訪問
家に帰ると姉がまだ起きていた
「あら、おかえり、遅かったね」
「うん、ちょっとね」
「そかそか、じゃあお姉ちゃんはお先寝るとするよ、おやすみ」
「おうよ、おやすみ姉ちゃん」
きっと待っていてくれたんだろう、とても眠そうっていうか何回か寝落ちしてそうなくらいには目が開いてなかった
部屋に戻るとケータイが鳴った
汐里からのメールだ
件名:さっきはごめんね
本文:勢いでやっちゃった、彼女いるのにごめん、もう遅いし早く寝るんだよ
おやすみ
思い出して顔が熱くなると同時に複雑な気持ちになった
いくら見られてないとはいえこれは浮気に入るのでは…
いや、あの1回だけだしと必死に自分に言い聞かせた
件名:
本文:少しビックリしたけど大丈夫だよ
汐里も早く寝ろよ
おやすみ
-----送信が完了しました-----
そういえば未来からメールが帰ってきてなかったな…新着メールの問い合わせをしても来ていないようだった
特に気にもせずその日は眠りについた
翌日起きた時には11時を過ぎていた
いつまででも寝ていられる休日、最高
ふとケータイを見ると未来からメールが来ていた
件名:おはよ!
本文:昨日はごめん!寝ちゃってた!!
わーほんと!?じゃあ毎日一緒に登下校ね、約束だよ(∗•ω•∗)
あ、ところで今日って空いてるかな…?
寝起きから癒された、恋人ってこんなに良いものなんだな…
過去に何回か告白はされてはいたけど、タイプじゃなかったので振ってばかりだった
もし、もっと早くに汐里から告白されていたら…
「いや、考えるのはやめよう、今は未来が好きだし未来一筋じゃないと」
ところで今日空いてるってどういう事なんだうか
件名:
本文:大丈夫だよ、無理しないで早寝しなよ、じゃないと身長伸びないぞ(笑)
おうよ!約束(´ω`)
今日?空いてるけど、どうしたの?
-----送信が完了しました-----
もしかしてデートの誘いだったり!?
きっとこういうのも俺から誘わないと何だろうなぁ、情けない…
「とりあえず顔洗って歯磨きするか」
リビングに出ると家には誰もいないようで、テーブルの上には置き手紙があった
春ちゃんへ
起きたら冷蔵庫に肉じゃがあるからチンして食べてね
母より
何も無いよりはマシか
そう思いつつ顔を洗い昼食をとった
皿を洗ってるときにケータイが鳴った
どうやら未来からのようだ
件名:
本文:もーうるさいぞ!これでも伸びたんだってば!
あのね、私今日1日暇だから良かったら遊びに行かないかなって…どうかな?
まさか本当にデートのお誘いだとは
ガッツポーズだけでは足りずその場で踊ってしまいそうになるくらい嬉しかった
しかし、先月お小遣いの前借りをしてしまったので今月は使えるお金がほとんどない
「せっかくのデートなのに…デートなのに…」
それを思い出した途端一気にテンションが下がった
件名:
本文:はいはい(笑)0.5cmだっけ?
嬉しいんだけど今使えるお金が無いから出掛けられないんだ、ごめん!家の近くなら遊べるんだけど…
-----送信が完了しました-----
つくづく自分は情けないと思った
こんな情けない彼氏でいいのか…
-----新着メールを受信しました-----
「返事はや、打つの早いんだな」
件名:
本文:0.7cmです!0.2cmはでかいんだぞー!
あ、そうなんだ…それならさ、春くんの家とか遊びに行ってもいい…?
頭が真っ白になった
俺が思ってるより未来は何倍も肉食系なようだった、これで彼氏いなかったとか信じられない
件名:
本文:ごめんごめん(笑)
うち!?ちょっと片付けるから時間ください!14時になったらおいで!
