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花鉈加奈に異次元 その1


         1


ロングというより伸ばしっぱなしの、膝まであるクリーム色の髪。幼い顔立ち。身長は150くらい、といった特徴の少女だ。俺は、そんな少女の魔性な可愛さに見とれていた。はずだった。少女は突然、俺の前に走ってきたのだ。

そして、唐突にこちらに話し掛けて来る。

「なんであなた達は私を捕まえようとするの?なんで理由をおしえてくれないの?教えてくれないなら私は一生逃げ続けるよ。」

真剣な声で、なおかつ少し震えた声で、少女は謎めいた事を僕にいう。

俺は戸惑いつつも、反論する

「ちょっ、ちょっとまて。俺は君を捕まえるつもりなんて。」

「じゃあ聞くけど、なんでこんな所にいるのさ。五秒以内に答えなきゃ敵対するからね。」

下から睨み付けながら、少女が言う。

警戒、完全に警戒一色だ。

少し戸惑いつつも、俺は曖昧に、正直に呟く。

「……親と喧嘩した、ただそれだけだ。」

いや、『現実』と喧嘩した。というほうが正しいかもしれない。

「それだけでここまで来たなんて、信じれないよ。嘘をつくならもっとまともなのをつきなよ。」

信じてはくれないんですか。

少女が呆れたようにいい、ため息をつく。

ため息をつきたいのはこちらだというのに。

「俺の事はいったからな、逆にお前は何でこんなところに。」

と、いったところで、少女が目を見開く。

「何でって、本当にわかってないの?」

少女が、尋ねたと思ったら、すぐさま畳み掛けるように疑問を投げかけてきた。

「もしかして、もしかしてだよ。一般人だったりする?」

「いや、一般人って何だよ。まぁ多分俺は一般人の部類だろうけどな。」

少女が沈黙、というか困惑する。

「ま、まってよ。私の名前もしらないの?」

「あぁ、知らない。」

「ま、魔法は?」

「知らない」

「キング」

「いやだから知らないって。」

それを聞いて少女がむくれる。

「なんで一般人っていってくれなかったのさ。」

「いや、一般人って……逆に一般じゃない人もいるのかよ。」

それを聞いて、少女が再び沈黙する。

「ごめんなさい。疑心暗鬼になりすぎてました。許してください。」

ペコリと頭を下げる。

「逆に、なんで君は疑心暗鬼になってたんだよ。」

俺が尋ねる。正直こっちの方が気になっていた。

「それは……それは……。」

言葉を探すように少女が呟く。言い訳の言葉を探すように。

「正直にいってくれ。」

「う、うるさいな!!わかってるよ!!」

少女がむくれる。案外かわいくて、戸惑う。

少女は結局、ため息をついて、何かを決心したように僕を見た。

「追われてる、んだよ。」

少女は、擦りむいている臑を見た。気がつかなったが、臑なんて普通だったら擦りむくはずがなかった。 けれど、追われているなんて―――

「だ、誰にだよ。」

戸惑いつつも俺は尋ねた。

「魔法使いにだよ。」

魔法…使い?

「能力保持者じゃないのかよ。」

俺が尋ねる。

「?能力保持者って?」

「待て、待ってくれよ。『能力』を知らないなんて言わないよな?」

「逆に聞くけど、『魔法』を知らない訳無いんだよね?」

いまいち噛み合わない会話をする。

そんな会話をして、少女が呟く。

「そうか、ここは、ここが並列世界だったんだ。忘れていたよ」

てへっ、と可愛いげな声をあげ、笑顔を向けた。その笑顔は不安ばかりを感じさせた


         2


今の世界では、人には一人に一つ、何かしらを操る力が存在している。歴史の授業で習ったが、昔はそんな人はいなかったらしい。しかし、いつからか操る力をもつ人が現れはじめ、今に至るらしい。余談だけれど、その力が認めらるまでの仮定で、何十万人もの犠牲を払ったことも、聞かされた。

