草庵
民話風です。
山のふもとの川の近くに小さな家があった。それを見つけた旅のお坊さんが疲れた足にこれ幸いと戸を叩いた。
「これはこれはお坊様、どうぞおはいり下さいませ」
「せまい所にございますが、ごゆるりとお休み下さいませ」
と大変優しげな老夫婦がもてなしてくれ白湯を娘さんが入れてくれる。それをありがたく頂戴し、一息ついたお坊さんはお礼にと健康を願い霊験あらかたな念仏を唱えた。
するとどうしたことだろう。娘が突然苦しみだして倒れ老夫婦がそれを庇いながら気配が薄くなっていき、そして消えてしまったのだった。驚いたお坊さんが茫然としていると倒れた娘からは狐の尻尾がニョロリと見える。まさかと奥のふすまを開けて敷かれたままの蒲団を見ると既に白骨と化した遺体が二つ。これは狐に騙されたのかとギョッとしつつも、先ほど出されて飲んだ物は何ら問題の無くただの白湯であり、また眉に唾を塗ってみても娘が狐に見える以外は何の変わりは無い。
どうしたものかとお坊さんが悩んでいると、先ほど消えた老夫婦がカゲロウの様にぼうっと現れ狐をまるでかばうかのように前に出るとお坊さんへと語り始めた。
──子供のいなかった夫婦は、親狐が野犬に食い殺された可愛そうな小さな狐を見つけ不憫に思って育てていた。人間の子供を育てる様に話し掛け、一緒に寝てやり、としている内に、狐も人間の子供の様にとてもなついてくれた。しかしある日二人は流行り病で倒れてしまい気が付けば今のようになっていたそうだ。どうかこの狐を悪い様にはしないで欲しいと、二人は涙ながらに訴えると姿を消してしまった。
話を聞いたお坊さんは、倒れていた狐を起こすと優しく先程のことと、そしてこれからのことを伝えた。
「お前さんが悪いものではないという事はよく分かった。だが、死んだ者がこの世に長く留まってしまうのはお前さんの父母にとっても良い事では無い。きちんとお墓を作って弔ってやった方が良いと思うがどうだろうか」
それを聞いた娘は涙を流し、是非にもお願い致しますとお坊さんに深々と頭を下げた。
二人の為に石で墓を作ってやり遺体を丁寧に弔うと、ありがとうという様に白い光が天に昇っていった。娘が「おっかさん! おとっつぁん!」と地に伏して泣きじゃくる。その娘にお坊さんが優しく声をかけた。
「お前さんが自分を人間だと強く思ったが為に、その様に人の身体になれたのやもしれぬ」
今後はどうするのかと尋ねると、元より狐としての生き方は知らず人間の子供のように育てられ自身もそれ以外の生き方を知らないと答える。
ならばわしと一緒に行くかという問いに、あの家にいては二人を思い出すからと、娘は「はい」と答えるのだった。
お坊さんと一緒にあちこちを旅して回り、人として狐としても格を上げ大きく成長した娘は、後にとても有名な人物になったというが、それはまた別のお話。
自分が見た夢を参考に書きました。余りにもアンハッピーエンドだったので、物語では結末を幸せな方向に振りました。




