パジャマパーティー……だよね?
投稿日 H26.11/05
「私は腰を振ってますわ〜」って…。
思わず口に含んだジュースを噴き出しそうになってしまった。彼氏さんとラブ×2なのか、それともイケナイお店で掛け持ちなのかと思ったが、ベリーダンスやポリネシアンダンスにハマっているらしい。結構な運動になるようで、この脅威のクビレもダンスの賜物だという。
ただボクの口周りを拭いてくれるのは嬉しいのだけど、パジャマのボタンを3ツも外しているので胸の谷間が……。
最後は桃花さん。例のメイド服以外は着るのが恥ずかしいっていう人だ。一番小柄で髪は三つ編みのお下げの眼鏡っ娘。見た目地味なんだけど何か変態っぽい……というより危ない感じ。さっきもパジャマを着て欲しいとの要望に恥ずかしがっているというかハァハァしてた。で、質問の答えなんだけど…。
「……知りたいですかぁ」
俯きがちな顔の眼鏡が曇り、チェシャ猫のように口角を上げて笑った。
「け……結構です」
「それは良かったですぅ。世の中は知らない方が幸せな事も在りますからぁ」
怖ッ!!絶対、黒魔術とか悪魔召喚とかしてそうだ。でもコンタクトレンズに換えて髪型整えれば美人っぽいのになぁ…、勿体ない。
三人の名前とキャラクター性が分かった事で夢乃ちゃんが仕切る。
「それでわぁ〜、王様ゲィィィィィィィィィムッ!!!!」
物凄い気合いの入れようだね…。ビブラートまで加えて……。
まぁ説明は要らないだろうけど一応。箱に入れた“数字”や“王様”と書かれたクジを同時に引き、王様を引いた人が数字の人に命令出来るというゲームで、命令は単体でも複数人でもOK。ただし数字を引いた人は自分の数字を他の人に教えちゃ駄目。
これが基本ルールなんだけど、段々命令がエスカレートするのがデフォなので大変危険なゲームだ。
「「「「「せ〜の、王様だ〜れ〜だ!」」」」」
残念ながらボクは2番。小百合さんと桃花さんはため息を吐いたし、夢乃ちゃんは明白に肩を落としたのを見ると桔梗さんが王様を引いたらしい。まぁ序盤だし、生真面目そうな桔梗さんだから変な事は命じないだろう。
「……それでは」
桔梗さんは王様の札を掲げて「どうぞ」と夢乃ちゃんに差し出した。
「有り難う」
アウトーーーーーーッ!!!!
こんな正々堂々とした不正は初めて見たよ。「どうぞ」じゃないでしょ。夢乃ちゃんも当たり前のように受け取らないで。
憤るボクは「メイドごときがお嬢様に命令出来る訳が無いだろう」と何言ってんだコイツみたいな呆れた目で見られた。他の二人も当然とばかりにウンウンと頷いている。
エエッ?ボクが間違ってるの?
流石にルール無用ではゲームにならないので中止にして貰う。で、不服そうに頬を膨らます夢乃ちゃんはお菓子の山からポッ○ーを取り出した。
どうやらこれまたコンパでは定番なポッ○ーゲームをするらしい。このゲームはポッ○ーの端を互いに啣えて食べ進み、キスになりそうなのを我慢出来ず逃げ出した方が負けという一種のチキンレースである。あまり親しくない異性や同性でやると(ギャラリーが)面白い。
夢乃ちゃんは赤い箱から一本抜き出して、
ポキン
口に啣えた。
「さぁ、紅梨ちゃん!」
「STOーーーP!!何で折ったの!?いくら何でも短過ぎるでしょ!それじゃイキナリ0距離でしょうが!!」
思わず叫んでしまった。もう勘違いじゃ無い。この一連の流れは何かを企んでるソレだ。初めから夢乃ちゃんはボクを女の子として扱ってる訳じゃ無かったんだ。
取り囲まれていたのを助けてくれた事もあるし、コッチは夢乃ちゃんの顔を潰さないようにと恥ずかしいのを必死に我慢してたのにボクをからかって馬鹿にしてたんだ。
「帰る!母様を連れて帰ります!」
