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アイドルなんて嫌いです!  作者: 式神 影人
5/19

一難去って

投稿日 H.26.11/03



「真面目な話、少々困った事態になったのは確かです」


 目覚めた際、過去の恐怖がフラッシュバックしパニック症状を起こしたが、夢乃の顔を見て落ち着きを取り戻し、主治医の検査を済ませた紅梨にこう告げた。


「貴方は制服姿で写真に収められた。つまりネット上では既に学園を特定されていると思います」


 ならば居住区の特定も容易いだろう。ましてこれだけ特徴的な容姿であれば尚更。


「貴方は今や時の人なのですからもう少し自重してくださると助かります」

「うん……ゴメンナサイ」


 連絡を受けて駆け付けた紅梨の母親をどう諌めようかと思案したが、存外落ち着いていたので安心した。いや、一騒動起こすなら既に紅梨の事を話した時点でだっただろう。普段は我が子激ラブな彼女であるがちゃんと神名代家現当主としての一面も持ち合わせていたようで、驚く程冷静に今後の対応を話し合う事が出来た。


「ですので暫くは我が櫻坂の家から通学されては如何でしょうか」


 これまでのように自宅である神社から徒歩で通学するにはリスクが多い事がその理由だ。


「そうね、あかりタンの母としてだけで無く、学園の理事長としても不要な混乱を回避出来るし、とても有り難いお申し出だわ。で〜も〜、あかりタンとラブ×2出来ないのは淋しいかな〜」

「ですが、ご自宅より万全の体制をとれますし」

「そんな事言って…。実はこれ幸いとあかりタンの事食べちゃう気でしょ?」


 ジト目で睨め付ける様にこの事態に及んで何を…と呆れながらも安心させる為に夢乃は笑顔でこう告げた。


「当然じゃないですか、お義母様」





 早くも未来の嫁姑戦争勃発……にはならず、櫻坂から車で送迎する事で折り合いが着いた。



 主治医の許可も下りたので紅梨とその母親は自宅に帰る事と相成った訳だが、夜も晩し女性のみで夜道は危険だとの理由で櫻坂家に泊まる事になった。

 「ボクは男…」だとは既に口に出せる雰囲気では無く、母親であるきららに至っては「あらあら、早速攻めて来たわね〜」と面白がっていた。

 流石に年頃の男女が一つ屋根の下というのはマズい。いくら友人と言えど相手はこの街そのものと言っても過言では無い櫻坂家の御息女だ。妙な噂が立っては…。


「あの…、制服(女子用)が汚れちゃってるし……」

「今夜中に綺麗になってますわ」


「……着替えや下着が…」

「まぁ!こんな所に“偶然”サイズぴったりの新品が」

「………」


 何故“偶然”新品の下着が有るのだろう……しかもブラまで。明らかに夢乃ちゃんじゃ収まり切らないよね、コレ。


 鞄は脇に置かれていた。帽子や日傘まで…。明日は体育の授業は無いがきっと制服と共に新品同様に洗い上がっていることだろう。


「そ…そうだ!パジャマ、パジャマが無いよ」

「こちらなんてどうかしら?」


 取り出されたのは水色の如何にも女の子用って感じのフリルのあしらわれたシンプルだけど可愛らしいデザインの上下。


「困りましたわね…。あとはコレしか……」


 躊躇する紅梨に提示されたのは向こう側が見える程に透け透けな超ミニ丈のネグリジェ。所謂ベビードールというタイプだ。

 ハードルが高過ぎる代案に項垂れるしかなく、


「……さっきのでお願いします」


お泊りを受け入れる他無かった。




 延々と続く一本道を走り、辿り着いたのは巨大で頑丈そうな鉄製の門扉。監視カメラまで設置されており、警備の厳重さが伺える。入って直ぐに門番の詰め所があり、車内を確認すると扉が左右に別れ、その先へと車はスピードを抑えて進んでいく。

 舗装された道の先には大きな噴水がある公園レベルの広大な庭。更にその向こうにはセットのようなお屋敷が見えてきた。


 そういえば夢乃ちゃん家はお金持ちだと聞いた覚えがあったけど、どうやら想像していたより遥か斜め上だったようだ。あ……今更だけど緊張してきた。



「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」


 大きな噴水のある大きな庭を迂回して漸く辿り着いた玄関先。取り敢えず薄汚れた制服しか無いので着ていたけど、かなり場違いな気がする。


 車が横付けされると同時に開かれる重厚な玄関扉。その向こうには何人もの執事やメイドさんがズラリと列んで頭を下げていた。一糸乱れぬ所作にその教育の高さと厳しさを感じて後退る。

