可能性
夕方、汐里に起こされ目が覚めると16時半だった
「春ちゃん、お母様が病院行くって言ってたから早く支度して?」
寝起き早々動かされる、しんどい
体はなんとか起こせたがまだ辛い、というか若干ふらつくような…
体温計で熱を測ると39.7まで出ていた
「こりゃインフルかもな…」
「馬鹿なこと言ってないで、早く行くよ、あたしは見送ったら帰るから、明日からは学校行かないと」
そういえば休んでいたんだった
汐里は体が丈夫で風邪を引いているのをあまり見たことがない
重い病気にかかったとも聞いたことがないのでよほど免疫力があるのだろう
「わざわざありがとな、治ったら何か奢ってやるよ」
「はいはい、治ったらね」
ふらつきながら着替え、車に乗り込む
「気をつけて帰れよ」
「うん、それじゃ」
汐里に見送られ車が動き出す
家から病院までは車で10分くらいだろうか
熱のせいで頭がぼーっとし特に何も考えなかった
車が走ること5分、ぼんやり外を眺めてると見覚えのある後ろ姿が見えた
未来だった、例の男の人と手を繋いで歩いている
見ている間は呼吸をするのも忘れていた
通り過ぎる瞬間、ふいに未来と目が合った
未来はバツの悪そうな顔をしてすぐに目をそらし、また男に笑いかけた
その時俺は、もうダメなんだなと思った
何をやっても振り向かない
車酔いなのかストレスなのか、吐き気が襲ってきてその場で吐いてしまった
親には怒られたけどそんなこと気にしていられなかった
病院につき放心しながら診察を受ける
どうやら本当にインフルだったようだ
「汐里ちゃんに移ってないかしら…」
…と息子より幼馴染みの心配をしていた
本当に母親なんだろうか
「汐里より俺の心配してよ母さん」
「あら、あなたはほっといても治るでしょ、汐里ちゃんは女の子なんだから心配だわ…」
何かもう言ってることが滅茶苦茶で逆に笑えてしまった
帰りの車の中で未来にメールをしてみた
我ながら馬鹿だとわかっていたけど
まだチャンスがある気がした
件名:
本文:何回もごめん
未来が居ないとダメなんです、返事してもらえませんか
お願いします
-----送信が完了しました-----
手が震えていた
もはや戻れなくても返事が欲しかった
付き合うことは無理でも友達に戻りたかった
それも叶わないと知るのは数時間後のことだった…
家に帰り布団に入る
どうやら親が学校に電話しているようだ
1週間休みか…退屈だな…
その間、奏汰と司に相手してもらうか…
そんな事を考えていると意識が飛んでしまった
目が覚めたのはケータイの着信だった
未来からで心臓が大きく跳ねる
いくら深呼吸しても収まることはなく手も震えてきた
落ち着こうとしているうちに電話が切れたがすぐにかかってきた
時計を見たら21時半だった
電話を取ると
「あ、でた」
久しぶりに聞く未来の声、泣きそうになったがすぐに現実に戻された
「はい、とうご」
「え…?」
はいって…変わるってことなのだろうか…混乱していると
「もしもし?あんたが未来のストーカー?」
「は…?」
「あのさ、メール送りまくってんのお前だろ?」
「え、いや、待てよ」
「未来がさ、迷惑してんだよ、2度とメールしてくんな」
そう言われ電話を切られる
ケータイを耳に当てたまま俺は動くことが出来なかった
迷惑?え?
頭が真っ白のまま俺はメールの画面を開いた
件名:
本文:さっきのどういうこと?
-----送信が完了しました-----
何も考えないまま未来にメールを送った
するとすぐ電話がかかってきた
「も、もしもし…?」
「お前さ、話聞いてなかった?気持ち悪いんだよストーカー死ね」
話す暇すら与えてもらえない
これ以上は危険な気がした
ショックで何も考えられなくて
頭の中でさっきの言葉が繰り返される
"気持ち悪いんだよストーカー"
無意識に移動していたような気がするけど、よく覚えていない
気付いたら橋の上に立っていた