實
したたかに酔った右京は、上機嫌で
楊枝をくわえながら、川沿いをぶらぶら散歩。
自分の屋敷に戻るところ。
千鳥足で、草履の足元もおぼつかない。
ふーらふら。
屋敷に入ると、ひとの気配に
右京は刀に手を掛ける。
凛、と。
「右京」ざらついた声で、聞き覚えのある
呼び方をするのは
浪人で、用心棒稼業をしている男だ。
右京は、察し「仕事選べ。」笑顔。
刀から左手を離す。
ざらついた声は「やむを得んのだ。伝言を
伝えに来た。」
右京は、嫌な予感が的中し
苦い表情。「どこだ、奴は。」
ざらついた声は「蕎麦屋の2階だ」
右京は、怒りを覚える。「娘に手出ししたら
貴様もただでは済まんぞ。それでも武士か!」
ざらついた声は冷静に「安心しろ。人質に手は出さん。奴も役人だ。」
すでに、夕刻。
右京は、駆け出し
蕎麦屋へ走る。
人通りの少ない川沿いに、草履の足音だけが響く。
ざらついた声は、用無しとばかり
もう、後を追っては来ない。
追ってくれば、雇われ用心棒として
右京と刃を交えなくてはならない。
そうなれば、生きては帰れない。
卑怯と言われようと、死ぬのは嫌なのだろう。
右京は、駆けた勢いで
引き戸が閉ざされた蕎麦屋に着く。
勢いよく引き戸を蹴破り、刀に手を掛け
二階へ駆け上がる。