-----送信が完了しました-----
時計も見ずに言ってしまったが現在時刻は13時50分
まずい時間が無い
急いで部屋を片付け某消臭スプレーを振りまき着替える
時間は14時ちょうど、なんとか間に合った、お茶でも飲んで落ち着こうとした時
家のチャイムがなった
「丁度に来るってまじか、今出ますよー」
「こんにちは、お邪魔します!」
「どうぞー散らかってるけど、二階に部屋あるから先に行っててよ、お茶入れて行くから」
「そんなことないよ、うん、わかった」
私服姿を初めて見たけど制服とはまた違った可愛さがあってつい見とれてしまった
二人分のお茶を注ぎながらこれから何するかを考えた
「そもそも男女が家で遊ぶって何するんだ、まさか…いやいや、さすがに早いって」
などと妄想をしているとお茶が溢れてしまっていた
溢れたお茶を拭き自分も部屋に向かう
「お待たせ」
「うん、ありがと」
長い沈黙、これ以上ないくらい気まずい
今日くらいは俺からなんとかしなきゃ
「あ、そうだ、どうして未来はOKしてくれたの?」
「それ聞いちゃう?実は一目惚れしちゃったんだよね」
「ほんと?実は俺も一目惚れだったんだ」
「凄い偶然だね、運命なのかな?あ、そうそう、クッキー焼いてきたから良かったら食べてよ!」
「あ、うん、ありがとう
…すごく美味しい!」
「良かった、口に合わなかったらどうしようかと思ったよ」
「いやいや、めっちゃ口に合います!」
「あはは、何それ」
他愛のない話をクッキーを食べながらしていた
それからお互いの中学校の時の話をした
未来は中学は隣町で、俺も名前だけは知っている学校だった
中学の時には暗くあまり目立たない子で友達もあまりいなかったらしい
そんな自分が嫌で変わろうと思い、同じ中学の人が誰も来てない高校を選んだところ、今の学校になったという
「そんなことがあったんだね…今こんなに明るいのに考えられないよ」
「えへへ、私は変わったからね!」
そうかそうか、と頭を撫でると嬉しそうにくしゃっと笑った
その時にまた沈黙が流れる
俺と未来は見つめ合ったまま固まっていた
すごく長い時間見つめ合っているような気もしたがおそらく1分ほどしか経っていない
その時未来が目を閉じたまま口を少し突き出してきた
「えっいいの?」
「いいよ、恋人なんだし」
胸がうるさいほど鳴っている
深呼吸をし気持ちを落ち着けようとしたが全く静まる気配がなかった
「春くん早くして、恥ずかしいよ」
目を閉じたまま顔を赤らめる未来
許可ももらってるし、行くしかない…
俺も目を閉じ、未来の肩に手を置き、そしてキスをした
汐里とした時とは違い、優しくふわっとしたキスだった
顔を離すと未来の顔が真っ赤だった、それがたまらなく可愛くてそのまま抱きしめた
応えるように未来も抱きしめ返してくれた
「春くん、大好き」
「俺も大好きだよ、未来」
その後は音楽を聞きながら寄り添っているうちに未来は俺に寄りかかって寝てしまった
俺も眠くなってきたので少し寝ることにした
誰かの歌声で目が覚めた頃には外はもう暗かった
未来はというと既に起きていて、流れていた音楽に合わせて歌っていた
それはとても綺麗で本物のアーティストが目の前で歌ってくれているようだった
「あ、春くん、起きてるなら言ってよ」
未来が恥ずかしそうに小突いてくる
照れると小突いてくるのが癖らしい
「ごめんごめん、つい聴き入っちゃって、やっぱり未来の声好きだな」
「えへへ、ありがと、じゃあ今度カラオケ行こうよ」
「俺あまり上手くないけどいいよ」
「上手い下手じゃなくて楽しめればいいんだよ」
良いことを言ったと言わんばかりのドヤ顔をしている
「そっかそっか、じゃあ次のデートはカラオケだね、来週にでも行こうか」
「え、いいの?」
「うん、お金に関してはなんとかしてみるよ」
姉に事情を説明すればいくらかは貸してもらえるはず
利子付きとか言われそうだが…
「ありがとう!あ、もうこんな時間だしそろそろ帰るね」
時計を見ると19時になっていた
「うわ、ほんとだ、送っていくよ」
「いやいや、いいよ、申し訳ないし」
「うーん、そう?遠慮しなくていいのに」
「お邪魔しました、春くんの家いい匂いしたね」
「そうなのか、自分だとよくわかんないや」
未来がこちらを向いて目を閉じ口を尖らせている
「こ、ここでするの??」
「うん、早く、誰か来ちゃうよ」
「…わかった」
誰かに見られないようにさっとキスをした
未来は満足そうな顔をして
「えへ、ありがと!後でメールするね、バイバイ」
「うん、じゃあね」
部屋に戻り何回も未来の顔を思い出した
あの子と付き合えて本当に良かったと思っていた
その頃には汐里とキスしたことなど忘れていた