プロローグ
澄み渡る青空。雲一つなく、それはどこまでも果てしなく続いている。
空には真っ白な太陽が浮かび、大地に広がる街を照らしていた。
━━━━━━━神界。
ここには沢山の神が住んでおり、その神に仕える天使達が住まう場所。
街の中央には巨大な時計台があり、カチッカチッと秒針が時間を刻んでいる。
時刻は13時30分、時計台の隣にある聖殿にソレはいた。
背中から黒い翼を生やし、膝下まで伸びた漆の様に艶のある黒髪は、そよ風でなびいている。
目の色は血のような紅。女性と見間違えるような顔立ちの青年。
青年の周りには、白い翼を生やした男性・女性達が青年を取り囲むようにして立っていた。
彼等の手には槍、杖などが握られ、青年に鋭い視線を投げかけている。
青年はそれを無視し、紅い瞳をとある人物に向けた。
視線の先には、長い金髪碧眼の女性。白い衣を身に纏い、周りと同じように金の装飾が施された槍を青年に突きつけている。
「何故こんな事をする?」
青年は悲しそうな顔をし、問う。
「ウルベス……いえ、堕天使ルシフェル。貴方は我らの主に危害を加える可能性がある。ここで、貴方を排除する」
女性は僅かに瞳を震わせ、声を絞り出す。
「……俺が何かしたか?俺はただ会いに来ただけだ」
手を広げ弁明するが、突如後ろから光球が青年めがけて飛んでくる。
青年はそちらを見向きもしないで無造作に右腕を振るう。すると光球は黒い粒子に包まれ、やがて空中に霧散した。
青年の手には先程までは無かった巨大な漆黒の鎌が握られていた。
後ろでは天使の一人が悔しそうに歯噛みして、青年を睨みつけていた。
「貴方の……貴方のその力は私達にとって危険すぎるのよ」
悲しそうに目を伏せる。
「本当なら、本当なら私はこんな事をしたくない…っ!でもっ、主神には逆らえない……」
女性は爪が食い込むほど強くてを握りしめた。
「ステラ……」
青年が心配そうに声をかける。
「私は貴方を殺しなくない…だから……」
女性はそう言うと、碧い石の様なものを青年に投げつける。
「これは…っ!?」
青年の手前で石が光を放ち、音をたてて砕け散った。
周りにいた天使達が何事か、と慌て出す。
「転生術式が仕込まれた強力な魔石よ。貴方には……異世界に転生してもらう」
青年の体が青い光に包まれていく。
視界が白一色で染まる。その向こうでは女性が涙を流しながら口を動かしていた。
「私は━━あな━━愛━━無事でい━」
途切れ途切れで上手く聞こえない。
(ステラ……俺は君の事を……)
そこで青年の、ウルベスの意識は落ちた。
✴︎✴︎✴︎
異世界『アルスベント』
ローレンス王国の最南端に位置する『レイス村』
その村で一人の男の子が産まれた。
「やったぞ! サリー!! 僕たちの子供だ!」
彫りの深い顔に白髪の男が飛び上がりながら、ベッドに横たわる女性━━サリーに声をかける。
栗色の髪を横で束ねたサリーは、両手に小さな男の子を抱え微笑んでいる。
「ええ、ヴァイルさん。元気そうな男の子よ」
サリーの腕の中では、男の子がスヤスヤと寝息を立て寝ている。
「ああ、ああ! なんて可愛いんだ!コンチキショウ!!」
手をワナワナさせ顔をニヤつかせる。
「あなた。そんな顔をしたらこの子が怖がって泣いちゃうわ」
男はピタっと動きを止めガックリと肩を落とした。
「そうか、怖いのか… …あ、そうだ、名前はどうするんだ?」
「ええ、名前ならもう決めてあるわ」
女性は男の子の頭を愛おしそうに撫でながら言う。
「この子の名前は━━━━」
「━━━━ヴェンよ」
少年を中心に、今、世界は動き出す。