汐里と未来
アラームに起こされ眠い目を擦りながら体を起こす
こんなに朝早くに目が覚めたのは何年ぶりだろうか
現在時刻は7時過ぎ
今日は未来と一緒に登校する日
とても緊張する
リビングに向かうと家族全員に驚かれた
「春ちゃんが起きてる…なんで…明日は雨だわ…」
「うるせえよ、俺だってたまには早起きくらいするわ」
朝食を食べ部屋に戻り支度を始める
「あ、そういやあいつらに言っておかないと」
件名:
本文:悪い、今日は別の人と登校するわ
司にもよろしく
-----送信が完了しました-----
あいつらの事だ、いつも俺を待って遅刻しそうになってるから恐らく大丈夫だろう
-----新着メールを受信しました-----
件名:熱でもあるのか?
本文:こんな時間に起きてるなんて明日は雨でも降りそうだな…了解した、学校で会おう
誰とは聞いてこない辺り奏汰は本当にいい奴だと思った
昔から察しがよくて気遣いもできる
だからモテるんだろうなぁ
ぼんやりそんなことを考えていると7時40分
「少し早いけど出るか…行ってきます」
家から橋まで10分と近いがたまにはゆっくり行くのもいいだろうと早めに出てみた
少し歩くと桜の並木道がある
毎年春になったとき、この道を通るのが好きでよく散歩したりしていた
「あれ?春ちゃんじゃん、おはよー」
「おう、汐里か、おはよ」
「今日は例の子と登校するんだっけ?」
「そうだよ、汐里は毎朝この時間に出てるのか?」
「うん、朝はゆっくりしたいしね、誰かさんと違って走りたくないし」
「うるさい、一言余計だ」
「おー怖い怖い、んじゃ先行くねー」
「おう、じゃあな」
汐里は姉と同じくらい可愛い
中学の時もよく告白されてるのを見たりしたが全部振っているようだった
誰が見てもイケメンな奴を振ってる時は
もしかしてそっち系なのではと思ったけど、それを聞いたら殴られたのは言うまでもない
「春くん、おはよ」
川を眺めていたら後ろから未来に声をかけられた
「あ、未来おはよ、行こっか」
「うんっ」
隣に並んで一緒に歩く、風に乗って女の子独特のいい匂いが流れてくる
「昨日はごめんね、たぶんこれから何回も返事遅れたりすると思うけどそういう事だから把握よろしくね」
「おっけー、無理して返事しなくても大丈夫だからね?」
「ううん、無理なんかしてないよ、言ったでしょ?春くんのこともっと知りたいって」
そう照れくさそうに笑った未来
ますます好きになってしまった。
ここでまたあの疑問が浮かんできた
"彼氏はいるの?"
1番気になっているところだった
頭の中がそれでいっぱいになり気付いたら
「未来ってさ、彼氏とかいるの?」
やってしまった、あまりにも考えすぎるうちに口から出ていってしまった
「あ、ごめん今の忘れて!なんでもない!」
「うん?春くん変なの、彼氏ならいないよ」
「あはは、ごめんごめん、そっかーいないのかー…いないの!?」
「えっ!?いないいない、そんな不思議かな?」
「まじで!?こんな可愛いのに!?え!?」
…頭で考えていたことがノンストップで口からウォータースライダーのように飛び出していく
「えっと…あ、ありがと…?」
顔を赤らめ俯きながら答える未来
可愛すぎたのと自分の言ったことが恥ずかしすぎて俺も俯いてしまう
「そ、そういう春くんは彼女とかいないの?」
顔がまだ赤い未来が問う
「俺!?俺はいないよ、生まれてから今に至るまで出来たことないよ」
「えーこんなにかっこいいのに?」
不意打ちをされてまた大きく胸が鳴った
恥ずかしすぎて顔が熱くなってるのがわかる、絶対今顔真っ赤だ
「えへへ、さっきのお返しね」
そう言って照れ隠しなのかちょっと先に行く未来
頭から湯気が出てもいいくらいには顔が熱かった
「あ、そうだ、良かったらさ、今日一緒に帰ろうよ」
突然の提案に驚きを隠せない
俺は即座に
「俺でよければ!是非!」
「なにそれ、春くん面白いね」
笑いながら未来は言った
楽しい時間とはすぐに過ぎるものだ
もう学校についてしまった
「今日は健康診断だから別々だね、終わる時間も別々らしいから先に終わった方は校門で待ってようか」
「うん、わかった、それじゃまた後で」
この学校は健康診断の時には男子は男子、女子は女子で教室が分けられるようだった
自分の席に座り、ぼーっとしてると
「春樹おはよー、まじで早起きしたんだな」
「だから言っただろ?絶対明日雨だって」
「そんなに俺が起きるのが珍しいか…」
「そりゃもう、天然記念物並には…」
訳の分からないことを言ってる司はほっといて健康診断に向かった
俺は174.3cm
司は170.5cm
奏汰は178cm
「奏汰、俺に身長分けてくれ」
「俺にもあと0.7cmでいいから頼む」
「うるせえチビども、もっと早く寝ろよ」