「何かしら、って例えばどんなのを操れるの?」

少女が尋ねる。

「下位ランクをいえば、火とか水とかだよ。上位ランクだと、水銀とかを操る奴もいる。」

「へぇ〜、で、君はどんなのを操れるの?」

興味津々といった感じで見つめてくる。そんな目で見ないでほしかった。冗談でなく。なんせ俺は――――

「操る力なんて、そんなもの持ってない。」

長い間沈黙が走る。いや、僕だけが長く感じたのかもしれない。

「……ちょっ、ちょっとまってよ。悪いことを聞くんだろうから先に謝るけどさ。人は全員持ってるんだよね?その力をさ。」

「そうだよ、皆持ってるさ。俺以外は。」

「なんで」

そんなこと、俺が聞きたい。

「しかも、俺の近くにいる奴は不幸になるんだよ。俺の力を判定しに行くために飛行機に乗ったら、飛行機が墜落したくらいだ。」

少女が沈黙する。同情をしているのかもしれない。

「……だから、こんな廃墟まで走ってきたの?」

いや、そうじゃない。飛行機が墜落した所で、身近な人は傷つかないならそれでよかった。けれど、俺だけに都合よくなんて、いくはずもないんだ。

「99%成功する手術があってさ、それが失敗したんだ。その時の患者が、俺の姉だったんだ。

当然ながら、両親は俺を軽蔑した。自分の居場所なんて、どこにもなかった。だから、現実から逃げにきたんだ。」

俺が語る。語り続ける。吐き捨てるように。

「笑えるよな、対処法も考えずに、結局逃げてきたなんて」

「笑わないし。笑えないよ。二つの意味でね。」

少女が即答し、人差し指と中指の二つの指を立て、こちらに突き出してくる。

「一つ目の意味は、『魔法』と『操る力』が極端に似ていること。並列世界とはよくいったものだよ。」

そういって、中指をおろす。

「二つ目の意味は、その不幸が今まさに降り懸かってきていることだよ。」

少女が横目で後ろをみる。そこには、特に誰もいない。しかし、少女はいいきった。何よりも不幸な事を。

「雑談しすぎたかな?囲まれてるよ。『魔法使い』達にさ。」


        3


少女がいった瞬間だった、長く続く直線の廊下の二方向から、黒いコートのフードを深くかぶり、まさに、魔法使いといった感じのものが現れたのは。だが、気づくのが遅かった。俺の足元には、もうすでに手榴弾らしきものが投げ込まれている。

「逃げろっ!!」

「そっちが逃げてよっ!!」

僕の叫びに少女が反論する。そんなことをしている間に、手榴弾は爆発――――しなかった。いや、二三秒目をつぶっているいる間に、手榴弾が消え失せていた。

「私が『魔法』で消したんだよ。『魔法』を使えない君は私以下。だから逃げるのはそっちだよ。」

少女が補足する。

そうだ、その通りだ。なんの力もない俺は役立たずなんだ。だけど―――

「逃げないよ。君を助けるまでは。」

「何でさ!!あなたは助かるんだよ!?」

「俺のせいで、人が傷つくなんてまっぴらごめんだよ!!そんなことになるくらいなら、俺が犠牲になってやる!!」

つい、怒鳴ってしまう。幼い少女相手に怒鳴ってしまうなんて、最低だ。

「…………!!私には構わなくていいっていってるのに……!!」

少女が動揺しつつそういった

しかし、そんな会話をしているうちに、『魔法使い』が近寄ってくる。

「流石、ディストロイマジック。ただではやられないか。」

『魔法使い』が口を開く。

「厨二臭い名前で呼ばないでくれるかな?けしさるよ?」

少女が『魔法使い』を睨みつける。

「なんだ好戦的だな。怖い怖い。」

「これ以上近づいたら本当に消すからね。」

「やれるもんならやってみろよ――――」

この暗闇の中でさ。

その言葉を聞いた瞬間、周りが黒く染まった。『魔法』によるもののようだ。くっそ、周りが見えない……!!

と思っていたら、両手を拘束される。

『魔法使い』が俺の後ろにいるのか……!!

だけど、好都合だ。『魔法使い』に聞きたい事がある俺にとっては。

「お前ら、なんであんな少女を狙うんだよ。」

怒りまじりに、俺は聞いた。

そんな問いに対して、『魔法使い』は鼻で笑った。

「あいつが危険だからに決まっているだろう。」

「なんでだよ、何が危険なんだよ。」

「あいつの魔法の力を知らない奴に教えたところで、何もわからない。」

いちいち気に障ることをいってくる……!!

「ああそうだよ。俺はあいつのことなんて、あの少女のことなんて全然知らない。」

あったばっかりで、知っている訳もない。

だけど……!!