 なのに夢乃ちゃんは当然として何故母様まで平然と歩けるのだろう。



「まずはコチラに…」


 案内されたのは大きな姿見鏡と沢山扉がある部屋。簡素なテーブルと数脚のソファー以外には化粧台と思われる三面鏡が有るだけの部屋。寝具が無いのでベッドルームでは無さそうだ。


(嫌な予感が……)


 母様は後ろのソファーで優雅にティータイム中。しかも凄く良い笑顔だ。


「失礼致します」


 訳も解らず立ち尽くすボクの傍らに二人のメイドさんが近寄ったかと思うとあっという間に下着姿にされてしまった。


「ちょ……あの……」



 流石はプロ、素晴らしい手際の良さだった。まったくボクに負担をかける事なく着替えが完了している。まさかコルセットでギュウギュウに締められてやたらフリフリヒラヒラなドレスを着させられるのかと思ったがそんなラノベのような展開は無く、むしろとてもカジュアルなブラウスとスカートだった。素肌で直に着る事は出来ないのでキャミソールというインナーを着用する事になった。

 安堵と拍子抜けな溜め息を吐いたものの、この服……一見なんの変哲も無い有り触れた物に見えるけど、この肌触りと丁寧な仕立ては絶対にしま○らやユ○クロじゃ無い。


 で、只今三面鏡の前に座ってメイクアップ中。メイクと言ってもお化粧じゃなくて髪を梳かれながら汚れ落としと簡単なスキンケアのローション+マッサージ中。

 こうして手を加えられると本当に女の子みたいに見えてくる。胸も膨らみ始めちゃったようだからどうにかして男性ホルモン(?)を増やす方法は無いだろうか……。


 出来たらボクの後ろで頬を染めた顔を背けつつ、円筒状に軽く握った拳を上下させる鏡に映った母様以外の方法で……。っていうか何故解った。

 

 一休みを入れてから改めて今後の打ち合わせ。ルージュ=ペァとしてネット配信や生ライヴなどの日程、神名代紅梨としての生活。


 ……………そして。




「まずはお風呂に入りましょ。汚れてるでしょ?」


 ……ですよね。うん、分かってた。




 お金持ちってさ……一人ずつしか入らないのに何で無駄にお風呂が大きいのかな?しかもライオン像か裸の女神像からお湯を溢れさせたりさ……。


 櫻坂家のお風呂は岩で囲まれた露天風呂までありました。しかも大きな温泉旅館並の。折角だから露天風呂にしよう。

 でもね、扉を開けたら脱衣所にメイドさんが居て、「お手伝いを…」って言ってきたので「一人で出来ますから」と背中を押してご退出願った。

 脱衣籠にバスタオルが用意されていたので持ち上げてみると……有りました。例の水色のパジャマと真新しい上下の下着。準備万端、手際が良過ぎる。

 流石に余所様で真っ裸は気が引けるのでスポーツタオルをお借りして腰に巻く。………一応胸も巻いておこう、露天だしね。


 実はお風呂大好きなのでハミングしながら上機嫌でガラスの扉をスライドさせて歩いていく。


 本当に凄いや。一番近いビルだって遥か向こうにあるので覗かれる心配も無いし、桶は檜製でシャワーや洗い場は内湯の方にしか無かった。流石、解ってらっしゃる。で、内湯にちゃんと有ったよ、女神像。肩に担いだ水瓶から滝のように流れ出てた。それにバスタオル一枚の露出過多なメイドさ………エッ?


 ゆっくりと振り返ると「お身体を洗わせ……」言い終わる前に反転させて脱衣所へと押し出した。

 冗談じゃないよ!刺激が強過ぎる。例えバスタオルの下に水着を着ていたとしても中等部にするサービスじゃない!



 では、気分を改めまして……、まずは桶で汲んだお湯で身体の汗と汚れを流してから。外気に晒されている分、少し温めなお湯だった。

 胸と大事な所を押さえて爪先から……。


「ハゥ……、イイ気持ち〜〜。ヤッパリ日本人はお風呂だよね」


 ボクだって分別はあるからいくら大きくったって飛び込んだり、泳いだりしないYO!


