんな時間まで付き合わせてしまって申し訳ないと思った
ベッドに入り未来のことを考えた
恐らく他にも嘘をついているだろう
ただそれを見抜くほどの力は持っておらず見抜きたいとも思わなかった
数時間前までは別れると言っていて、やはり気持ちが変わって続けたいという
俺の心はまるで公園で遊んだシーソーのようだった
もう傾きませんように、そう願った