「あいつがどれだけ苦しい状況おかれてたかは、お前らよりも知ってる!!あいつはな、誰も信用できないくらいに追い詰められてたんだ!!どんな力を持っていようが、感情は普通の少女だろ!!どこにいても『襲われる』恐怖に怯えなければならないなんて、おかしいだろ!!」

そんな言葉をいいきると、『魔法使い』が笑い始める。そして収まると話し掛けてきた。

「ハッ。お前気持ち悪いくらい話長いな。恥もしらないのかよ。うざってぇうざってぇ。なら逆に聞かせてもらうけどよ。なんでお前は見知らぬ、初対面の少女に同情してんだよ?

それは……。

理由なんて、見当たらない。だけど、強いて言うなら。無理矢理、理由を付けるなら。

「あの少女に、魔性さに、惚れたんだよ……!!」

嘘だ。嘘だけど、理由になるならそれでいい……!!俺の不幸に巻き込まれて、人が不幸になるくらいなら、俺が死んで人を幸福にしたほうがよっぽどいい……!!

「なら、一緒に死んでやがれ。」

暗闇が解けた瞬間、俺の視界が反転する。乱雑に投げ捨てられたようだ。

隣には少女が倒れていて、前には規則正しく直線に五人の『魔法使い』が並んでいた。

そして、真ん中に立っている『魔法使い』が、刀を構える。

結局は死ぬ気で挑んでも、人を守る事も出来ないし、人を普通に過ごさせることもできなかった。口先ばっかりで――

「俺は、加害者でしかない……!!」

「違うよ。」

いつの間にか起きていた少女が、鋭い声でそういった。

「今気づいたんだ。あなたの力はきっと―――」

「切り裂け。」

『魔法使い』がそう呟いて、剣を横に素振りする。

何となく、鋭い風が、大きな鎌鼬(かまいたち)が、こちらに向かってきたのがわかる。

きっと―――――『魔法』を操れるんだよ。

少女が続けた。

「意識して!!その鎌鼬を返すことを!!」

言われるがまま、俺は立ち上がり見えるはずがない鎌鼬を見つめた。

向かってきた鎌鼬が、体に当たる。それは俺を傷つける事なく、留まった。ほんの一瞬だったのだけれど、操作するには充分だった。

殺さないように、相手の足を、足だけを切り裂くように。俺は鎌鼬を跳ね返した。


         4


「…………っ!!」

痛みからか、驚きからか、『魔法使い』は悲鳴をあげた。

「とりあえず逃げるぞ!!」

「わかってるよ!!」

その場から走り出す。

「全くもう!!よくもまぁあんな恥ずかしい台詞を言えたもんだよね!!」

少女が呆れたようにいった。走っているが故に、必然、声が大きくなっている

「ちょっとまて!!聞こえてたのか!?」

「当たり前だよ!!あの『魔法使い』は悪魔で、暗闇を生み出しただけなんだから!!」

何だって……!!また恥ずかしい思い出をつくったことに……!?

「全く!!聞いてるこっちまで恥ずかしくなったよ!!」

「思い出させないで下さい!!」

俺が叫ぶ

「ところでさ!!逃げるつもり!?」

少女が走りながら尋ねる。

「とりあえず俺の家に向かう!!」

それを聞いて、少女が不可解そうな顔をする。

「親と喧嘩したんじゃないの!?」

喧嘩はした、だけどそれ以前に―――

「俺はもう自立して一人暮らしだよ!!」

ちなみに高二だ

「先いってよ!!最初からそこいけばよかったのに!!」

それにて、会話を終え走り続ける。案外早いこと、出口に突き当たった。

「外に出るぞ!!」

「待って!!」

少女が急に立ち止まり叫ぶ。

言われるがまま、俺は立ち止まった。

「ここはさ、並行世界を繋ぐ廃墟なんだよ?で、今向かおうとしているのは、私が存在しない世界なんだよ。だからね、私はここの出口、並行する世界に繋がる出口からは出れないよ。透明な壁みたいなものがあるんだよ。」

―――まぁそれを消しちゃえばいいけどさ。

そういって、少女が手を前に向ける。

「何をする気なんだ?」

「私の『魔法』はね、『触れたものを消滅させる球体』を生み出すことなの。位置を固定するのに二三秒かかるし、触れた部分しか消滅させれないけど。並行世界同士を遮る壁だって消滅させれちゃうんだよ。」

