古狸の閃き
場所と時間が変わり紅財閥です。
正輝のお父さんが出てきます。
日本だけでなく世界各国に支店をもつ紅財閥。
現総帥“紅総一朗”には遅くに産まれた息子一人しかいない。
息子はひどく優秀で眉目秀麗だ。
今年大学4回の彼はもう少しで卒業で本格的に後継ぎとして教育を受けることとなるのだが…。
完璧な息子にも一つ欠点があった。
それは…
「は?こんな問題も解けないのですか?」
「合コン?
そんなところに俺に釣り合う女がいるのですか?」
酷く口が悪い。
開けば罵詈雑言しかでてこない少し困った息子なのだ。
これには総一朗氏も頭を抱えており、性格を変えることは無理でも罵詈雑言だけおさえれないものかと思っていた。
「ということでなんとかならんか?」
「知らん」
「少しは考えてくれんのか!?」
「知らんもんは知らん」
「鬼か!」
齢60歳の総帥が泣きつく相手は年下の友人。
昔からの付き合いだがとらえどころのないこの友人には総一朗も苦労していた。
無口無表情な友人で会社では課長とごくごく平凡な管理職についている。
…だが総一朗は知っている。
彼がその気になれば最も上にいけることを。
だが彼はそれをしない。
「なあ、少しは助けてくれんか?
あのままだったら正輝の奴はワンマン社長になってしまう」
「潰れるな」
「分かっているならどうにかしてくれ」
「知るか」
冷たい。
むしろ相手を凍らせそうな勢いで睨んでくる。
昔ながらの付き合いだから総一朗は馴れているが初対面の人間だったら凍りつき微動だにしないだろう。
冷たい友人に総一郎はため息をつき、ふと友人の子ども達を思い出す。
「…そういえば娘がかえってくるそうだな
歳はいくつだった?」
「28」
「28か…
…今の職業はなんだ?」
「…あれはやめとけ」
総一郎の質問にはこたえず男は重々しい口調で警告をする。
そんな彼に総一郎はため息をつく。
「おいおい、娘に対してそれはないだろう」
「娘だからだ
…あれはお前の息子には手にあまる」
そう言い切ると男は立ち上がり部屋から出ていく。
その後ろ姿は何も語らなかった。
総一郎は苦笑するだけだった。
これは音嶺が帰ってくる数日前の出来事だった。