ぐれいとな戦い
うちであった戦いをコメディ風に、妙なテンションで書いてみました。
ビニールの袋が動く音がする。食事中の茶碗を置くと、私は静かに宣言をした。
「緊急警報発令。ただちに退避を」
「い、いえっさー」
旦那は以前の後遺症で戦えない身体になってしまった。無理も無い。あの敵が顔に体当たりの特攻をかけたのだ……。私だってそんなものが来たら二度と戦えない体になってしまうだろう。食卓から、隣の部屋へ移動し、密閉作業(ドアをきっちり閉める)を開始した旦那の気配、そして敵の気配を感じつつ、お茶碗等に蓋をする。
「密閉作業完了! ご、ご武運を」
「うむ……」
私は重々しく頷くと、戦闘服を着込み、そして剣と聖水を用意する。扇風機を止め、音を発する物を排除し、目を閉じると気配を探る。やつらは確実に動けば音を立てる。
「そこぉ!!」
素早くゴミ箱をどければ、慌てふためくヤツの姿があった。
「隊長! 斥候班、ゲオルグ発見されり!」
「退避! 退避だ! 壁の隙間がもう少し先にある」
「駄目です! まわりこま……あぁぁぁぁ」
「ゲオルグ! ゲオルグゥゥ!」
通信が途絶えた。しかし、我等の勝利の為、この程度の損耗で諦める訳にはいかない。隊長である我輩の後ろで静かに気配がする。
「行ってくれるか……ゴーライ」
「えぇ。ゲオルグはまだまだ小物。私の体力・瞬発力には勝てないでしょう……」
先のゲオルグよりも、一回り大きい体躯のゴーライは、そう言って敬礼すると戦地へと向かった。
「あなた! 仕留めたわ!」
「おぉー。もうそっち行っても大丈夫かな」
「そうね……。ん! 待って! 新たな敵の気配!」
「ぬわぁんだってー」
一体を聖水を使わずに、撃破する事に成功しほっと安堵の息を吐いた私だったが、新たな気配…。
「これは……上!?」
天井から現れる敵は、食卓を狙っている。そうはさせない!
「この聖水の効力……とくと知る事ね!」
シュッ!と一息に出た聖水は、辺りにミントのサワヤカな気配を放つ。しかし、敵も上下左右に素早く移動する。天井に張り付かれているのは非常に不利だ。しかし、聖水の効果で動きが鈍り始めている。
「ここよ! ジャンピング~スラッーシュ!」
私はテーブルに足をかけると、宙に舞った。
「な……何だと! やつは飛んでいます……隊長! やつは、やつは聖水を……うわぁぁぁ」
「ゴーライ! ゴーラァァァィ!」
くっ……何だと……飛んだだと。その技は我らの専売特許ではなかったのか。そして聖水……。我輩達にとっての劇物は幾つかあるが、その最たる物。ミント・アルコールをたっぷりと使った物らしい。たった一撃で呼吸を塞がれ、直射した場合、それは死あるのみ……。
「ゲオルグもゴーライもやられたか……。かくなる上は我輩が」
一晩で撃墜2なんて……エースになれそうね。そんな事を考えながら、片付けに入ろうとした私の背中に悪寒を感じる。まだいる! 動作を小さく、音を消し、気配を察知する。これは食器棚の上!
「ぬはは遅いわー! ニンゲンめ! 食らえフライングアターック!」
「きゃー! 飛んできた~。ひぃーあー」
食器棚の上という死角からの攻撃は、私の全身に鳥肌を立たせるには十分だった。でも私が負けたら……この家は…食卓は蹂躙されてしまう。
「おおぉぉ。まだだ! まだ終わらんよ!」
「ぬわにぃ!」
空中で顔に向かってくるソレを剣(新聞紙ソード)で叩き落とし、追撃で聖水をワンプッシュ。しかし、直撃はしなかったのか威力が薄く気絶しない。素早く動き回るソレの動きを、広い視界で部屋全体の中での動きとして捉える。
「そこっ!」
通り道に聖水を撒く。回避で動きが単調になった所へ、剣(新聞紙ソード)での連撃で追い討ちを入れる。さらに、一瞬動きを止めた所を真上から直射。ほぼゼロ距離射撃によるその攻撃で、腹を見せて悶える敵。
「ぐ……ぐはっ……。我輩の負けな様だな……。しかし我輩達を倒しても第二第四、第八の刺客が」
動きを止める前に、もう一叩き。ダメ押しでさらに聖水攻撃。そして、ティッシュで包んでポイ。
「ふぅ……。明日が燃えるゴミの日でよかったわ。まさか一晩で三匹のGと戦うなんてね」
「終わったかー」
「えぇ。全部退治して片付けも済んだわよー。私も顔攻撃されかけたわ」
「今度バル○ン焚くかなぁ」
「あれご近所さんに相談必要でしょー。ミントオイルとか効果あるらしいわよ」
「今度買ってくるだな」
こうして世界……食卓の平和は、コックローチこと、Gからの侵略から守られたのであった。
続く
いや続かないで本当に!
うちはゴキ○ェットではなくて、ダ○アース(ミントの香り)を使用しています。本文内でも述べましたが、全て実戦で試した効果の高い技です。ミントオイルがあったら、エアコンのフィルターか扇風機に一振りすればGも逃げ出すとか。
ただし、小動物にも毒なので、ペット飼ってる方は注意です。
 