「あ、言いやがったな、禁句を口に出してしまったな貴様、ここでくたばれ!」
司が暴れている、ここまで騒いでいると怒られそうな…
「おい司、声でかいって、怒られるから」
「うるせえ!チビって言った罪は重いぞ!!覚悟しろ!」
「おいそこ!うるさいぞ!静かにしろ!」
…言わんこっちゃない
司が不機嫌そうに座る
無事(?)健康診断も終わり下校時間
何故か行事をまとめてやらないこの学校
ありがたいけど何か違和感が…まいいか
「あ、言い忘れてたけど俺別の人と帰るから、よろしく」
「女か」
「女だな」
「うるせえよ、じゃあな」
小走りで校門に向かうと既に未来が待っていた
「ごめん未来、お待たせ」
「ううん、私も今来たとこだよ、帰ろっか」
健康診断だけで終わったのでまだ11時半頃、気温がちょうどよく暖かいので少し眠い
「聞いてよ春くん!身長が0.7cmも伸びてたんだよ!すごくない?」
「それ凄いの…?ちなみに今何cmなの?」
「聞いて驚け!158cmになったのだ!」
「そ、そっか…」
「むー興味なさそうだなー春くんはいくつ?」
「俺は174だったよ」
「高いなぁ10cm以上も差がある、これならすっぽり入っちゃうね」
そう言って俺の目の前に未来が立った
近くで見ると本当に可愛い
気付くと俺は未来を抱き締めていた
「ちょ、春くん!?」
未来は驚いているが何故か抵抗はしていない
ついに自分の頭は口だけでなく体も勝手に動くようになってしまったらしい
今しかタイミングがないと思った
「初めて見た時から好きでした、良かったら付き合ってください」
長い沈黙、未来は腕の中で黙っている
嫌われてしまっただろうか、予定していない行動だったけどそれでもいいかな、なんて思ってた
桜が散る中、沈黙を破ったのは未来の方だった
「……も…」
「え?」
「私も…好きです…」
未来が震えている、とても愛おしく思えた
「えっほんとに?」
「何回も言わせないでよ…恥ずかしいじゃん…よろしくお願いします…」
恥ずかしそうに小突かれた
まさかこんな形で付き合えるとは…
夢かと思って自分の頬を抓ると痛みを感じる、夢ではないようだ
「こ、こちらこそ…よろしくお願いします…とりあえず帰ろっか」
「…うん」
腕から離れた未来と自然に手を繋いで歩く
幸い帰り道には俺達以外には人がいなかったようだ
何だか気まずくて話せず自分の家についてしまった
「じゃあ俺ここだから…」
「あ、うん、わかった、また明日ね」
「うん、また明日、じゃあね」
家に入り部屋に着くと改めて思い出す
未来と付き合えたってことに全く実感が沸かなかった
「あー送っていけばよかったかなぁ…メールで謝っておくか…」
件名:さっきはごめん!
本文:つい体が動いちゃって(汗)
さっきの話なんだけど、俺達付き合ってるってことでいいんだよね…?
-----送信が完了しました-----
一息ついてベッドに座ると緊張が解けたからか突然の眠気に襲われ、耐えきれずそのまま横になって寝てしまった
目が覚めた時にはもう18時を過ぎていてもう少ししたら夕飯が出てくる頃だった
家に着いたのは12時半頃でそこから6時間も寝てしまった
ケータイを確認すると未来からメールが来ていた
件名:大丈夫!
本文:ビックリしたけどちょっと嬉しかったよ(∗•ω•∗)私じゃなかったら通報されてたかもよー?(笑)
うん、恋人同士だね、これからよろしく春くん!
…その通りだ、いや未来だから良かったって話でもないわけだが
「てか付き合ったのはいいけど恋人同士って何するんだ…手とか繋いだりするだけ…?経験豊富そうなやつに聞くのがいいか」
ケータイを取り汐里に電話をかける
幸い、すぐに出てくれた
「もしもし、汐里?」
「あ、春ちゃん、何?」
「実は例の子と付き合えたんだよ」
「あ…そうなんだ、良かったじゃん、応援するまでもなかったね」
「いやいや、そんなことは無いよ、それで相談なんだけどさ」
「うん?どうしたの?」
「恋人って具体的に何するもんなの?汐里経験豊富そうだから教えてよ」
「…なにそれ」
「え?」
「経験豊富そうって何?春ちゃんあたしのことそんな風に見てたの?」
「そんなつもりで言ったんじゃ…」
「最低!もう春ちゃんなんて知らない!」
切られてしまった、何回かけ直しても電話に出ることはなかった
「仕方ない、メールで謝るか…」
件名:ごめん
本文:そんな風に言ったんじゃなくて知ってるかな?って思って聞いたんだ
本当にごめん
-----送信が完了しました-----
そういえば未来にもメール返してなかったな
件名:
本文:そっか、なんか実感沸かなくてさ(笑)初めての彼女だからわからないことだらけだけどよろしくね、こうして欲しいとかあったら言ってよ!
