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源
「右京」のんびりと、声を掛けて来たのは
彼の友人。
「おお、源の字か」右京は、笑顔を見せた。
よばれた源の字は、真面目そうな雰囲気の
蘭学者であろうか。
ふつうの着物ではなく、スラックスのような
不思議な洋服を着ており、長い刀を持ち歩かない。
「また、何かやったのか?さっき、町の役人が憤慨しとったが。お前の名前を呼んで」と、源の字が言うと
まあ、やむを得ん事だ、と
右京は彼の肩を叩き、
さあ、飲もう、と
飲みかけだった冷や酒を進めるが
源の字は「いや、まだ研究が途中でな」と
にこやかに断ると、少し酔いかけなのか
右京は、すこし彼に絡む真似をしておどけた。
じゃあな、と源は
草履ではない、足が包まれた不思議な履物で
音もなく去った。
川風が吹き抜けると、蕎麦屋の屋台に
柳がふわり、と問い掛けるかの如く。
暖簾の
向こうの右京は、のんびり。