既に、位置の固定とやらは、すませていたらしく、突然『外』と『廃墟』を繋ぐ出口に黒く、禍禍しい球体が10秒程度、複数現れた。

特に何も変わったように見えないが

「多分これで私もあなたの場所に行けるよ。壁が修復しちゃうかも知れないから急がないと。」

そう少女がいって、俺の手を引っ張る。

俺は、嫌な予感しかしないというのに。

『この行為』を阻止するために、『魔法使い』が襲ってきていた。そんな気ばかりが、俺を渦巻いていた。



        5


その後、途中何度か休憩をはさんだものの、何事もなく三時間程度走りつづけ、夜が明ける頃には俺の部屋に到着した。

部屋といってもマンションだけど。

「まぁ一応1LDKの部屋だけど、本当に君はここに居候するきなのか?」

さすがに一応女性と暮らすとなるのなら、相手の許可は取らないとまずい気がしたので尋ねる

「住む場所なんてないし、仕方ないからここに住むよ」

仕方ないのか。

「それよりもさ、もうそろそろ『君』、『お前』はやめてくれないかな。」

そういって、少女が自分の名前を名乗る

「私は花鉈加奈(かなたかな)、だよ。」

「俺の名前は式崎(しきさき) (つき)だよ。よろしくな。」

「うわ、変な名前」

クスリと少女が笑う。

「『花鉈加奈』も十分に変な名前だけどな」

それをきくと、少女がむくれる。

「うるさいよ、全く。」

と、いったところで、少女が何かに気がついたような顔をして、すぐさま続けた。

「ところでさ、ご飯とかないかな?おなか減っちゃって。」

そういえばもう夜が明けていたということは、7時くらいだろうか。 ん?7時?

「ちょっ!!さっさと学校の準備しないと!!」

忘れてた!!ただでさえ出席日数が足りているかわからないのに!!

焦っている俺をよそに、花鉈が俺に何がを言おうとしている。

「何だよ。時間がないから手短に頼む。」

「疑問に思うけどさ、式はさ、廃墟に逃げてきたんだよね。」

「そうだよ。」

「なのに何で今日学校に行くのさ。」

「いや、最初から学校までには帰るつもりだったんだ。第一、不等な扱いされるのは慣れてるよ。」

ただ、少しの時間でも姉の死が自分のせいという現実から逃げて、少しくらい傷を癒そうとしただけだ。

第一、現実から目を背ける無意味さをくらい、嫌というほど知っている。

「んじゃ私も手短に言わせてもらうよ。」

「ああ。」

「私をおいて学校にいったら、絶対に許さないからね。」

怒りを俺に向けながら言う。

だけど、どうにもできない。俺は学校に行かなきゃ学校を辞めることになるし……。

だけど、花鉈の身の安全も確保しなければならないし……。

「俺の携帯番号教えておくから、何かあったら電話してから逃げてくれ」

駆け付けるのが間に合うかわからないけど、それが一番最善の選択だと思う。

だというのに、花鉈が俺を膨れっ面で睨めつける。

なんなのだろうか。

「いいもんいいもん、式なんて勝手に学校に行ってればいいよ。」

そういってねっころがってテレビをつける。ふて腐れているみたいだ。

てか、テレビの付け方わかるんだな……。

そんな事を思いながら俺は準備を果たし、学校に向かった。


        6


「三日も休んで、槻君は出席日数平気なの?」

幼なじみの捺原美錫(なつはらみすず)だ。

いかにも優等生な顔つきで、ふんわりした雰囲気、胸は大きく、眼鏡をかけている。そして――――

「美錫には失礼な事だが、何故かその優等生容姿で頭は悪いのが特徴だ。」

「本当に失礼だよっ!!