「でしたらタオルはお取りになっては如何?」

「いや〜、何ていうか流石にそれは恥ずか………」


 よく知る声が物凄く近くから聴こえた。ギギギ…と油が切れたブリキの玩具みたいに振り向く。


「な……何で夢乃ちゃんがココに…?」

「私の家のお風呂ですもの、不思議ではないでしょ?」


 うん、確かにそうなんだけどね。そこでハタと気が付く。ここってお風呂……。

 夢乃もまたバスタオルを身体に巻いただけであった。しかも何故か豊かなお山のテッペン近くから巻いており、その渓谷は深そうだ。一度湯に浸かっているのかタオルと素肌の親密度はかなり高い。おヘソなんて窪んでるのがわかるし、その先は………マズイ、鼻血出そう。

 ボクの視線に気付いたのかタオルに手を掛ける。


「ああ、私も外した方が良いですのね」

「ウワァァァッ!?駄目です!外しちゃ駄目ですーーーッ!!!!」


 ・・・・


「そのように背中を向けられては話し難いですよ」


 そんな事言われても一度意識してしまうと顔は熱いし、心臓はバクバクいってるし、アレはアレだし……。そうだこんな時は母親の裸を思い浮かべればいいって………、ってダメだーーーーーーーッ!!!!母様は見た目だけなら高等部と変わらないんだったーーーーッ!!!!


 紅梨激ラブの母親は事ある毎に(無くてもだが)スキンシップをとりたがる困ったさんだった。紅梨が入浴していれば全裸で闖入し、寝ていればベッドに潜り込んで来る。そろそろ自室に鍵を……と提案したら「あかりタンがグレた〜〜〜ッ!!」と号泣(嘘泣き)するからその対応に倦ねてきた。

 見た目高等部な母様は「神名代きらら、17歳です。キラッ☆」ってのが最近の持ちネタらしく、昔からの知人は笑ってくれるだろうが、見ず知らずの人は本気にするので止めて欲しい。

 それに17歳といえばボクを………。


 湯気の中に「にぱ〜〜〜☆」と仁王立ちする一部残念な幻視を霧散させ首を振る。


 ちなみに胸が膨らみ始めたのに気付いてから「ボクは母様の子…母様の子…」と呪詛のように呟いているがそれが自分自身の成長をも阻害しているのを紅梨は知らない。


 ここで紅梨は夢乃が先に入っていた事に気付く。


「ゆ…夢乃ちゃん、もしかして………」

「心外ですわ。ちゃんとお誘いしましたよ。『お風呂に入りましょ』って」


 完全に策中に嵌まっていたようだ。流石は櫻坂、人心を掌握する術を心得ている。敢えて“一緒に”という部分を除く事でどちらとも取れる解釈にしている。


 ……いや、きっと考え過ぎだ。私服もパジャマも、下着だって女の子用だったじゃないか。夢乃ちゃんはボクを女友達として扱っているだけだ、他意は無い……他意は無い筈だ。女の子同士ならお風呂だっておかしくない。むしろ意識して過剰反応する方が失礼なんだ。


「どうかしまして?」


 意を決して瞼を開けると間近にほんのり上気だった夢乃の顔。だが紅梨の視線は艶やかな唇とバスタオルから覗く双丘に釘付けだった。


「な…何でも無いです!」


 反射的に顔を逸らしてしまった。


「うふふ、変な紅梨ちゃん」


 「少々逆上せてしまいました」と胸元を押さえて夢乃が湯から上がろうと脚を上げるが……。


「£&@*#%¢☆ーーーッ!?」


 目の前を健康的な内股が通り過ぎる。バスタオルにギリギリ隠された危険地帯も共に……。

 最早鼓動はリミットブレイク寸前まで加速してしまっている。


 顔の半分をお湯に沈めて「下は水着……絶対水着……」と呟く紅梨に洗い場で腰掛けた夢乃がこう告げる。


「背中、流してくださいます?」

 ゴムで纏めた髪を持ち上げ、胸元だけを押さえたバスタオルがハラリと落ちる。………当然、水着なんか無かった。


「ご……ごめん、先……出るね」


 もう限界だった。それはもう色々と…。

 タオルが落ちないよう必死に押さえながら脱衣所へと駆け込む紅梨を微笑ましく見送る。


「……手強いですわね。でも意外と………キャッ」

雑な切り方でゴメン

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