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持つべき信念

「すいません、昨日の深夜にやることがありまして。そのせいで今日の11:00から寝てしまったのです。すいませんでした。」

すごく丁重に謝られてしまい、戸惑っていると、またも男が口を出して来る。しかし、今回は真面目そうに喋りだした。

「昨日の夜23:00から明日の早朝、07:00までに『魔法使い』が花鉈を捕まえに来る可能性が高いかったからな。お前らが寝ている時に寝るわけにはいかなかったんだ。」

そうだ、今花鉈は追われているんだ。決して安全なんかじゃない。

「一応自己紹介させてもらうと、私は『柏崎 詩織』。男の方が『ケイト=ヨノワール』よ。で、本題に入ります。」

柏崎が、取り仕切るようにいう。

そう、今からが重要なんだ。花鉈について。そして花鉈を襲う『魔法使い』について。

「加奈の魔法は聞いてるかしら?」

「はい。『なにもかもを消滅させる球体』を生み出す魔法ですよね。」

「そうです。それがくせ者なんです。」

そういって、学校の教師のように、ピンと人差し指を立てる。

「その魔法は、先日行ったような並列世界を繋ぐ壁さえも、軽々しく消滅させてしまえるのです。」

「それはつまり、並列世界を繋いでしまったのがまずかったということですか?」

そう尋ねると、いえ、と反論される。

「並列世界の壁は、時間が経てば修復されるからいいのです。それよりも、この消滅させる魔法で頂けない点は違うところにあるのです。それは―――」

宇宙の秩序を崩すのですよ。

柏崎が続ける。

「誰かがうたったのです。宇宙というのは、何かしらがなくなる変わりに何かが生まれるのが道理なのです。木が燃えたら、炭素などに変わるように。けれど、加奈の魔法は完全に消し去る。花鉈加奈は宇宙の法則を捩曲げ、宇宙を壊す、と。」

「待てよ、そんなの――――」

「ええ、言い掛かりに近いでしょう。皆信じませんでしたよ。けれど、あの事件が起きてしまった時から、状況が一転してしまったのです。その事件というのは―――」

「柏崎!!昔話は後だ!!『魔法使い』が着やがった!!」

ケイトの叫び声が、柏崎の声を遮る。

「しかも、お出ましになったのは厄介者みたいだぜ。サーズフェアリー、三人の天使だ。」

なぜだか、そう報告したケイトの口は、不吉に歪んで見えた。


         2


「式は行かない方がいいと思うよ。」

真剣な声で花鉈がいった。

念のため、花鉈は連れていかないことになったのだが、その言葉には決して、花鉈が怖いからといった様ではなかった。俺を気遣っているような雰囲気だ。

「なんでだ?」

「きっと、式には直視できないような状態だからだよ。」

「直視出来ない状態って―――」

「『魔法使い』の仏が何人も転がってる。回りは赤一色。そんな状態よ。」

柏崎が詳細を告げる。

けれど疑問はふえる一方だ。

「どういうことだ。なんで『魔法使い』の死体があるんだよ。」

「『サーズフェアリー』は『魔法使い』の味方じゃないんだよ。勿論私達の味方でもないだろうけどね。」

花鉈がそういって溜息をつき、最悪だよ、と呟く。

「ねぇねぇいつまで無駄話しているの?私達待ちくたびれてしまったわ。」

突如、となりからききなれない声が聞こえる。すぎさま左を向くと、12歳程度と思われる、幼く無邪気に笑っている長い髪を持つ少女がいた。いや、幾何学的な模様から映しだされていた。

