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双子捜査官の魔法事件簿 ~twins investigator~  作者: 夢咲 雪
終始の書編
7/12

daydream

見渡す限り一面に広がる薄紫色がきれいなクロッカスの花。その地に老朽化した木の椅子に座り読書をする真っ白なワンピース姿に三つ編み眼鏡の女性。残りの風景はただの白。

 

あぁ、またか。またこの夢だ。


眠ると絶対に現れるこの夢。登場人物は俺と亡くなった母のみ。母は俺と妹を同時出産したと同時に亡くなったと聞いていた。要するに母の顔は知らない。

この夢を見るまでは、の話だが。

見た事がないのに何故、現れる女性が母だとわかるかというのは感覚だろう。血が同じならば自然と何か同族嫌悪のような物を感じる。しかしながら不思議なことに


「あら、お疲れ様。羽雪」


 このように意識ありありな状態で、普通に会話ができちゃうってところが、人類も進化したななんて思うけれど、周りに聞いてみたら夢で意識を持って会話できるのは異常らしく珍獣扱いされた。


「今日はなんだか早かったわね。昼寝?」


「なのかね」


「あら、覚えてないの? ってことは昼寝って感じではないわね。気絶しちゃったのかしら。となると、

大変ねぇ」


「もうちょい心配してくれや」


大変ねぇと言うわりには本を読み続けることを止めない母に少々睦ましさを感じつつ、俺はその辺のクロッカスの上に座る。


「ってか母さん」


「なに? 馬鹿雪」


「羽雪な。これで間違えたのこれで何回目だ」


「1746回」


「カウントしてるんかい」


「まぁね、私記憶力いいし」


 俺は母の台詞をすっ飛ばす。


「飽きねぇの? その本」


 その本、とは母が俺と話しているにも関わらず、そっちのけで読み続けるB2サイズの巨大な本のことだ。ところどころが黄ばんでおり、決して保存状況が良い物ではなさそうな本。


「そうねぇ、いつも違うこと書いてあるし」


「同じ本なのにか?」


「ええ」


「はっ、馬鹿言え」


 俺は鼻で笑い飛ばす。


「本が次々とSNSみたいに更新されてくってのか? そんなバカげた話がどこにあんだよ」


「ここ、目の前、真ん前、フロント、here」


「へぇ~。それじゃあその摩訶不思議なブックを拝ませて貰おうじゃ」


「羽雪」


 気が付けば母さんの周りには黒いオーラが充満していた。漆黒の色。やがて黒いオーラは純を追って一本ずつ、計10本の鋭い日本刀を形成し、母の周りをフワフワと浮遊しながら囲んでいた。


「またかよ…本が気になっただけじゃんかよぉ」


 毎度のように俺はこのタイミングで舌打ちをする。黒い閃光を体中に走らせ、イグナイト《電光石火》を解放する。鋭い目つきでハンティングする猛虎の如く戦闘態勢に入る。これから起こる出来事が解っているからだ。


「いつも言っているわよね」


 10本の刀は俺の方向に剣先を向けた。


「情報収集は勝者の権限。知りたければ、勝つことが絶対条件」


 10本ある内、3本の刀が勢いよく向かってくるのに対し胡蝶は右に左にかわすとラスト一本を掴み、掴んだ手に黒い閃光を走らせて母のエミテッドとのリンクを断ち切る。己の物にした刀を手に電光石火で母との距離を詰めた。

 音速と同等の速度を持つ胡蝶は一瞬で距離を詰められたが、問題はそこからだ。母の周りに浮遊する7本の刀が暴れるように胡蝶へ切りかかる。すべての太刀筋を一本の刀と元々の高性能ポテンシャルで防ぎ続ける胡蝶。雨のように降り注ぐ太刀筋は一本一本に意識があるように不規則に切りかかるため、防ぐ事で精一杯の羽雪は母に近づくことができない。

 きりがない…

 劣勢な状況が続く俺は考えるに考え、答えを出した。

 刀は10本。これは確定事項。一試合分を刀の数を数えることだけに神経を注いでカウントしたことがあるからだ。3本は俺に向かって飛ばし、その一本は俺がキャッチし私物化、残り七本は現在俺と交戦中。


 ってことは!


「おらぁ!」


 7本の刀を回転切りで全て弾く。刀は四方八方に散らばり、すぐさま母の姿を確認し、クロッカスの花びらがつぶれるほどに強い一歩で距離を詰める。


「丸腰じゃねぇか母さん!」


 そう、十本の刀を使い切った母は戦う道具がない。金棒持たない鬼など節分で相手にする鬼ぐらい怖くない。


 いける!


 そう思ったのが運の尽きだったような気もした。一瞬の胸に引っかかる違和感に気が付くべきだった。

 希望は一瞬で絶望へと変わった。


「なめすぎよ、羽雪」


 母のトーンが下がった声と同時に、俺の体に2本の刀が突き刺さった。


「!?」


 俺はその場で力尽き、倒れる。

 そうか…最初に避けた2本の刀か…手の届く距離にあった獲物に勝負を焦っちまった。

 いや、それも母さんの策略か…

 母は倒れる俺を冷酷な目で見下ろす。


「戦術は単調。センス任せの荒削りな戦闘。ほんと普段の冷静さが嘘みたいに生かされないわね。そんなんで私に勝てるわけないでしょ」


「別に俺から挑んだわけじゃないだろ」


「私に質疑した時点で同じよ」


「そーいうの理不尽っつーんだよ」


「世界なんて理不尽だらけじゃない」


 刀が刺さっていようが夢なので痛みは感じない。だからこそこんな悠長に話せる。話せてしまっていた。


「羽雪、覚えておきなさい」


 母は残りの8本の刀をゆらりゆらりと浮遊させると低いトーンで言った。


「弱者は靴のせいにするものよ」


 そして、8本の刀は俺の身体を貫いた。


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