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第3話 レイス村の悲劇

※残酷な表現があります。ご注意ください

ヴェン達は村の広場に連れて行かれた。

広場には他の村人達が大勢居て、兵士達がそれを囲むように立っている。

しばらくすると兵士の前に先程の煌びやかな鎧の男が出てきた。


「私はヴィラウーツ帝国の誇り高き貴族、カストリア・オエンス子爵である。ここは我等が占拠した。汚らわしいローレンス王国の民よ、今ここで朽ち果てるがいい」

男がそう言った瞬間、突然村の一人が兵士に剣で斬りつけられた。


「ぐっ……!?」

更に追い討ちで心臓にひと突き。村人は苦悶の表情を浮かべその場に倒れ伏した。


「ギル!?」

隣にいた女性が悲鳴をあげる。

それを合図の様に、兵士は次々と容赦なく殺していった


「ヴェ……ヴェン……」

ルルが震えて服の袖を握ってくる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから……」

大丈夫と言うヴェンだが、彼も同じく震えていた。

やがて兵士がこちらに向かってくる。

次は自分達の番……もう終わりだ……と思ったその時、不意に制止の声がかかる。


「待て、全く同じではつまらんからな。私がやろう」

カストリアと名乗った男はそう言うとブツブツと呟き始めた。


「……………………………『炎弾(フレイムショット)』」

カストリアが右手を突き出すと、そこから15cm程の炎の弾が射出された。その先には……シリウスが。

いきなりの事で誰もが硬直する。

やがて炎弾(フレイムショット)がシリウスに直撃し、シリウスの体が爆散した。


「…………え? シリウス……おじいちゃん……?」

もうそこにはシリウスはいない。あるのは飛び散った肉片のみ。


「くっはははは!! やはり魔法で人を殺すのは愉快だな! これだからやめられない。そら、次行くぞ?」

再びカストリアが炎弾(フレイムショット)を放つ。

避けようにも恐怖で体が固まり動かない。

目の前まで迫ってきた……が、


「逃げろ」

ドンッとヴェンの体が何かに突き飛ばされる。ヴァイルだ。

唖然とした表情を浮かべるヴェンに、彼は何故か微笑んでいた。

最後に彼は何かを言っていたがヴェンには聞こえない。

やがてその体は炎に包まれ、ヴァイルは跡形もなく燃え散った。


「チッ、薄汚いクズが……まぁいい、ゆっくりと甚振(いたぶ)って殺してやる」

カストリアは怒りで顔を赤くしながら腰の剣を抜きこちらに向かってきた。


「ヴェン! ルル! 早く逃げなさいッ!!」

サリーの声で我に帰る。


「えっ……でも……」

「いいから早く!!!」

サリーの血気迫る迫力のおされ、ヴェンはルルの手を取り正門の方へとがむしゃらに走った。

正門を出ればどこかに隠れればいい。

あと少しで出口…………

だがそこは既に沢山の兵士で封鎖されており、外に出る事が出来なくなっていた。

どこか外に出る場所がないか、必死で探す。

だが後ろから死へと誘う死神の声が降りかかる。


「ガキ共が……」

そこにはカストリアが。右手に持った剣は真っ赤な血で濡れていた。


「あ……あ……」

「死ね」

動かないヴェンの首めがけてカストリアが剣を横薙ぎに振るう。

が、その直前、ヴェンの前に『誰か』が躍り出る。

剣は吸い込まれる様に『誰か』の首をを切り落とし、首を失った胴体は力無く地面に倒れた。

ピピッ、ヴェンの顔に返り血が付く。


「…………え?」

ヴェンは恐る恐る自分の足下を見下ろす。

そこには━━━━ルルがいた。

頭は無く、切断面からは大量の血が溢れている。


「……ルル…………?」

いつも笑顔だった大切な、大切な幼馴染。

その変わり果てた姿を見たヴェンの瞳からは光が消え、放心したかの様にその場に立ちすくむ。


「ふんっ、いらぬ手間をかけさせおって」

カストリアは剣を突き出す。


ドスッ


「ぐぷっ……」

ヴェンの体を衝撃と灼熱の如き痛みが襲う。

自分の身体を見ると、剣がヴェンの左胸へ深々と突き刺されていた。

カストリアは剣を引き抜き血をはらう。


「カストリア子爵、村人の排除完了致しました━━」

「そうか、ご苦労━━」

体が冷たい……意識が次第に遠のいていく。

昨日まではいつも通りの日常だった。

家族三人で囲む食卓、毎日楽しく遊んだ幼馴染、自分の事を可愛がってくれた祖父……

何もかもを失った。

何でこんな思いをしないといけない。あまりにも……理不尽すぎる。

次第にヴェンの心を一つの感情が塗り固める。

(憎い……僕から『大切』を奪ったコイツ等が憎いっ! 返せ……返せよ!!)


━━━━憎いか?


誰かの声が聞こえた。

暗い、暗い、深淵の様に深く、暗い声。


(憎い、許せない! 僕の大事な人達を殺したコイツ等が!!!)


━━━━復讐したいか?


(したい……コイツ等を殺して皆の仇を取りたい!!)


━━━━なら、力を貸そう


その瞬間ヴェンの中で何かが壊れた。

黒い『何か』が体の奥から溢れ出てくる。

体を乗っ取られていくような感覚。


(だけど、これでやっと……)

そこでヴェンの意識は闇の中へと溶けていった。



✴︎✴︎✴︎



「あああ嗚呼ああああああッ!!!」

突如後ろから叫び声があがる。

「……何だ、貴様は」

振り返るとそこには━━


━━悪魔がいた。

漆黒の様な長い黒髪は雨に濡れ、血よりも紅い瞳は邪悪な光を宿している。背中には黒の片翼。

ドス黒いオーラを纏わせる悪魔は何処か酷く悲しそうだった。いや、悲しんでいた。

その紅い瞳からは血の涙を流し、ただ……ただ……泣いていた。


「返せ……返せよぉぉおおおおッ!!!!」

悲痛の叫びが鳴り響く。

その瞬間、世界は闇に包まれた。

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