部屋にいる全員が全員、驚きを隠せていない。

「驚かしてしまったかしら。けれどずっと部屋に居られてもつまらないわ。そうね、三分以内に私達の相手になる人が来なければ、ここまで壊してしまいましょう。」

そういって、映像が途絶える。

「とりあえず外に向かいましょう!!」

柏崎の言葉がスイッチとなり、すぐさま部屋から飛び出し、マンションから一分足らずの公園にたどり着く。

「来てくれたみたい。」

「そうね。賭けは私達の勝ちね」

「来なかったら部屋を壊してたけど。」

公園のブランコから響く声。 そこにいたのは、三人並んでブランコをこぐ、髪型しか違わない少女達だった。髪型以外は本当に瓜二つだ。髪型は左から順に、腰までのツインテール、腰までのロングヘアー、肩までのセミロング、と並んでいる。

しかし、そんなことより、俺が驚愕したのは周りの状況だった。

見渡す限りの血、血血血。

『魔法使い』は八人ほど殺戮されている。

それを認識した瞬間に、強烈な吐き気が押し寄せてくる。

ありえない、ありえないだろこんな状況なんて……!!

「落ち着いて、あなたにも戦って貰わないとサーズフェアリーに勝てない。」

いつの間にかたどり着いていた柏崎が、俺の背中をさすってくれながらいった。

けれど、少女達の気分は害されていくばかりだ。

「お兄さんはどうしてうずくまっているの?気分でも悪いのかしら?」

「きっと風邪でもひいているんだわ。」

「うつらないように気をつけないといけないね。」

狂っている。こんな状況で当然の如く平然と、こんな会話をできるなんて。終わっている。

「なんで、こんなにも……!!」

少女だぞ。12才程度の……!どうしてだよ!?

「考えすぎないで。敵なのよ。相手は殺人鬼なの。」

殺人鬼、殺人鬼であることはこの惨状からわかった。

だけど―――

「理由もわからないのに、俺はあいつらとは戦えない!」

最初からこんなに壊れている訳がないだろ! こんな12にも満たない少女達が!

そんな俺の言葉に対し、柏崎が目を逸らし、言い訳のようにいう。

「あなたは、並列世界には関わるべきではなかったわ。こっち世界がこんなにも私達の世界と違かったなんて思いもしなかった…………。」

「教えてくれ……!頼むから!」

もう、無意味に人か死んでいく様を見たくないから。

本当の理由はそれだった。

「理由なんて、相手が人を殺しているからで充分過ぎないか?」

ケイトが背後の入口から入ってきながらそういった。口調は相変わらず軽い。

「なんでそうなったかって―――」

「なんでか?それこそなんで気になる?そんなの知ったところで足枷以外になににもならないだろ?」

かふせるように、なおかつ軽快にケイトがいい放つ。

「俺は……もう無意味になんて人を殺したくないから。」

ケイトがそれを聞いて、ハハッと馬鹿にしたように笑う。

「正義っ面の台詞を真顔で吐くんだねぇ。面白いよ、まぁ面白いだけだけどさ」

「何がいいたい……!!馬鹿にしたいだけかよ……!?」

「違うよ。ただこういいたいんだ―――」

お前なんて要らないってね。

ケイトがつづける。

「いや、おまえがいなくては力不足になるのはわかってるんだけどね。そう言われては仕方がない。つまり、何故壊れたかわかってる俺達ならこいつらを殺していいんだろ?お前が参加せずに花鉈が死んでも知らないがな。」

