疑惑
「春ちゃん、ご飯食べよ」
「今行く」
今日は父と母が家におらず、姉と2人らしい
「夕飯はお姉ちゃんが作ってんだぞ、春ちゃん肉じゃが好きでしょ?」
「好きだけど昼に肉じゃが食べたよ」
「嘘!?うーん、ごめんね、今別のおかず作るから」
「いやいや、いいよ」
「そう?ありがとね、そういえば春ちゃんさっきの子誰?彼女?」
「見てたのか、彼女だよ」
「春ちゃんも成長したねぇ…お姉ちゃん嬉しいぞー!」
そう言いながら頭を撫でてくる
「やめろよ、子供じゃないんだから」
「お姉ちゃんから見たらまだまだ子供だよーよしよし」
正直照れくさかったが悪い気はしなかった
ご飯を食べ終わり自室に戻ってケータイを開くと何も来てなかった
「後でメールするって言ってたけど…大丈夫かな…」
心配になりメールを送る
件名:
本文:今日は来てくれてありがと!
無事家に帰れたかな?
-----送信が完了しました-----
「風呂でも入るか…」
立ち上がり部屋を出ようとしたところでケータイがなった
着信中:汐里
…何だろう、妙に胸騒ぎがした
「もしもし、汐里?」
「あ、春ちゃん、今ちょっといい?」
「別にいいけど、どうしたの?」
「あのさ、さっき家の前に一緒にいた子いたじゃん、あの子が彼女?」
「そうだけど…みてたの?」
「あ、うん、家出る時に見えちゃって、ごめんね、それは置いておいてさ、あたし出かける途中で、その子と同じ道だったから尾行とは言わないけど様子みてたの」
「なんだよそれ…それで?」
「でね、少し歩いたところでさ、別の男の人と合流したの」
「え…親とかではないの…?」
「……春ちゃんは親に会ったら抱き着いたりする?」
……言葉が出なかった、さっきまで一緒にいた未来が、抱きしめてキスもした未来が
その数時間後に他の男に抱きついて…
「汐里、悪い冗談ならやめてくれ」
「冗談じゃないよ春ちゃん、その後手を繋いで…」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない
思わず通話を切りケータイを投げてしまった
大音量で音楽をかけ気持ちをかき消そうとした
けど頭の中には俺の知らない誰かと抱き合ってる未来が想像されてしまう
何度かき消しても出てきてしまう
音楽を消し、気持ちを落ち着けようと部屋を出ると姉とばったりあってしまった
「どうしたの春ちゃん、なんで泣いてるの」
「え…?」
自分がここまで弱い人間だとは思ってもいなかった、知らないうちに泣いていたとは
「せっかくのイケメンが台無しだよ、早くお風呂入っておいで」
姉の優しさに感謝した、自分はここまで周りの人間に恵まれていたんだな、痛感した
洗面所の鏡を見て自分が泣いていた事を認識させられた
シャワーを浴びながら先ほどのことを思い出すと、また涙が出そうになった
いや、シャワーの水滴なのかそれとも自分の目から出たものなのか
そんなことはどうでもよかった
そんなことより、これからの未来との関係をどうするかだ
俺の目で見たわけではないし浮気が確定したとも言い難い
何より俺は未来が大好きだ
この短期間で依存してしまうほど好きになったことはなかった
未来と付き合う前、恋とは楽しいものだと思った
恋人とデートをし、キスをし、寄り添い合う、そんな幸せな時間が続くんだと思っていた
しかし現実は辛さの方が何倍も上回っていた、一回疑うと頭と心が負で埋め尽くされる
髪を乾かし部屋に向かう途中、姉に呼び止められた
「春ちゃん、こっちおいで」
リビングに呼ばれた、父と母はまだのようだ
「今日お父さんとお母さん帰らないんだって、あ、ソファーに座ってて」
たびたび両親は俺達姉弟をおいて出掛ける
詳しく聞いてもデートとしか答えないし興味もなかった
「はい、プリン作ったから食べな」
姉が隣に座り2人分のプリンと飲み物を持ってきた
「夕飯に引き続き作ったんだよー、どう?美味しいでしょ」
「うん、すごく美味しい」
それ以降は二人とも黙ってスプーンを口に運ぶ
プリンの味は甘く、優しい味だった
よく分からないけど涙が出てきた
すると姉が何も言わずに抱き寄せ頭を撫でてくれた
「よしよし、男の子だからって我慢しないでいっぱい泣いていいからね」
その言葉で堪えられず思いっきり泣いてしまった
まだ浮気が確定してもいないのに、もうダメな気がした
それでもまだ付き合っていたいと、まだやり直せるとも思って泣いた
泣き続けている間、ずっと姉は黙って頭を撫でていてくれた
20分くらい泣いていただろうか、俺は泣きつかれてそのまま眠ってしまった