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春と未来  作者: くろ
16/19

劣等生

あの言葉が頭から離れない

自分が単純すぎるのもあるかもしれないが未来の顔は真剣だった

正直未来のことは浮気されて以来あまり信じていなかった


文化祭準備2日目

学校につくと既に仕事に取り掛かっている未来がいた


「あのさ、昨日のほんとなの?」


「ああ、春くんおはよ、本当だって言ってるじゃん」


「その、別れさせようとしてるんじゃなくて?」


「確かに別れてくれる分には嬉しいんだけどそこまでしようとは...」


「ほんとに?」


「ほんとに」


未来の目は逸れることなく俺の目を見ていた


「どうしたらいいのかな...」


つい口から出た

弱いところはできるだけ隠して行こうと決めたのに

少しだけ未来に期待してしまった


「そうだねー...昨日も言ったけどこれ以上知る前に手を引いたほうが私はいいと思うよ」


「でも曖昧なままは嫌だ、勘違いかもしれないだろ」


「じゃあ知ったらどうするの?勘違いで終わったならいいけどもし本当に浮気してたら...」


「うるせえよ!汐里は浮気なんかしてねえっつうの!」


つい大声を出してしまった

教室が静まり返る


「悪い、頭冷やしてくる」


「ん、いってらっしゃい」


教室を出ると汐里が固まっていた

さっきのが聞こえたのだろうか


「あ、春ちゃん...ごめん」


そう言って汐里は走ってどこかへ行ってしまった

唖然としたまま教室に戻る

頭はすっかり冷めてしまっていてもはや空っぽだった


「おかえり」


「マジなのか」


「何回も言ってるじゃん」


未来は作業したまま答える


俺は走って汐里を追いかけた

汐里が浮気してるわけがない

会って証明してもらう


しかし教室に行ったが汐里はいなかった

近くに汐里の友達の咲が居た


「あのさ、汐里みなかった?」


「おー、春くんか、中庭行くって言ってたよ、てか泣いてたけどなんかしたの?」


「は...?なんもしてねえよ」


「あ、そう」


若干引っかかったが急いで中庭に向かう

地味に広い中庭は少し探すのに手間がかかった

奥の方のベンチに行くと汐里が座っていた

が、隣に男が座っていた

頭を撫でながら何かを言っているがよく聞こえない

汐里は俯いて泣きながらうなずいているだけのようだった


何分見ていただろうか

なかなか動く気配がない

そう思ったとき、汐里の顔が上がって男と向き合った


俺の足は自然と教室へと向かっていた

"続き"は見なかった

何も知らない、何も見ていない

そう言い聞かせた


教室に戻って深い溜め息をついた


「おかえり春くん、死にそうな顔してるよ」


ニコッと笑いかける未来


「未来、ちょっと来て」


未来をつれて廊下の端まで行く

ここは人気があまり無く誰にも邪魔されることはないだろう


「どうしたの春くん?」


「疑ってごめん、本当だったみたい」


「何となく見たものがわかったよ」


未来は嬉しがるだろうと思っていたが

予想とは違っていて悲しそうな顔をした

どうしてそんな顔をするんだろう


「まさか同じ学校のやつだとはね」


「うん、噂だと汐里ちゃんのことずっと好きだったみたいよ」


「でも何で...」


「春くんヘタレだからじゃない?あの男の子最近では珍しいかなりの肉食って聞いたし」


確かに俺はヘタレだ

一緒に登下校なんて恥ずかしくて我慢するのがやっとだし

学校だと自分から話しかけに行くことすら怪しい

おまけに目の前に居る好きな人に好きということもできない


草食が肉食に勝てるわけなんてないんだ

戦うことすら許されず一方的に食われた


「また...また負けた...」


今まで我慢してきた弱い部分が流れ出す

劣等感や罪悪感で押しつぶされそうで

座り込み泣いた

その間、未来はずっと頭を撫でてくれた


「春くん、もう私はどこにも行かないよ、約束する」


泣きながら聞こえたその言葉は心に沁みた

凄く安心できて過去のことなど忘れてしまっていた

恋は盲目とはよく言ったものだ


「未来、付き合ってくれ」


「うん、待ってたよ春くん」


泣いていたからちゃんと聞こえているか不安だったが大丈夫なようだ

汐里からはそのうち振られるだろう


「春くん、今日うちおいでよ」


少し躊躇ったが今はとにかく何も考えたくなかった


「わかった」


教室に帰ってさっさと仕事を終わらせる

無心で作業していた

時々、未来にちょっかいをかけられたが特に反応はしなかった


準備は12時終了でその後は自由解散だった

俺と未来の仕事はそこまで大変ではなく明日には終わりそうなのでそのまま帰ることにした


教室を出たところで汐里に声をかけられたけど聞こえないフリをした


帰り道は二人共無言で俺に話す気力なんて残っていなかった

察して未来も話しかけてこなかった


自分の家を通りすぎ少し歩くと


「ここだよ」


「ほんとだったのか、めっちゃ近いな」


自分が思っている以上に近かった


「どうぞ、親はどうせ遅くまで帰ってこないし1人だから遠慮せず入って」


「わかった、お邪魔します」


未来に連れられ家に入り部屋に着く

未来の匂いがした


「ちょっと待ってて、お茶とってくるから」


そういって部屋を出る未来


放心しているとケータイが鳴る

汐里からの着信だった


取ろうか迷っていると未来が帰ってきて

俺のケータイを取り拒否を押した


何も言わず微笑む未来

これでいい気がした


今はもう何も考えたくなかった

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