ケイトがそういい終わると、手で柏崎に攻撃してよいと合図を出した。

反論はできなかった。そうだ、やらなくては花鉈が……。

「くっそ……!」

もうすでに始まっている戦闘にむかいだす。

「あれお兄ちゃんも加参するのね。仕方がないわ。私も戦いましょ。」

目の前には、暇そうにしていたツインテールの少女がいる。

まるで遊びにきたような気軽さで。

「無駄話もなんだわ。じゃあ始めましょ。」

少女がそういった瞬間に、突然冷気が襲ってきた。『冷気生み出す』魔法なのだろう。

寒すぎて、身動きが取りにくくなる、逆に勝手に身震いしてしまうほどの冷気。だけど―――

「だけど、相性はいい!!」

生み出された冷気ならば、操れる。

すぐさま、冷気を少女に返した。 だというのに、少女は寒がりもせず口を開いた。

「お兄さんは面白いことができるのね。使い方を変えないと。と」

少女が少し間をあけて、続ける

「ところでお兄さんは、なんで私達についてばかり気になるの?」

不意に尋ねられる

けれど、そんな質問には即答できた。

「無意味に人を殺したくないから……。」

それをきいて、また不思議そうな顔を浮かべる。

「無意味なんかではないわ。お兄さんが私達を殺すのは、お兄さんが自由になるからだわ。なんせ私達は強い人だもの。」

「何なんださっきから、自由自由って。」

「だって強い人を倒さなければ自由にならないのよ。だから私達は戦っているんだもの。」

「どういうことだよ。そんなわけ――」

「だって私達より強い人がいたら、また奴隷として退屈な人生をおくることになるかもしれないじゃない。」

奴隷……。つまりこいつは……。

いや、そんなわけない。この歳だろ。こんな幼子なんだろ。そんなの事があるわけ――

少女が、まるで俺の考えを読み取ったように、ふふっ、と微笑む。

「本当にくだらない人達だったわ。10歳程度の少年少女に、人を殺戮させたり。少年少女に暴行したり。少年少女を犯したり。そのくせ呆気なく死んでしまうなんて。まだ少年少女達のほうが強かったわ。」

「やめろよ!」

怒鳴った。精神を保つには怒鳴らずにはいられなかった。

相変わらず、子供が昔話を語っていように、昔話を人に聞いてもらっているように、少女は嬉々としている。

「少しは……悲しめよ。辛くないのかよ……!」

「昔話って悲しむものなのかしら?」

またも不思議そうに聞いてくる。 そんな台詞を聞いて、奥歯を噛み締める。許せない、こんな少女を壊した奴らがどうしようもなく許せない。

とそんな事を感じていたら、違和感に気づく。足が動かない。そして、靴から登る冷たさ。

「氷……!?」

「長話がすぎてしまったかしら。けれど、あなたはこれで終わりよ。」

少女がナイフを構える。しかし、そのナイフは果物ナイフ程度の大きさしかなかった。

その程度ナイフの大きさなら……!

少女が、果物ナイフを構え、切り付けようとしてきたところを見計らい、そのナイフの刃の部分を掴もうとする。

けれど、そんな考えは甘かった。当然といえば当然だったが、ナイフは冷え固まった氷によって強化されていた。指にナイフの刃が食い込み、ブツリと嫌な感覚がする。すぐさま手を引っ込めるが、指が深く切れている。

少女は怯んだところに畳み掛けるように、両手でナイフを持ち直し、僕の心臓にナイフを向かわせる。

「くっ……そっ……!」

「ふふ、残念だけどここで終わり。少し楽しかったわ。」

今ごろ襲って来る指の痛みによって、僕はそれに対して身をそらす事さえ出来ない。

終わりを確信した。隔心が確信していた。

「本当に式はお人よしだよね。」

俺の背後から響く声。

誰の声かは、後ろをみずともすぐわかった。

「花鉈か……!」

「大正解だよ。全く。」

花鉈は、可愛らしい呆れ顔で、俺の前に現れた。


         3


瞬間、目の前に『黒い球体』が現れる。少女は察していたようで、バックステップを踏み、のがれていた。

次の攻撃に備え、凍り付いていた靴を脱いでおく。

「危なかったわ。一歩間違えていたら死んでしまっていたくらい。」

そういって、少女が刃が消え去っているナイフを投げ捨てる。

そんな少女をみて、近寄ってきた花鉈は、すぐさま文句を垂らしす。

「全く、少しでも遅かったら死んじゃってたよ。そしたら私には居場所がなくなっちゃってた。ぜったいに許さないからね。」

そういって、俺をむくれながら睨みつける。納得はいっていない表情を浮かべている。

「本当に助かったよ。ありがとう。でも今は少しききたいことがあるんだ。」

「ん?なにかな?」

「そのサーズフェアリーってのは、なんなんだ?なんでこんなに……。」

そう聞いたら、花鉈が少し沈黙したあとに、口を開いた。

「……単刀直入に、『あいつら』風にいえば、『使い道がなくなった兵器』だよ。つまり―――」  

「そんなつまらないことをお話している場合ではないわ。今は私の遊び相手になっていてくれればいいのよ。」

相変わらずの笑顔で少女が氷のナイフを両手に構えて、僕らに攻撃を繰り出そうとする。

少女は、少女達は、幸福でなかったのは明らかなんだ。なら、助けるしかないだろ!

