第1話 平和な日常
更新はあらすじで書いた通り、もう片方の作品と交互に更新しようかなぁと思います。
ローレンス王国、レイス村。その一角に少年はいた。年齢は12、3歳ほどだろうか。
顔は本人が性別を名乗らなければ勘違いするぐらい立派な少女の顔立ち。
雪のような白い髪なびかせ、碧い瞳でとある一点を見つめている。視線の先には金色の麦穂が視界いっぱいに広がっており、そよ風に揺られている。
「んーーっ! さて、仕事するかなぁ」
白髪の少年━━ヴェンは背中に籠を背負い、畑用の鎌を片手に意気揚々と畑に入っていく。
「よいしょっ、よいしょっ」
数本まとめて鎌で刈り取る。刈り取った麦を背中の籠に入れ、再び麦を刈る。
しばらくのあいだその作業の繰り返し。
しばらくすると後ろから男性の声がかかる。
「おーい、ヴェン! 昼飯の時間だぞ〜」
そう言ってきたのは、ヴェンと同じ白髪の彫りの深い男性。
「あっ父さん!」
ヴェンに父さんと呼ばれた男性はその顔に笑顔を浮かべながら歩いてきた。
「お、結構とったなぁ」
ガシガシと豪快にヴェンの頭を撫でる。
「痛いよ父さん。それより早くご飯食べに行こう!」
ヴェンは父親━━ヴァイルの手を引き家のほうに歩く。
麦畑から数分歩くと一軒家に着く。
二階建ての木造建築で、扉の左側に井戸があり反対側には大量の丸太。
裏庭には蒔を割るためか土台と斧がある。
ヴェンはそのまま家の扉を開け中に入る。
「ただいま母さん!」
「あらおかえりなさい、ヴェン」
出迎えてくれたのは穏やかな雰囲気の女性。
栗色の髪を横に垂らしており、手にはミトンの様なものを着けている。
「ご飯が出来てるわよ、冷めないうちに食べなさい」
背後の丸い机には鍋が置いてあり、そこから食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。
「ふむ、シチューかな」
ヴァイルはそう言いながらドカッと座る。
「いただきま〜……」
「こらっ」
ペシッとヴァイルの手を叩く女性、もといサリー。
「まずは手を洗ってきなさいっ」
「おおう、そうだったな」
ヴァイルは悪い悪い、と叩かれた手をさすりながら席を立つ。
そのままヴェンとヴァイルは外の井戸で手を洗い、タオルで手を綺麗に拭く。
そのあと三人で机を囲い、合掌。
「では、いただきます」
「「いただきま〜す」」
取り皿にシチューを注ぎ、スプーンでシチューをすくう。
「んーっ、やっぱ母さんのご飯は美味しいや」
ヴェンは頬を蕩けさせながらモグモグと食べる。
「うふふ、ありがとう。まだおかわりはあるわよ?」
サリーは嬉しそうに取り皿にシチューを注ぎ始める。
「わわわっ、待って待って。そんなに食べきれないよ」
だが止まらない。
あらあらうふふ、と言いながらシチューを注ぎまくる。
「はっはっは! 意気がいいなぁヴェン!」
ヴァイルがヴェンをからかう。
「もうっそんなこと言ってないで止めてよ」
「はは、すまんすまん」
それから数十分後ヴェンはどうにか完食し、お腹を膨らせ机に突っ伏した。
賑やかな食卓が終わった頃、扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
「もしもーし、ヴェン君いるー?」
外からは女の子の声が
「あらヴェン。ルルちゃんが来たわよ」
「はーい」
間延びした返事を返し、ヴェンは外に出る。
そこには金色の髪を肩まで伸ばした可愛らしい少女がいた。
「あ、いたいた」
少女の名前はルル。ヴェンとは小さい頃からの知り合いでいわゆる幼馴染だ。
仲が良い二人だが、ルルはヴェンよりも3つ年上で15歳だ。
「ねね、今日は川に行こうよ」
「昨日は草原だったからね。それでいこう」
二人はそう言うと手を握りながら村を出る。
ルイス村は周りを山で囲われており、山の頂上から下に向けて川が流れている。
ルイス村の正面もまた森で覆われており、森には道が整備されていて道は一本しかない。
森を抜けるとそこには草原が広がっていて、地平線まで続いている。
二人は山を登り、やがて川に着く。
「ねぇねぇ、今日は何をする?」
ルルが川の方を見ながら聞いてくる。
「そうだなぁ、僕は魚獲りがしたいかな」
川はそれほど深くなく流れも強くない。
川の中では小魚が元気に泳いでいる。
二人は早速靴を脱ぎ川に勢い良く飛び込む。
飛び込んだ衝撃で魚が一気に逃げ出す。
そのまま夕方になるまで二人は川で遊んだ。
川からの帰り道、ルルがあ、と何か思い出したのか歩みを止めヴェンの方を向く。
「ヴェン君はさ、将来ここ出て行くの?」
ヴェンは一瞬固まる……が、すぐさま答える
「ううん、僕はできることなら此処に居たいかな」
ヴェンがそう言うとルルは嬉しそうに
「そっかぁ、じゃあ私も此処に居ようかなぁ」
と言って、ヴェンの手を引いた。
「よしっ、じゃあ帰ろうか! ヴェン君!」
ルルはそう言うと走り出す。
ヴェンは足を転けそうになりながらもどうにかついていった。
ヴェンは家に帰ると一番にサリーから帰りが遅い怒られた。
お叱りを受けた後、父のヴァイルと一緒に井戸で手を洗い、三人で食卓を囲む。
夕食を食べた後はサリーと一緒に食器を洗い、歯磨きをして就寝。
これからも同じ平和な日常が送れる……誰もがそう思っていた。
あの悲劇が起こるまでは