霊感少女、真理亜 続き
また別の日の夢の話である。真理亜は幼少期に、謎解きの原点ともいえる夢を見た。
それは、天国的で幸せな夢。
小さな真理亜は、夢だけど、あまりにも、リアル過ぎて、夢か現実かを判断出来ないでいた。
真理亜は、椅子に座っている父親の後ろに立ち、洋服の風合いを楽しんでいた。
現実の真理亜には、農業を営む優しく温厚な父、歳三がいたが、夢に現れた父を、夢の中の真理亜は、お父さんと慕っていた。
昔ながらの木造建築の家が、真理亜の生家なのだが、夢で、真理亜が立っていた場所は、明らかに洋風の作りだった。
真理亜は、天井のシャンデリアを眺め、そのキラキラ感を満喫して、大好きな父の背中を見つめた。
父親は変わったデザインの洋服を着ていた。縦方向にいくつも隙間が空いていて…その隙間に右手の指を右から左へと、左手の指を左から右へと糸を編み込むように指を入れていた。夢のなかの真理亜は、そんな単純なことが妙に楽しかった。
突然目覚めた真理亜。
気が付くと父親は何処にもいない。真理亜は、悲しみに震えていた。
「そうだ。どこかに木靴があるはず。木靴を履いてあの場所に行こう。」
そう思って真理亜は、木靴を探して走りだしたのだ。
玄関まで来た真理亜は、木靴などないことに気付く。そして冷静な自分に戻った。
さっきまでの私は、何だったんだろう?
何故、現実のお父さんでもない人をお父さんと慕っていたのだろう?
あの洋風な部屋は、一体何処なんだろう?
様々な疑問が、真理亜を混乱させた。
未熟な脳みそで、混乱しながらも、真理亜は、ちゃんと分析していた。
さっきまでのワタシも、間違いなく私。
今の自分じゃないけど、あの女の子も確かに自分なんだ。
それを確信するように真理亜は自分の手を見つめた。
触覚が、それを夢だとは、言わせなかった。
さっきまで、父の洋服を触っていた手の感触が、まだ残っていた。
「あったかくて、やわらかくて、気持ち良かったなぁ〜」
真理亜は、呟いた。
この温もりだけは、確かな事実。
夢だけど、夢じゃない。
経験したことがない不思議な感覚。
真理亜は、現実ではまだ着たことがないビロードの服の肌触りを、夢で知ったのだ。