15/21
心
「左様か。み無し子になってしまった
その役人の息子はどうしておる?」と、奉行は事務方に尋ねる。
北町奉行所は、泰平である。
事務方の若者は「はい、深川の親類に行った、との事です」
奉行は、左様か、と
頷く「不憫じゃのう」 と、呟くと
事務方「なかなかしっかりした少年で。母親の存在が無くとも、いえ、それゆえ
晴れやかなる笑顔で」と
言う。
奉行、何故、と
首を傾げるも
「母親の所作に異を唱えたかったのでしょう。子供とて、男ですから」と、事務方。
奉行、頷く。
男たるもの、やはり志を持って生きるべし。
その子とて、恥知らずな父親や母親を
見かねておったのだろう。
「良い侍になると良いが」と奉行独言。
柔らかい風が吹き抜ける。