全くもう、そんなこと思っても声に出さない。」

「声にでてたのか?悪い、声を出すつもりは本当になかったんだけど。」

「まぁいいけど。」

心は異常に広い。本当全くに怒らない。

「ところで、今日の『能力操作実習』やっぱり休む?休むんなら私も休んじゃおうかな、なんて思ってるけど。」

何らかを操作する力、いわゆる能力を制御出来るようにするための実習。今ではそれは全ての学校の六時限目に導入されている。

だが、俺は能力を持ち合わせていなかったので、サボっていた。一応今は能力も判明したのだが……。

「休ませてもらうつもりだよ。」

流石にいきなりそれに出る気は起きなかった。

「じゃ、帰ろっか。」

美錫が鞄を持ってそういった。

美錫の家は、俺の住むマンションの二つ隣の部屋なので、大体は一緒に登下校を行っている。

「結局のところ出席日数大丈夫?」

下校中、さっきスルーさせていただいた出席日数について、美錫が再び尋ねてくる。

イタいところをついて来る……。

「大丈夫、とはいいがたいよ。少なくともこれ以上は学校は休めないな。」

今でも進級できるか心配だ……

「安心してよ、槻君が進級できないなんてことになったら、私も進級しないから。昔の槻君見たいにさ。」

美錫がふふっ、思い出し笑いを浮かべる。

「俺は思い出したくないよ。よくもあんな恥ずかしい台詞を言えたものだよ。」

「確か、『美錫を停学にするのなら、俺も停学にしやがれ!!体調の事情でもないのに成績の悪い俺が停学にならないなんて理不尽過ぎるだろ!!』だったよね。」

「よく覚えてたな。」

「多分一生忘れないよ。いや、『多分』じゃないな、『絶対に』だよ。」

「俺は今すぐ忘れてもらいたい……。」

そんな会話をしているうちに、マンションの前まで着いていた。 流石学校からマンションまで5分と言ったところだ

「ところでなんだけど、今日の夕飯で親子丼食べようとおもってるんだよ。だけど、卵がきれちゃってるからさ、卵二個恵んでくれないかな?」

「卵……か。確かに六個くらいあったし、いいよ。よ。よ――――――」

忘れてた!!あいつ(花鉈)が部屋にいたんだ!!

「と、いいたいが!!そういえば昨日卵が全部ひよこになっちゃったんだ!!残念だけど、卵をあげれない!!」

「市販の卵はひよこになるはずないけど……。」

しまった!!卵を全部わったのほうがよかった!!

