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右京
浪人、右京は
縁側に腰掛け、太刀を抜いた。
屋敷の板塀は、墨色に染まっている
遅い午後。
白い刀に日の光が撥ね、塀に一瞬
輝きが鋭く舞う。
妖しく鋭い切っ先は、ひとのこころを
猛々しいものに誘うが如くである。
目を細め、右京は
太刀を鞘に納める。
男、侍にとっての刀は
それあればこその男の道、である。
ひとを殺める道具を持つ。
だから、己を律するのである。
同じく、自らも命を奪われぬように。
一度も刀を合わせる事なく
生涯を遂げる侍が居たとしても、刀は
無駄ではない。
心の拠り所、武士の魂として
刀を持つが故、男は凛々しくあらねば。
そう思うのが男である。