再接近
あれから未来からは何も来ていない
少し気になったが前ほどでも無くなった
インフルも治り汐里とは上手くやれている
登校中に奏汰や司に冷やかされたりもしたが彼らも祝福してくれた
高校では席替えという概念が無いためずっと未来の隣だったけどそれも少しずつ慣れていった
ただ、未来のほうがやけに声をかけてくるというか、前よりさらに優しくなった気がした
何回か未来から電話が来たりもしたが関わっても恐らく厄介事だと思ったので全部無視した
汐里にもそうしろ、と言われていた
少し申し訳ないと思った
それからは夏休みのある日までは特に変わりなく平和な毎日を過ごした
汐里とは以前よりもずっと仲良くなり恋人らしいこともした
様々な場所に行ったりもしたが近場だと何故か後ろから視線を感じることがあった
そんなことない、気のせいだ
そう言い聞かせ気にしないことにした
そして夏休みに入り日も経ったころ
俺たちは夏祭りに行くことになった
汐里は浴衣を着ていてとても綺麗だった
「どう?似合ってる?」
「うん、凄く」
黒で花柄がついている浴衣でかなり俺好みだった
サンダルで歩くのが久しぶりなようで何回も転びそうになっていた
転ばないように手を繋いで祭り会場に向かった
既に会場は賑わっていてはぐれそうになったりもした
そのうち姉にも会えた
知らない男の人と歩いていて初めての彼氏のようだった
会釈だけして別れたときに俺の電話が鳴った
それは久しぶりに見る名前で思わず出てしまった
「...もしもし?」
「...春くん...?」
懐かしい声だ
「春ちゃん?誰?」
「あぁ、ちょっと外しててくれ」
「あ、うん、わかった、終わったら電話して」
そうして汐里は人込みに消えて行った
「もしもし、ごめん」
「ううん、今お祭り来てる?」
「来てるけど...」
「私も来てるんだ...少し会えない?」
かなり躊躇った
何されるかわからない
けど、少しくらいなら...とも思った
「わかった、少しね」
「ありがと、神社の前にいるから」
神社なら5分も歩かずにつくだろう
行く前に汐里に一応メールしておくか
件名:
本文:ごめん、ちょっと人に会ってくるから適当にふらふらしといて
終わったら電話する
-----送信が完了しました-----
「さて、行くか」
小走りで神社に向かう
一体何の用なんだろう
ここ数ヶ月で何回かは連絡は取ったことはあったがほとんど自分が無視したり
業務連絡だったりだったので余計気になった
神社に着くと未来が既に居た
私服だった
「あ、春くん...」
「久しぶり、どうしたの?」
「その...前は本当にごめんなさい...」
「うん?別にいいよ、気にしてないし」
気にしてないのは嘘だったが
もうどうでもいいことだったので適当にやり過ごそうとした
「そっか、実はあの人束縛が凄く強くてさ、別れたんだよね...」
「え...あ、そうなんだ」
「うん」
それを俺に報告してどうするんだろうか
慰めて欲しいのか、それともただ報告したかっただけなのか
沈黙の中で考えるが、どう転んでも答えはでなかった
すると
「あのさ、春くん」
「ん?なに?」
「あれだけ酷いこと言ったのも反省してるし今更なのはわかってる、わかってるんだけどさ
どうしても忘れられないの、よかったらやり直してもらえませんか...」
「え...?」
浮気して散々拒み続けて挙句の果てにストーカー呼ばわりした人に
復縁を求めてくる
やはりこの子は怖いと改めて思った
「ちょっと待って、俺の彼女いるの知ってるよね?」
「うん、知ってる」
「じゃあ何で...」
「彼女いたら告白しちゃいけないの?」
「いや、あのさ...」
「今すぐにとは言わないよ、返事待ってるね」
そういうと未来はどこかへ走って行ってしまった
未来の顔からして罰ゲームや冗談では無さそうだがこれは...
用件は終わったので汐里に電話をかけて
合流する
「実はさ、さっき未来に会ってきたんだよ」
「あ、そうなんだ、なんだって?」
「復縁してって」
「は?」
「もちろん断ったけどね」
「そう、ならいいや」
満足そうに笑う汐里
また嘘をついた
断る前に去ってしまったから何も言えてない
もちろん返事は断るつもりでいたし大丈夫だろうと思っていた
その後は汐里と一緒に祭りを楽しんで家に帰った
夏休みのほとんどは家で汐里と過ごすつもりでもはや同居している
ようなものだった
部屋に戻って汐里がシャワーを浴びている間、未来から電話が来た
「もしもし?」
「春くん、返事は決まった?」
「聞くの早いね」
笑いながら答えたけど未来は笑ってくれなかった
「待てなかったからさ、ごめん」
「いいんだけど、さっきも言ったけど彼女いるし未来とは付き合えない」
「そっか...」
「ごめん」
「いいの、私ずっと待ってるね」
「振り向くかわかんないのに?いつまでも待ち続けるの?」
「うん、春くんのこと大好きだから」
以前は好きだった言葉
だけど今聞いても1ミリも響かない
むしろ吐き気を覚えるレベルだった
「そっか、ありがとう」
俺が待っても振り向かなかったのに
気付いたら追われる側になっていた
この子のしたいことがよくわからなかった