-----送信が完了しました-----
ケータイを置くとちょうど夕飯に呼ばれた
姉の冷やかしを適当に流し風呂に向かう
「そういや最近汐里の様子おかしいよな…何であんなにピリピリしてるんだろ」
湯船に浸かりながら思い返してもさっきしてしまったこと以外には全く思いつかなかった
髪を乾かし部屋に戻ってケータイを見ると未来と汐里からメールが来ていた
まず未来の方から読んでみる
件名:
本文:私も初めての彼氏だし至らない点もあると思うけどよろしくね(笑)
あ、じゃあ早速お願い何だけど月曜から一緒に登下校しませんか!←
思ってたよりこの子は積極的みたいだった
「というか、初めての彼氏って…まじかよ…」
お互い初めての恋人だけど上手くやっていける、そんな気がどこかでしていた
件名:
本文:初めてなの!?てっきり前にもいたのかと思ってたよ(笑)
未来が良いなら是非お願いします!
-----送信が完了しました-----
「さて、汐里の方はと…」
件名:
本文:別に悪気は無さそうだったしいいよ
ただ本当に申し訳ないと思ってるなら
23時に猫の像前に来て
これないならメールして
「これはどう考えても行かないとダメだよな…」
時計を見ると22時半をまわっていた
明日は土曜日だし問題はないだろう
急いで着替えて家を出ようとした時
「あら?春ちゃんこんな遅くにどこ行くの」
「ちょっと散歩、行ってきます」
「あの子も成長したわね…お姉ちゃん嬉しいぞ…」
小走りで猫の像まで向かう
やはり怒られるだろうか、はたまた散歩に付き合わされるだけなのか
色々考えていると猫の像が見えてきた
汐里はもう既にいるようだ
「こんばんは、ちょっと散歩付き合って」
「そんな気がしてたよ、りょーかい」
案の定だった、2人で桜の並木道を歩く
その間には会話は無くただ歩いているだけだった
夜に見る桜は昼見るのとは違っていて、また違った美しさがあった
俺は夜に見る桜が一番好きだった
しばらく歩くと公園が見えてきた
「あそこでちょっと休憩」
「はいよ」
汐里が不機嫌に言う、まだ怒っているのだろうか
ベンチに座り、先に口を開いたのは汐里だった
「あのさ、何であんな事言ったの?怒ってるわけじゃないんだけどさ」
「中学生の頃よく告白とかされてたじゃん、だから彼氏の1人くらい居たんじゃないかなって思って」
「いないよ、ずっと振ってきたって言ったでしょ」
「そうだった、でも何で振ってるんだよ、いい人何人か居ただろ」
「そうなんだけどね、それ以上にあたしには好きな人がいたんだよ、もう何年も想い続けている人がね」
汐里は少し悲しそうに笑った、今までで見たことのない顔だった
「何だよそれ、初耳だぞ、その相手って誰なんだ?」
「春ちゃん、君だよ」
「そっか、俺か……え?」
その瞬間、汐里にキスをされた
「春ちゃん、ずっと好きだったんだよ…?」
汐里の目が潤んでいた
「そりゃあ言わなかったし春ちゃん馬鹿だから気付かないってわかってたよ、わかってんだけどさ、それでも気付いて欲しかったんだ、期待してたんだ、それなのに彼女とか作っちゃうから…もう…わかんないよ…」
突然過ぎて全く理解できなかった
「えっと、汐里本気…?」
「本気だよ、小さい頃からずっと好きだった、でもいくら小さい頃から好きでも凄くなんて無いし振り向いてくれるわけなかったけどね」
「そっか…何かごめん、こういう時どうすればいいかわかんなくて…」
「ちょっとだけ、ちょっとだけギュってして欲しいかな…やっぱり彼女がいるからダメかな?」
俺には未来がいるしそんな事は出来るはずなかったけど、さっきした過ちを思い出しこの1回だけなら、と抱き締めてしまった
「春ちゃんありがとう…大好き」
この1回なら大丈夫…この1回なら大丈夫…そう言い聞かせた
現在時刻はもう1時
汐里も落ち着き帰ろうとしたところで
「春ちゃん、あと1個だけいい?」
「ん?何?」
「手繋ぎたい」
「それくらいなら…」
そういうと俺の手を握ってきた、夜で少し冷えてるというのに暖かかった
「えへへ、こうしてると小さい頃思い出すね」
「そうだな、よくこの道2人で通ったな」
それから家に帰るまでたくさんの思い出話をした
家の前についてからも話足りなくて10分ほど話し込んでしまった
「さすがにもう遅いから帰るね」
「おう、気をつけて帰れよ、おやすみ」
「いい夢見させてくれてありがと、春ちゃんおやすみ」
そういうと汐里は小走りで家に向かっていった