崩壊
次の日も比較的に早く起きられた
高校に入ってから多少朝にも慣れてきたようだ
支度をし朝食を食べ猫の像へ向かう
昨日のことをぼんやり考える
あれで良かったんだと自分に言い聞かせ忘れようとした
まだやり直せる、きっと大丈夫
考え事をしているうちに猫の像へつくと既に未来がいた
「あ、春くん、おはよ」
「未来おはよう、行こっか」
並んで歩き出すものの手は繋いでおらず会話もない
………気まずい
多分俺から話を振った方がいいんだろう
「えっとさ、昨日の事なら忘れていつも通り行こ?」
「え、あ、うん」
会話が止まる、やはり気にしているのだろうか…
「あのさ、春くん」
「うん?」
真剣な顔で未来が問う
何となく嫌な予感がした
風に乗って桜が降りてくる
長い静寂で、その風の音しか聞こえなかった
すると今度は、未来の顔が泣きそうな、とても辛そうな顔をしながら口を開いた
その時、未来の言葉以外の音は何も聞こえなくなった
「別れてください」
「え…?昨日のことは忘れよって…」
「ごめん、やっぱりそれは出来なかった…はっきり言うと春くんより彼の方が好きなんだ」
「え…あ…そ、そっか…」
「うん、ごめんなさい」
「いやいや、いいんだよ、ありがとうね」
「うん、それじゃ」
そういうと未来が走って学校へ向かってしまった
整理するにも頭が働かなかった
働くことを拒否した
心にも大きな穴が空いたようで
放心状態のまま学校につく
既に隣の席には未来が座っていた
「黒瀬くんおはよ」
「あ、えと、おはよ岸谷さん」
心に突き刺さった、すごく離れて行った気がしたのと同時にこの子は怖いと思った
それから特に会話はなくひたすら未来は読書をしていた
今日から授業だったがあまり頭には入ってこなかった
つい先日まで恋人だった人が隣にいるのは複雑で辛かった
必死に授業を受けている振りをして自分の弱い部分を隠そうとした
すべての授業が終わると未来はそそくさと帰ってしまった
「あれ?春樹、岸谷さんはどうした?まさか振られたとかー?」
「うるせえよ…」
「え、まじなの?嘘じゃん」
興味津々で笑いながら煽ってくる司
もうそれに返す気力などほとんど残っていなかったが
「少しは考えろ司、お前も失恋したときこんなんだったろ」
「すまん…」
奏汰の抑止によって司がようやく反省した
無理もない、司には何も言ってないのだから
「司も反省したことだし帰ろうぜ、今日ゲーセンでも寄って春樹の元気出させる会だな」
「いいね!遊びまくろうぜ!」
2人の優しさに泣きそうになった
司は便乗しているだけだったがそんな事は気にならなかった
それから3人で遊び家に帰るとどっと疲れが来た
多少気分は軽くなったがまだ重い
シャワーを浴びて部屋に戻ると着信が来ていた
汐里からだった
何の用だろうか、かけ直してみる
「もしもし春ちゃん?」
「どうした?」
「あ、いや、奏汰くんから聞いたよ」
「あの事か、振られちゃったよ、あはは」
「そっか…今時間ある?散歩いかない?」
時計を確認すると8時すぎ、明日も学校だけど大丈夫だろう
「わかった、すぐ支度して行く」
電話を切り、着替えるとあの夜のことを思い出した
やはり汐里はまだ俺のことが好きなのだろうか
「春ちゃんどこ行くの?」
「ああ、汐里と散歩してくる」
「わかった、あまり遅くならないようにね」
「ありがと、行ってきます」
姉に見送られ外に出ると汐里が待っていた
「おまたせ、行こうか」
「うん」
汐里は何も聞いてこない
聞きたいことは山ほどあるはずなのに聞いてこない
気を使ってくれてるのだろうか
少し歩いてあの公園についてベンチに座る
「結局振られちゃったよ、浮気の話も本当だった、疑ってごめん」
「ううん、いいの、その、春ちゃん大丈夫?」
どういう意味で言ったのかわからないけどおそらく精神的な意味でだろう
「大丈夫って言えば嘘になるかな…」
「我慢しなくていいからね、好きなだけ吐き出すといいよ」
そう言われた途端、我慢していた感情全てが出ていった
ダムが決壊したように勢いよく
泣きながら経緯を話した
その間汐里は黙って聞いてくれた
気付いたら手を握っていた
「そっかそっか、辛かったね」
そう言いながら頭を撫でて抱き締めてくれた
すごく安心した
未来に振られたショックと汐里を疑った罪悪感、それでも許してくれた事にさらに泣いた
「ごめん汐里、本当にごめんなさい…」
「謝らなくてもいいんだよ、信じられないのも無理はないからね」
その後やっと泣き止み、落ち着いた頃には時刻は22時半を回っていた
「そろそろ帰ろうか」
笑顔で汐里は言う
「うん」
帰り道も無言だった
それで良かった、心地よかった
汐里も何も言ってはこなかった
家の前につくと汐里が
「あのね春ちゃん、あたしまだ春ちゃんのこと好きだ、今はまだ吹っ切れてないと思うし辛いと思うけど、私はいつまでも待ってるから」
「わかった、ありがとう、気をつけて帰れよ」
「うん、ありがと、おやすみ春ちゃん」
家に入ると姉が迎えてくれた
「おかえり、冷えたでしょ、ココアでも飲む?」
「ああ、お願い」
リビングで待ってる間、先ほどの言葉が頭に何度も流れた
汐里は優しいし頼りになる、しかしまだ未来の存在の方が大きかった
「はいお待たせ」
「ありがとう」
「じゃあお姉ちゃん先に寝るね、コップは台所置いといていいから」
「わかった、おやすみ」
相変わらず眠そうに待つ姉、わざわざ待ってなくてもいいのにと思いつつも感謝した
未来を忘れるということが信じられなかった、そもそもそんな事が出来るのか?
自問自答しながら飲むココアは今の自分の立場とは違ってとても甘かった
まだ、まだやり直せるかもしれない
飲み終わったコップを洗って台所に置き部屋に戻るとケータイを手に取った
未来にメールを送る、もしかするとこれが最後のメールになるかもしれない
件名:
本文:遅くにごめんね
あれから色々考えたんだけどやっぱり未来が忘れられないんだ
わがままだとはわかってるけど未来がいないとダメなんです
やり直せませんか
-----送信が完了されました-----
上手くいきますように
そう願いながら眠りについた