木靴の少女の想い
真理亜は、夢だけではなく現実として、前世の記憶が、ふと蘇ることがあった。
母、絹江の実家は、真理亜の家の、割と近所にあった。歳三と絹江、それぞれの両親は昔ながらの付き合いで、絹江が年頃になった時、歳三の両親は、働き者で気が利く絹恵を息子の嫁に是非と申し出た。歳三と絹江は、子供の頃からの顔馴染みでもあり、お互い惹かれ合い結婚。
お見合い結婚が、まだまだ主流の昭和30年代、二人は結ばれた。
真理亜は、この二人の、次女としてこの世に生を受けた。
真理亜には姉と兄がいるが、兄弟については
後ほど、紹介しよう。
幼児期の真理亜、母の実家の青木家に遊びに行った時のことである。
真理亜は、衝撃的なデジャヴを経験する。
真理亜は、青木家のリビングの飾り棚に、綺麗な帆船を見つけた。ビンに入った帆船が、真理亜の目に飛び込んで来た瞬間、真理亜は息が止まりそうだった。
「ああ、なんて懐かしい。」
胸が締めつけられるような何とも言えない感覚に、真理亜は、襲われた。
思い出したいのに思い出せない、大事な何かがあると感じた。
探し出さなければならない何かがあると直感していた。
しかし、まだその時は、
ビンに閉じ込められてしまった帆船を
ただただ哀しい目で見つめるだけだった。
曖昧な記憶
ぼんやりとした記憶
それなのに…
決して揺るがない記憶
そんな
不確かな記憶の欠片のなかに
真理亜の魂が
求める故郷があったのだ。
だから真理亜は、
あの時、
夢見て目覚め
木靴を探して走り出したのか?
帰る場所がないと思い
遠くを見つめていたのか?
真理亜は、ひとりぼっちで
過去世の父との約束を果たしに来たのだから…
何百年経っても
誰かを愛した気持ちは変わらない。
好きだった誰かと再び巡り逢いたいと願う気持ちは
魂のどこかで
潜在しているのだろう。
人は誰でも
探し物をしながら生きているのかもしれない。
例え、不確かな記憶でも
それは、
魂の深い部分で
決して色褪せることはない。