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淘汰
数日後。
奉行は、ふらり、と
お忍びで
右京の屋敷へ馳せ参じる。
「御免」低い、よく通る深い声。
右京は、縁側でのんびりと
苔むした庭を眺めていた。
「金の字か、おるぞ」と、右京は胡座のまま。
凛々しく網笠を取り、町人風情の奉行は
「金の字は、良いなぁ」ははは、と高笑い。
右京も笑った。
「あの、失踪役人の女房な、余禄を与えると
奉行が申したらの、笑顔で申し立てを
取り下げた」と、奉行。
今は、町人扮装なので、言葉遣いがちぐはぐ(笑)
右京も笑い「そんなものだろう。女は」と。
「おいおい。敵を作るなよ」と、奉行も笑い、「しかしまあ、切実よのぉ。子を食わさねばならん」。
それは分かる。しかし、武士として。
ああいう役人は許せなかった右京であった。
死をいつでも覚悟し、刀を持つ。
その刀に恥じない生き方をすべきだ。
そうでない男は死すべし。
武士は、そういうものだ。
そうでない男が生き残るから、世の中が
悪くなる。
右京は、そんな風に思った。