俺が迎え撃とうとする。花鉈も、魔法を使う準備をしていた。 けれど、少女は俺らに攻撃をくだすことはなかった。

その前に少女の左胸に、大きな穴が空いたのだから。


          4


「終わったのね。自由になる前に、私は終わってしまうのね」

儚くも、悲しくはない声で少女が呟く。

「ああ、君はきっと、いつになっても自由になることはないよ。」

例え、生きていようが、強者を倒すという呪縛から逃れられない。 だからといって、死んだ後に別の世界に逝くと仮定しても、少女の罪は償えるようなものではないだろう。けれど、きっと少女はそれでも、無邪気に笑うのだろう。今のように。

「お兄さん、最後に質問いいかしら。」

少女が弱々しくも、はっきりした言葉に、俺は頷いた。

そして、少女は予想外の言葉を発した。

「この喪失感はなんなのかしら?何故か、死ぬ前にやれることを、やっていない気がするの。それを結局せずに終えてしまった感覚。お兄さんわかる?」

「そう、きっとそれは――――」

人間らしく生きることだよ。

その言葉をきいても、少女は表情を変えず、相変わらず微笑んでいた。

「お兄さんって、他の人とは全然違うわね。もっと早く出会っていたら。私は自由になれていたかもしれな――――」

突然、さっきの傷の隣にもう一つ、穴ができ、少女の言葉を途切れさせる。

「全く、しつこいなぁ。式崎、お前のおかげで一人片付いたよ。サンキューな。あと二人もこの調子で片付けるぞ。」

ケイトがいいたいことだけつづって、すぐさま残りの二人を相手にしにいく。

「なぁ、花鉈。残りの二人の『魔法』が何かしってるか?」

俺が、様々な感情を押し殺しながらいった。いや、現れる感情が多過ぎて、まとまらないだけかもしれない。

「ロングのほうが、幾何学的な紋章、すなわち魔法陣から、炎や電気等を繰り出す魔法。簡単にいえば、『SF的な魔法を生み出す』魔法だよ。セミロングの方は、よくわからないかな。」

