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愚
右京は、時折蕎麦屋の前を通り掛かる。
あの、町娘が憧憬を持って右京に挨拶をする。
まるい額、柔らかな笑顔、やや桃色の微笑みは
右京をしても、笑顔にさせられる
そして、この娘を守る為に
悪い役人が死んだとしても、仕方ないのでは
ないか、と
そんな風にも思った。
それと言うのは、あの役人の女房と息子が
そのままの生活をし、余禄を得てはいるものの
父親が失踪(と言う事になっているが)して
帰らぬ、と言うのは
役人としては、かなり恥ずかしい事であるからで
その女房など、やはり時を経て
不満を垂れる
らしいが(笑)
生前の夫を知る者であれば、失踪は
奉行の方便であり
侍の掟を破った者に、罰が与えられた事だけは
武士なら誰にでも判る。
ある意味、生前の夫を卑しめたのは
女房自身である事など、省みる事もない
本人は、ただ不満を垂れるだけ、である。
勿論、無関係な人にとって
野良犬が吠える程度の騒音でしかない(笑)。
武士社会に出てこれるはずもないから、それで収まっているのである。