白砂
階下には、ふたりの友人、半が
棺桶を大八車に乗せて待っていた(笑)
寺男、半は
源が、研究所にしている廃れた寺に一緒に住んでいる。
源は、蘭学者なので
町民たちの医者としても西洋医学を司っている。
「頼むぞ、半の字」
「お任せなさいな」
半は、短く刈られた頭に汗をふきながら
重い、役人が階下に転がって来たのを
受け止め、それを棺桶に収め
寺へ運んでいった。
翌日。
北町奉行所に、源と右京は呼び出される。
奉行は、相好を崩す。
「いや、ご苦労であった」。
堂々とした奉行は、どこか人好きのする笑顔を見せた。
誰もいない服務室である。
勿論、事務方なども控え室に下がっている。
「お奉行の為に働いたのではないがの」と、右京は笑いながら。
わかったわかった、と奉行は笑い、まあどうだ、と
冷え酒と蕎麦を勧めた。
「そろそろ、新蕎麦の季節ですね」と、源は言う。
うむ、と奉行は言い
小声で、今回は失踪と言う事で処理しよう。
あのような男は、奉行所としても困り者だった。
と、奉行はそういう。
武士、男、侍の魂、道。
そうしたものは、不文律としてあるのだ。
弱い者をいじめるような奴は、俺は許さん。
と、奉行は笑顔で言った。
「頼むぞ」とも言ったが、右京は
「頼まれずとも、男として俺は生きる」と、微笑みながら。
そうよのぉ、と奉行は笑う。
源も笑った。
奉行所の白砂に、爽やかな風が吹きぬける。