ところでさ、と花鉈が続ける。

「あの子達は倒すの?」

「いや、倒さない。絶対に助ける。いや―――仲間になってもらう。」

俺の言葉を聞き入れ、花鉈が安堵する。そして、やっぱり式はいい人だね、といって、戦闘中の場所をみる。

「行こう、式……!」

「ああ!」

言葉を発していた時には、俺らはもうすでに走り出していた。

そうだ。絶対にこのまま死んじゃ駄目なんだ。罪を償うためにも、少女達にはやるべきことがたくさんあるんだ。


         5


一直線に少女達に向かって飛んで来た、強化された鉄の棒を右手で掴み、破壊する。

「君は何をしているんだ?サーズフェアリーの仲間になるってのか?」

ケイトが俺を睨む。

違う、仲間になんてなる気はない。俺はただ―――

「こんなにもあどけない少女達と、話をしたいだけだよ」

「ふざけるなよ。こいつらと話す?馬鹿げたことぬかすんじゃねぇよ。流石にキレるぞ。」

「そう?私達はお話を聞きたいわ。」

「そうだね。もう一人の僕達も、死んでしまう時に、この人は安全だって教えてくれたんだから。お話くらいききたいな。」

意外にも少女達が俺の意見を肯定する。

もう一人の僕達、というのは、ツインテールの少女のことなのだろう

しかし、相変わらずケイトは怒りから覚めていない。だが、急にケイトの台詞は一転した。

「いや、いいだろう。聞いておいてやる。さぁさっさと済ませろよ。」

ケイトが苛立ちを隠さずにそういった。

俺はその言葉を信用して、少女達をみる

「サーズフェアリーと呼ばれた君達が、どんな目にあっていたのかは詳しくは知らない。だけど、だけどだよ。強者を殺さなくちゃ自由になれない訳じゃないだろ。」

「強者を殺さずに自由になる?面白いことを言うのねお兄さんは。」

「そんなこと出来たら僕らはそれを選んでいたよ。」

「いや違う。それは君達じゃ思い付かなくて当然で、思い付いても実行するのが極端に難しいことなだけなんだ。」

「へぇ、興味があるわ。どういう方法なのかしら。」

「そうだね。僕達が悩みに悩んでも思いつかなかったことなんて。」

そう。この一生で他の人と対等な立場に一度もならなかった少女では、思い着かないような方法。それは―――

「自分より強い人を殺戮するんじゃなく、強い人と仲間になればいいじゃないか。」

そう、少女達には思い付かない。そのうえ、思い付いたとしても相手に怖がられ、それを実行できない状況だった。けど、俺らなら仲間になれる。怖がりなどしない。

そんな俺の台詞をきき、ロングの髪の少女がふふっ、と微笑む。

「確かに私達では思い付かなかったわね。」

「当然だよ。僕達じゃあ一生かかっても思い付かなかっただろうね。」

「確かにこの案ならばいいかもしれない。」

「僕らもそれなら自由になれる。」

「けどこの方法には一つだけ欠点があるわ。」

「そう。裏切られた場合だよ。僕達は裏切るつもりはないけど。」

「裏切られちゃったら死んでしまうわ。」

「あなたたちも、僕達もね。さぁどうするの?」

少女達が掛け合いをしつつ、俺に疑問を投げかける。

「それは――――」

「安心しな、仲間になる必要なんてない。」

ケイトが口を挟む。

「なんだよ。丸くおさまるのがそんなに嫌だってのかよ。」

俺が振り返り、ケイトを睨む。

「ああ、そうだ。けれどそうじゃないぜ。」

ケイトは不敵に笑みを浮かべている。

まるで全て計画通りに動いたような、そんな笑み。

しかし、その笑みの理由はすぐさまわかることになった。

そう、ただなんとなく、なんとなく後ろをみたら、少女達の肩から胸にかけて10cmほど、切り傷が出来て血飛沫をあげていたのだ。

「な……!おい!大丈夫かよ!」

すぐさま少女達まで駆け付けに向かう。もう助からないことはわかっていたのに。

「ケイト、今何したかわかってるのかな?」

花鉈がケイトを睨む

「サーズフェアリーの言葉なんて、信用出来ないだろ?」

「違うよ。ケイトだってわかってたんだよね。サーズフェアリーが嘘をつかないことを。嘘なんてついても無意味な状況で生きていたことを。」

「いいだろ。所詮相手は化け物だ」

「違うよ。サーズフェアリーはただの少女たちだった。」

「俺は、花鉈を救っただけだ。『暴走』なんてされたら厄介だろ?」

「違うよ。ケイトは私を、私達を、敵に回しただけだよ。」

少女達はお互いに手が届くような距離しか離れていなかったので、俺は二人の元に駆け付けれた。

こんな傷だというのに、まだ少女達は微笑んで会話をしていた。まるでそれが義務であるかのように。

「あ……あ、私達は、死んでしまうのね。」

「そう、本当に死んでしまうんだね。」

「回復させる魔法さえも作れないくらいに傷が痛いわ。」

「こんなに血が自分から出たのはいつぶりだろうね。」

「けれど、私達は、私達と、出会えるから、寂しく……なんか、な……いわ。」

「僕達は僕達と会わないことなんてないんだ。」

その掛け合いで、少女達の意識は途絶えた。


         6


目の前で死んでいくのを見て、助ける方法を探す。だけど、そんなの無駄だそんなことをしても無意味だ。だったらケイトを……!