先祖からの櫻坂家との懇意とか知った事か!そんなのボクには関係ない。ルージュ=ペァだってやりたくてしてた訳じゃ無いし。
立ち上がろうとするボクを抑え込もうとするメイドさん達に抵抗して暴れる。女性だから殴ったりは出来ないけど、振り払うくらいはしてやる。
その時、暴れるボクのパジャマから何かがポタリと落ちた。
《感度抜群!極薄0.02ミリ。快適な家族計画を貴方に》
・・・・・・・・・
「何だ、その気だったのでは無いか…」
「アラアラ、お邪魔だったみたいね〜」
「無理矢理ぃ捩込まれて喘ぐ夢乃様ぁ……萌えるぅ。ぐふふ」
何を思ったのか生暖かい目をしていそいそとその場を去っていく。
「ち…違うんです。コレは……」
あらぬ方向での勘違いを解こうと追い掛けようとする紅梨のパジャマがグッと引かれる。それは顔を此の上なく赤く染めて俯く夢乃だった。
「……夢…乃…ちゃん?」
「………だ」
一本では足りないと思ったのか今度は両手で紅梨の足を抱え込むように縋って首を振りながら泣き喚く。
「は…放して、手を放してください!脱げる……脱げちゃいますからーーッ!」
「やだ…絶対やだ!帰っちゃヤダァァァァァァァーーーーーッ!!!!」
それは普段の理知的で年上のように包容力があり、朗らかな夢乃では無く、幼子のようにか弱く儚げな少女だった。
――時刻は午前2時――
一人で使うには広過ぎではないかと思われる部屋に寄り添う影があった。
泣き疲れた夢乃は紅梨の胸元を握り締めて眠っている。
昨日は怒涛の一日だった。いつものように朝登校してクラスメイトと学生生活を送っていた。新人アイドルの話で(友人だけ)盛り上がったり、盗撮犯(親友)を吹っ飛ばしたり、体育の授業で一悶着あったりしたがそれは普段と変わらぬ日常だった。
だが、下校時に幼女を車に轢かれそうになるのを助けた事から一変した。
集まった野次馬にもう一つの名を呼ばれながら詰め寄られ、過去のトラウマでパニック症状を引き起こし掛けたのを夢乃に助け出された。このあたりは記憶が曖昧なのだがどうやら病院に担ぎ込まれていたらしい。
検査を終え、医師の許可がくだると夢乃の実家である櫻坂邸に連れ込まれた。
ここからは実は全てが仕組まれていたのではと疑いたくなる程、ピンク色がかった内容だった。
まず予め用意されていたかのようにサイズピッタリな私服、パジャマ、そして下着までが出て来た。
次に湯殿での待ち伏せ。これは油断していた紅梨の精神を揺さ振るに効果絶大であった。
更に露出過多な衣装でのパジャマパーティーに続いて中等部らしからぬアダルティブなゲーム。
貸し与えられた衣装やシチュエーションは女子であるにも拘わらず、実の内容は男子として追い込むものばかりだった。
ほんの小さな疑心がドンドン大きくなり、全てが自分を貶めるものと思えて来る。このままでは自分を抑え切れず最悪の結果を招いてしまう。だがら紅梨は自らキレた。そして得たものは………酷く弱々しい女の子の涙だった。
ピンク系の可愛らしいアイテムに充ちた部屋の真ん中で紅梨は困り果てていた。夢乃が胸元を握り締めたまま縋るように眠ってしまったからだ。泣かせてしまった罪悪感もあるが、この体勢を維持するのにも疲れてきた。
何より思春期真っ盛りの男女が二人きりで夜を過ごして朝帰りなど問題にならない訳がない。ましてや相手は櫻坂家のお嬢様で三人のメイドに避妊具まで見られている。これで何も在りませんでしたなどと誰が信じようか?早々に貸し与えられた客室に撤退したい。だが、肝心の夢乃が声を掛けても揺すっても起きないのだ。
これは少し強攻策に出るしかないのだろうか?誰かさんのように殴る訳にもいかないし、引っ叩かれるのを覚悟でお尻や胸を触ってみるとか…?
