表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

約束破り

Twitterの140文字お題メーカーより「約束破り」

「ウソつき……」


 私は彼といつも来ていた丘の上から村を見下ろしていた。彼とは小さな頃からずっと一緒で、結婚の約束もしていた。でも彼は旅立って……戻らなかった。


「帰ってくるって……。私を独りにしないって言ってたのに」


 本当に悲しいと涙が出ないのだと知った。でもそんな事知りたくなかった。




 思えば小さな頃から正義感が強い人だった。村の自警団を率先して手伝って、いつも怪我ばかりしていた。私が薬草から作った軟膏を塗る係りだった。


「無茶はしないって言ったじゃない」

「無茶じゃないさ。ちょっと無理しただけさ」


 そういって傷の痛みも平気な顔をする彼に、少しずつ惹かれてた。




「無茶するな! 何かあったら……俺は……」


 村から少し離れた所に薬草を取りに行って魔物に襲われた時、村から大急ぎで私を助けに来たのも彼だった。私をかばいながら戦ったその背中。いつの間にこんなにも大きくなっていたんだろう。




「俺、魔王を倒してくる」


 王様がおふれを出し、村にもそれが伝わった時に、彼は発った。


「必ずお前の所に戻ってくる。そしたら……一緒にならないか……?」


 照れ臭そうに鼻の頭をこする仕草は昔のままなのに、声は随分と低く甘く聞こえて、私は彼に対する想いが溢れて仕方がなかった。


「絶対に帰ってきて。その約束を破ったら承知しないから」


 村を見下ろす丘の上で、そっと口付けを交わし、私たちは離れた。




 旅の道から手紙が届き、彼の名声も噂で聞こえてくる。英雄だ、勇者だと聞こえる事で村が湧くけれど私は心配でならなかった。どうか無事でいて欲しいと、ただ祈った。




 魔王は倒された。だけど、彼は戻って来なかった。魔王は最期の力を使って瀕死な状態から辺りを巻き込んで爆発四散したという。私はそれを聞いて目の前が真っ暗になった。


「ウソつき……ウソつき! ウソ……つき……」


 泣く日々が徐々に無感動な日々へ。それでも明日にはきっと……と、信じていたけれど、枯れた涙の様にじょじょに気持ちがかさついていく。




 一年が経った。彼は勇者として奉られた。どうでもいい。彼がいないなんてどうでもいい。


「ウソつき……。帰ってくるって言ったのに!」


 丘の上から私は泣き叫ぶ。久々に気持ちが涙が沸き上がる。視界がぶれて足元がふらつく。倒れそうになる私。どうでもいい。もう……。


 ガシリと誰かがそれを止める。優しい低いあの声が、甘いあの声が私の耳をくすぐる。


「俺がウソついた事無かっただろ」


 あぁ……確かに感じるその声は、私が一番欲しいもの。


「遅くなったけど、お前の所に帰ってきたよ」


 約束は……守られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