「待って。駄目だよ諦めちゃ。思考を張り巡らせるんだよ、少しでも多く。後悔しないためにも。」

花鉈が真剣に少女達を見ながら言った。

そうだ、もっともだ。後になって助ける方法を見つけて後悔しても、それこそ無意味なんだ。考えろ考えろ考えろ……!

「待……てよ……。」

何かひっかかる。

さっきの少女の言葉の何かが……。

『回復させる魔法さえも作れない。』

確かに、少女はそう言っていた。

つまり、少女は普通ならば回復させる魔法を生み出す魔法陣を作り出せたということだ。 なら、少女の『魔法』に触れてしまえば、その魔法陣に書き換えることだって出来る。

俺が必死で回りを見渡し、まだ生き残っている魔法陣を探す

けれど、見当たることはない。全て魔法陣として魔法を発動させ終え、消え去っていた。

「魔法陣さえ……見つかればいいってのに……!」

俺が、力無く空を見上げる。 空には星一つ見えない。比喩ではなく、本当に見えなかった。

「いや、ちょっと待て。月さえ見えないのはおかしくないか?」

そう、今日は満月のはずなんだ。

それに、冷静に考えれば、これだけの騒ぎに人一人気付かないなんて、明らかに不可解だ。何らかの力で、ここが隔離されている。そうとしか考えられない。そしてその力は、『隔離空間を生み出す力』を持つケイトが来る前からかかっていたことになる。つまり―――

俺が地面に手を着く。

「つまりこの隔離は、少女の作り出した魔法陣から生まれた隔離の可能性だってあるんだ!」

地面に手を着いた瞬間、その推測は確実なものへとなる。魔法陣の範囲から魔法陣の効果まで、完全に読み取れる。

あとは回復の魔法陣に組み替えれば……!

「いっけぇぇぇぇっっ!」

公園全域にまでかかっていた魔法陣の形が、急激に変化する。そして、地面から心地よい光が発せられた。

それと同時に、少女達の傷が塞がっていく。

「……はっ。やってくれるじゃねぇか。」

ケイトがこちらを睨みつけてくる。

やってくれる?ふざけてんじゃねぇよ。

「これ以上やるってんなら、俺が相手になる。」

「はっ!いってくれるじゃねぇか!」

そうほざいたと思ったら、すぐさまこちらに向かって走って来る。

しかし、その行動はすぐさま柏崎におさえられた。いや、おさえられたにしては暴力的だ。何せ柏崎の頬をはケイトを全力で殴っていたのだから。

「あなたは……あなたという人はどこまで復讐に染まるのですか!」

柏崎が、奥歯を噛み締めながらそういった。しかし、ケイトは少し頬を抑えつつも、その言葉に対し鼻で笑う。

「いつまで?達成するまでだよ。俺は四年前からずっとそうしてきたんだからな。」

「ふざけないで!サーズフェアリーはもう殺人鬼ではなくなったかもしれないんですよ!?これ以上やるというなら、私が許しません!」

その言葉をきくと、急にケイトがいい淀む。

そして、ため息をつくと、不機嫌そうに口を開く。

「……仕方がない。サーズフェアリー、お前らは後にまわしてやるよ。先に違う奴らを狩ってやる。」

その言葉をきき、警戒はしつつも俺も武器を下げる。

けれど、なんでケイトはこうもサーズフェアリーを目の敵に――――

「また、殺人鬼狩りをするんですね。」

柏崎が悲しそうに、呟いた。

殺人鬼狩り……? つまりケイトは殺人鬼を、殺人鬼全般を目の敵にしていたのか?