「確か、お伽話だとキスしたら目覚めたりするんだよね……」
何気なくそう呟いてしまったが、その瞬間ビクッと夢乃の肩が震えた気がした。何か耳も赤くなってるし……。
「夢乃ちゃん……もしかして起きてる?」
肩を掴んで引き離そうとするが、脇をグッと引き締めて、より強く手を握り締めて離されないようにしてくる。
あれ程モーションを掛けてきたのだ、つまりはそういう事だろう。ヤレヤレ…とため息を吐きつつガクッと肩を落とす。
「どうなっても知らないからね……」
背中と膝の裏に腕を回して抱え上げる。所謂“お姫様抱っこ”というやつだ。思っていたより軽い事に驚きつつ、小刻みに震える夢乃をベッドへと運び、ユックリと降ろす。まだ手を離さないので必然的に伸し掛かるような体勢になる。そのままベッドに上がり込んで背中を撫でながら向かい合わせで抱き寄せると夢乃は無言で小さく頷いた。
パジャマ越しに夢乃ちゃんの体温と鼓動が伝わって来る、きっとボクのも伝わっているだろう。
互いのリズムが重なり合い、ユックリと溶け合っていく。そのペースが一致した頃、夢乃ちゃんは小さく穏やかな寝息をたてていた。
午前3時より少し前。力の抜けた細い指からパジャマを引き抜くと、そっとベッドから降りた紅梨は眠れそうも無いのである場所を目指していた。邸内は完全に静寂に包まれていたが、もし警備担当の桔梗さんが巡回していたらまた一騒動になってしまうかもしれない。
櫻坂邸の露天風呂は掛け流しになっているので24時間いつでも入れるとの事なので強張った身体を解しにきたのだ。
フェイスタオルからバスタオルまで用意されているので気楽に入浴出来る。で、紅梨は躊躇なくスポーツタオルを手に取った。何と無く男っぽいという理由で。
脱いだはしから脱衣籠へと雑に放り込む。このあたりは男の子共通の所作だ。ガラッとガラス戸を開けて入ってきた紅梨は胸元からタオルを垂れ下げさせて体を隠している。どうも胸が膨らみ始めたあたりから無意識にしているようで本人は気付いていない。
さすがに夏の終わりといえど深夜には気温は下がり、僅かに肌寒く感じる。早く湯に浸かった方が良さそうだ。
「紅梨殿か…このような時間にどうされた?」
何と先客がいた。口調から察するに桔梗さんだろう。だけどポニーテールをクルリとお団子に纏めた彼女は背中を向けているのに何故判ったかというと他の屋敷の方々とは足捌きが違ったからだそうだ。
「いつまでもそこに居ては風邪もひこう。私は構わぬから入るといい」
確かに吹き晒しの中、裸で突っ立ってるのもアレなので離れた場所で浸かる事にした。
一番遠い反対側なら中心にある岩山が遮蔽物となって桔梗さんの裸を見ないで済むだろうと、念の為に岩山に背を預けて座っていたのだけど……。
「何故隠れる?話しにくいでは無いか」
「ブフォッ!?」
突然間近から声がしたので反射的に振り向くと桔梗さんが素っ裸で立っていた。それはもう漢気溢れる(女性なのに)隠し事の無さで。背の低いボクが座っている横に立てば必然的に……。
「フム…、お嬢からは貴公は殿方だと伺っていたのだがな。私の聞き違いだろうか?」
ジッと見詰めるのはボクのAA以上A未満の胸のあたり。下はスポーツタオルを巻いているので直接は見えない。あまりガン見されるのも恥ずかしいので一応隠しておく。
確かに細いし、華奢で女顔ですよ。そりゃ筋肉質でもありませんしね……でも裸まで見られて性別悩まれるってどんだけですか?何ですか、99%女性で1%のアレだけが男性だとでもおっしゃりたいんですかね!?
本気でその1%の部分を見せてやろうかと考えてしまった。見栄張って2〜3%位にしてから…。
「お嬢はどうした?優しく“して”差し上げたのか?」
「“優しく”かどうかは判りませんが、(泣き)疲れてベッドで寝てます」
「まぁ、若いから仕方が無いが、まだビギナーなのだから焦らず……な」
あれ?一見、話が合ってるようで何か微妙に齟齬があるような……?
「あの……夢乃さんは寝てる“だけ”ですよ」
「だから、お嬢と“寝た”のだろう?」
「「……………」」
「すまぬ……申し訳無いが一度“確認”させては貰えぬだろうか…」
確認って……この状況で何を確認したいんですかね?
「確かに昨夜の貴公の反応はウブな少年のそれであった。だがあれ程煽られながら、尚且つあの様な物まで持ち込んでおいて何もしなかったと!?お嬢が眠るまで、いや寝た後ですら淫行に及ばなかったと?確かに貴公からは淫水の匂いがしない。てっきりそれを洗い流しに来たとばかり……。ならば本当は女人では無いのか?待て、それではあの様な物を持ち込む理由が……」
お嬢様、自重してください