変化
橋の上で川を無心で眺める
吸い込まれそうな、引き込まれそうな
川が流れる音だけが耳に入ってくる
それ以外の刺激は脳が全て遮断してしまったようだった
「春ちゃん?!なにしてんの!?」
汐里が後ろから慌てて抱き付いてくる
「何、どうしたの」
「どうしたのじゃないよ...」
気付いたら俺は橋の手すりに半身を乗り出していた
「こっちの台詞だよ、何してんの」
「いや、無意識に...」
汐里が深い溜め息をつく
「家行って様子を見に行ったら居ないしお母様に聞いてもしらないっていうから心配で...」
「そっか、ごめん、色々あってさ」
それから汐里に先ほどあったことを話した
話し終わったころには汐里はなぜか泣いていた
「なんで...なんで,,,そこまで...」
「依存するくらい好きだったから、かな、さすがにあそこまで言われたら冷めちゃうし諦められるけどね」
そう笑いながら答える、この言葉に嘘はなかった
あの男の人のおかげで未来のことを忘れることができそうだ
「なあ汐里」
「ん...?」
「付き合おっか」
「え...?春ちゃんはいいの...?」
「もういいよ、大丈夫」
少しも悔いがないと言えば嘘になる
でも無理だとやっとわかった
こればっかりはもう何をしても元に戻ることはないだろう
友達にすら戻ることも
「こんな形で付き合うことになってごめんな」
「あ、いや、あたしはいいんだけど...てか風邪大丈夫だったの?インフルだったんでしょ?」
「そういやそうだったな、早く帰らないと」
「もう...これ以上心配かけないでよ」
笑いながら小突かれる
「汐里、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくね春ちゃん」
そのまま手を繋いで二人で帰った
その光景を誰かに見られてるなんて全く考えていなかった
二人で家に帰って部屋に入る
改めて意識すると凄く恥ずかしい
汐里を見てもどこか落ち着かないようだ
「「あのさ」」
「あ、春ちゃんからいいよ」
「汐里から言えって」
「えー...じゃあお先、あたし達さ、本当に付き合ったんだよね...」
「ああ、そうだな」
「やっぱりさ、その、そういうこととかするのかな...」
真っ赤な顔の汐里が言う
一瞬わけがわからなかったがすぐに理解し俺の顔も熱くなる
「いや...まだ早いだろ、順序ってあるじゃん」
「そ、そうだよね!ごめんねあたしってば...」
手で顔を仰ぐ汐里、めちゃくちゃ可愛いかった
「ま、まあでも...キスくらいなら...」
「キ、キス!?!」
そんな驚くことなのだろうか、ある夜は汐里からしてきたのに
「うん、だっていつだったかの夜にお前から...」
「あー、聞こえない聞こえないー、あー」
必死に隠そうとしている
ちょっと悪戯してやろう
「汐里、ちょっとこっち来て」
不思議そうな顔のまま近寄ってくる汐里
そのまま不意打ちのキスをした
顔を離した時には汐里の顔はさらに赤くなっていて
放心したまま数分動かなかった
放心した汐里はほっといて熱を測る
39.6とまだまだ下がりそうには無かった
「あんまり近くにいるとインフル移るぞ」
「へ?あ、ああ、あたしは大丈夫だよ、体強いし」
というか今何時なんだろう
確認すると22時だった
「こんな時間だけど帰らなくて大丈夫なのか?」
「平気平気、23時半ごろに帰ればね」
そういって時間ギリギリまで看病してくれた
疲れを一切見せずに付きっきりで看てくれた
コップを割ったりお粥をこぼしたりと今日はやけに落ち着きがなかったが...
母親と姉は二人して
「春ですねぇ」
とかいって笑っていた
「じゃあそろそろ帰るね、お大事に」
「おう、ありがとな」
少し名残惜しい気もするが押し込めて見送ろうとすると
何故かモジモジして動かない
「ん?どうした?」
「あのさ、さっきのもう一回やってくれない...?」
「さっきのって?何?」
「言わせないでよ!!キスしてって言ってるの!」
大声で汐里が言う、こりゃ下まで聞こえたわ...
変なことになる前に汐里を引き寄せてキスをする
「えへへ、ありがと、おやすみ春ちゃん!」
「おう、おやすみ」
満足そうに帰って行った
そのあと姉と母親が部屋に入ってきて事情聴取をされたのは
いうまでもない...