「嫌なら来なくてもいいよ。俺一人でも平気だ。」

「いえ、私も手伝います。手伝わなければならないです。」

そういって、柏崎がこちらを向く。その目はとても柔らかく、大人びていた。

「先ほどの無礼はすいませんでした。どうか多めに見てください。それと、こちらの公園の後始末は、私達が後に行っておくので安心してください」

そう俺らに頭を下げると、返答を待つことなく、柏崎達は公園から立ち去った。

「柏崎……なんであんな奴と組んでるんだろ……。」

花鉈が呟く。

昔から関わっていた花鉈にはとっては、一番気掛かりだったのだろう。

「とりあえず、帰ろう。俺らの部屋に。」

その言葉をきくと、花鉈笑顔でうん、といった。

まだ暗い中、俺達は二人の少女をつれ、家へと戻っていった。


        7


部屋に戻り、二時間程度経過しただろうか。

ふとそんな事を思う。

俺達は家に帰るとすぐさま食事をとり、風呂に入ると睡眠をとることにした。けれど、それは花鉈に安心して睡眠を取って貰うための口実だったのだ。

いつ、リビングのソファに寝ている二人の少女が目を覚ますかも、ケイトが本当に攻撃をやめたのかもわからない状況で、皆が皆寝ているわけにはいかないんだ。

だから、花鉈を先に寝かせて、俺はばれないように起きておかなければならなかった。で、上手い具合に花鉈を眠らせた。シャワールームに向かう。

シャワールームとリビングはほぼ隣同士なので、ついでにとリビングにいる二人の少女を覗いてみる。

「眠っていると、二人とも美少女何だけどな。」

だけど、こうも家に少女ばかりいると、俺がロリコンみたいだな……。

そんなどうでもいいことを思いつつ、洗面所で服を脱ぎ、シャワールームに入る。

そのついでに、リビングとシャワールームはほぼ隣同士なので、極力、音に気をつけつつ、お風呂にも入る事にした。

「なんでか、この二日間は戦った記憶しかないな。」

風呂に浸かりながら呟く。

「俺は出来うるかぎりを尽くし、人を助けたけれど、それが正しいというわけではないんだ。」

ケイトのいうことだって正しくない訳じゃない。

そして何よりあの言動からも、殺人鬼狩り、つまり殺人鬼の抹殺を目的としていることは確かだった。

サーズフェアリーも理由はわからないが、殺人をすることにより、自由になるために戦っていた。

花鉈は、『魔法使い』から逃げ切るためにたたかっていた。

人は皆、何か目的があって人と戦っているんだ。

そして何より、理由があってこその目的なんだ。

「だけど、俺は……?」

俺は何を目的としているかも、何故戦っているかもわからない。

強いていうなら、目の前の仲間を助けるためだろうか?理不尽な死を無くすためだろうか?

いや、違う。今回の戦いは、理不尽な殺人なんてなかった。ケイトには、歴とした動機があったのだから。 サーズフェアリーにも動機があったのだから。

お互いに、殺し合う必要があったのだ。そしていつか、お互いの目的のために、また戦うことになるのだろう。 もしも、和解などしたら、自分の目的となる過去に嘘をつくことになるのだから。

「その時俺は、どちらを守るのだろうか?」

次々と疑問が思い浮かぶ、自分の目的、サーズフェアリーの戦う動機、ケイトの戦う動機、そしてそれらの答えを知る意味と必要性。

考えに考えても、想は早々に峙つばかりで、俺はまだ見ぬ想像の創造を停止した。


第二部(?)まで読んで下さってありがとうございます。

一応わかりにくいような語句やキャラの解説を行わさせていただきます。



ケイト……『隔離空間を生み出す』魔法を保持する男。生み出した隔離空間には穴を空けるなどできる。


サーズフェアリー……平行世界(花鉈のいた世界)の瓜二つな三人の少女。

・ツインテールの少女……『冷気を生み出す』力。戦闘中、ケイトの不意からの攻撃に致命傷をおわされ、死に至る。

・ロングの少女……『魔法陣から(SFやRPGで使われるような)魔法を生み出す』力。魔法陣からの魔法で、多少の回復なども可能。

・セミロングの少女……能力不明。




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