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双子捜査官の魔法事件簿 ~twins investigator~  作者: 夢咲 雪
終始の書編
5/12

new start for 3 years (前編)

「この世界は理不尽だ。お嬢ちゃんもそう思うだろ?」

 

 真っ昼間から忌々しいほどに黒く塗られた拳銃を手に長身の男は言った。お嬢ちゃん、と言われた対象人物であろう女子高生は今にも泣き崩れそうな表情をしているが賢明に頷いている。


「そうだよな。お嬢ちゃんもそう思うよなぁ!…だけどよぉ?何でさぁ、こ~んな真っ昼間からさぁ~、俺がまっくろ~い拳銃なんて握っていると思うよ?」

 

 ふるふると横に首を振る女子高生。知るかよ、なんて間違っても口には出来ないよな。

 俺ならするけれど。


「金が欲しいからに決まってんだろうがよぉぉお!」

 

 鼓膜がビリビリと揺らされるほどの壮大な声量で声を荒げながら男は叫ぶ。涙を流すことを我慢していた女子高生は綱渡り状態の精神がついに崩壊し、その場で泣き崩れた。

 

 「おぉおい! うるせぇんだよ!」

 

 顔を強張らせた男は手にしていた拳銃に弾丸を装填し、女子高生のこめかみに突きつける。


 「死にたいのかなぁ? ああ!?」


 女子高生は先程よりも一層増して全力で首を振った。もう表情が限界を語っている。


 ――――そろそろかなぁ


 顔色は恐怖色。体調不良で事説明出来れば苦労はしねぇが、そんな小学生が体育の授業サボる王道のでまかせみたいなもんではないんだろう。


 「いいかてめぇら!この女みてぇにワンワン泣き崩れる奴は殺すからな!」


 女子高生は必死に涙を抑えてはいるのだが次から次へとボロボロ流れる涙は抑え切れておらず泣き止まない。女の喚き声に怒りが頂点に達したのか、男は女子高生の束ねられたポニーテールを毟るように握りしめ、グッと顔を引き上げた。恐怖のどん底に落ちた女の子の顔めがけて男はニヤニヤと殺人快楽主義者の形相で拳銃をさらに押し付け、こめかみに皺が出来るほど強く強く押し付ける。


 「いやぁぁあぁぁあああ!」


 「丁度いいやぁ。お前を見せしめにこのバス内にいる乗客全員の脳内に恐怖っつーもんをを植えつけて」

 

 男が引き金に手をかけると、言葉が遮断された。ひとつのアナウンスが。

 意図的に押した男子高校生の思惑通りに

 

 ――次~~市川ー止まります‐

 

 緊迫した空気に流れた悠長なバス内アナウンスが。

 ブチ切れた男は女子高生の座席を蹴り飛ばした。


 「誰だぁ!停車ボタン押した奴ぁ!」


 「あっ、俺、俺」

 

 手を上げて座席から立った、黒パーカーにダメージの入ったジーパン姿の胡蝶羽雪は何事もないように応えた。背中にはバドミントンラケットが2,3本入っていると思われるケースをぶら下げている。


 「いや~わりぃわりぃ。エキサイトしているところあれなんだけれどさぁ、次降りなきゃヤベー遅刻しちまうよ系男子なんだよ、俺」

 

 そんじゃ、と言うと胡蝶は男の横を通過し前扉に向かった。何事も無いようにハツラツとルンルンとした足取りのまま出入り口で足を止め「お、スカイツリー」なんて陽気な田舎者みたいな発言までしている彼の空気の読めない行動、いわゆるKYな行動にバス内はどよめきで溢れていた。


 「おいおいおい、待とうぜ?兄ちゃん」

 

 振り向くと男は拳銃を向けて笑っていた。怒りの一線を通り越している。


 「何、何、何? ナンパ? 俺、見てわかる通り男だけれども……同性愛なら外国で……な?」


 「見なかったことにしてやるから座席に戻ろうか?な?兄ちゃん」

 

 微妙に対話がかみ合わねぇな。

 

 めんどくさ。


 「別に見たことにしてもらって構わねえよ。その……バスジャックごっこ? どぉせその拳銃だって秋葉原で大量生産している偽物の銃っしょ? そんなままごと続けてもらってて構わね……ってか次降りるから退いて」


 拳銃に怯え1つ見せないで太々しく対応する高校生に乗客は一層ざわついた。眉間に皺っがよる男は胡蝶に近づき、頭部へ拳銃の先を突きつける。


 「そろそろ調子に乗るなよ? さっきから聞いてりゃ降りなきゃ系男子だのバスジャックごっこだの」

 

 「あ、わり。電話」

 

 胡蝶は突きつけられた銃口を掴んで上に向けると、ズボンの右ポケットに入れていた水色のスマートフォンの画面をスライドさせ、右耳にあてて会話を始めた。


 「はい。胡蝶です……って、なんだ、琴音か。どした? お腹すいたか?」


 「ざけんなぁ!!」

 

 胡蝶の手を銃から振りほどくと、男は引き金に手を掛けた。


 「すぐ電話切れぇ!撃つぞ!」


 拳銃を向ける男をチラッと確認すると、ちょっと待って、と胡蝶は電話相手に断りスマホを下して男に目線を戻した。


「あのなぁ! わかる!? 電話中! 気が散るから30秒ぐらい黙ってて!……んで? なんだよ……

 え、マジで? それって俺じゃなきゃダ――」


「死ねぇ!」


 重く不快な銃声音はバス内の乗客の悲鳴と共に響いた。


 その間は一秒にも満たさない。


 はずなのに


 青年をバチバチと音をたてる黒い雷のような閃光が纏う。胡蝶の右手には背中のケースに入っていたと思われる黒と水色が激しく交差しているバドミントンラケットが構えられていた。細い棒状の部位、シャフトからは煙がたっている。

 男は目を見開き驚愕した。目の前で何が起こったかはラケットの煙が語っているようなものだった。

 

 ―――銃弾を弾かれた



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