などと悔やんでいたら、美錫がこちらを怪んでくる。そして、何か思い付いたように口を開いた。

「……そういえば、私槻君の部屋に忘れものがあったんだよね。」

「何を忘れたんだ。今すぐ言ってくれ。」

「監視カメラ。」

「最悪過ぎだ!!盗撮する目的しか思い浮かばない!!」

「だから今すぐ片付けないと。」

ちなみに、美錫は機械を操る能力なので、真実味があって恐かったりする。

「とりあえず、頼むから見逃してくれ。」

もうすでに、俺らは自分達の部屋がある三階にまで到達していた。

美錫がため息を着いた後に、しょうがない

、と呟く

「わかったよ、これ以上詮索しない。」

「ごめん、ありがとう。」

「それじゃまたね。」

そんな会話をしてから、俺が自分の部屋の鍵をあけ、部屋に入――――

「詮索はしないけど潜入はするから。」

何故か後ろから響く声。さっき『またね』と告げたはずの声。

「え……と……美錫……さん?」

ものすごく優しくて、柔らかい笑顔を向けてきているのに、和める雰囲気ではなかった。

「お先に失礼します。」

そんな穏やかな言葉と裏腹に、いつの間にか装備していた後ろの加速機で、あろうことか俺の部屋に突撃してきた。

「ちょっと待て!!待ってください!!」

すぐさま後を追う。 そして、向かった先には―――

「この子、誰?」

俺のベッドの上で興味津々に俺のエロ本を読み耽ている花鉈がいた。


         6


「な、何やってんだよ!?」

つい怒鳴る。それに対してか、見つかった事に対してか、花鉈もひどく戸惑っている。

「え、ええと、何って……その……たまたま床に落ちてた本を読んでたんだよ。」

完全に視線が泳いでいる。

「そんな訳無い!!隠してたはずだ!!」

「ち、違うもん!!それよりもさ、今日は六時限目まであったはずだよね!?なんでこんなに早いの!?」

「早退したんだ!!てかなんで知ってんだ!?」

「槻君、どういうことかな?」

美錫が口を出す

「美錫、これは誤解だよ!!」

「違うよ。私はエロ本より断然、『この子』が気になるんだけど?」

美錫が花鉈を指を指す。

そしたら、花鉈が驚いたように美錫と写真集を見比べはじめた。

「優等生みたいな顔立ち、首元までの髪の毛、大きい胸…………写真集に出ている人と特徴が似てる……。式どういうことなのかな?どういうことかな?」

何観察してくれてんだ。

「たまたまだ!!たまたま!!」

「違う写真集でも似てる人たくさんいたよね。」

「いらんこというなよ!!」

そんな会話をしていたら、急に美錫が花鉈から写真集を取り上げる。

「こ、これは没収です!!」

顔を真っ赤にしてそうつげると、逃げるようにして止める間もなく俺の部屋を出ていく。

俺の部屋が急に静かになった

そして、俺がため息をつき、花鉈に告げる。

「花鉈、お前もこれから学校にこい。」


        7


「わぁー!!ここが学校なんだねっ!!」

花鉈が喜び走り回る。こちらとしては喜べないが。

結局、入学手続きをすませ、一週間後の06/25日から入学することになった。年齢については花鉈が、「17歳で誕生日は05/21だよ」と言い張っていたため(事実かは知らないが)、そのまま校長に伝えた。 で、喜べない訳は……。

「ふざけてるの?この子供が17歳な訳ないでしょ。」

こいつにあった。

俺の目の前には、胸辺りまでのびている髪に明らかに気が強い目つき、無いに等しい胸が特徴の同級生がいる。名前は確か――

「尾高 (おだかりん)

「尾田 香凜!!」

しかも、半径100m以内の『空気』を使う能力で、日本で五番目に強いらしい。そのせいか毎回、同級生なのに下手に出てしまう。

威圧感ありすぎなんだよ。

「てか、無能力者増やすのやめてくれないかな。」

そう花鉈は無能力者ということになっている。

『操作』する力ではなく、『生み出す』力を持つ、つまり『能力』ではなく、『魔法』を使える花鉈の力は言わなかったからだ。

「待った、増えてないんならいいんだよな。」

「何がいいたいの?」

「俺は無能力者じゃない。判明したんだよ、何を操れるのか。」

不可解そうにこちらをみてくる。

「何いってるのよ。なら聞くけど何を操作するのよ。」

いざ、いうとなると心配になる。

笑われなければいいけど。

「『操作する能力』を操作するんだよ。」

俺がそう告げると、一瞬笑ったが、すぐにこちらを向いた。

「いいわ、信じるよ。確かに辻褄もあうしね。なんだ、だからあなたがいると空気を操作しにくかったんだ。」

そういって、何故かライターを取り出す。

「なんだよ急にライターなんか?」

「私と勝負しなさい。」

勝負を申し込まれた。日本で五番目に強い奴から。

「ちょっと待て!!俺に勝ち目なんか……!!」

「日本ランク五位に勝負仕掛けられてるんだから、光栄に思ってさっさと勝負しなさい!!」

「第一もう暗いじゃないかよ!!」

学校の時計を見ると、もう7時だ。

と確認していたら、花鉈が焦ってこちらに走ってきていた。本当に死ぬもの狂いで走って来ている。そして叫んだ。

「式!!下がって!!」

必死の形相で叫ばれた瞬間、目の前に、高速で何かが通っていった。

「な、なっ!?」

尾田が近くの(くさむら)を睨む。

真っ暗な叢の奥からは、大人びた女性が出てきた。


         8


「加奈はあなたじゃ守れないわ。私達が守らないとね。」

髪が膝まである大人びた女性が、そういって携帯を取り出し、誰かに電話をする。

「もしもし、もうみつけちゃったんだけど間に合う?間に合わないなら私一人でやれるところまでやってみるわね。それじゃ。」

携帯電話をきると、こちらを見直す。

今の会話から仲間がいるようだ。『魔法使い』か?

そんな事を思っているうちに、花鉈もここまでたどり着いていた。そして、驚愕といった顔を浮かべている。

「なんで、あなたが―――。」

そんな言葉をきき、女性が微笑む。

「あなたを守るためですよ、加奈。」

そんな会話をよそに、尾田が話かけてくる。

「何?知り合い?」

「いや、少なくとも俺は――知らない。」

そんな会話を聞いてか、花鉈がこっちをむく。

「安心して。悪い『魔法使い』じゃないよ、式。多分、味方だと―――」

「違います。加奈の味方であっても、加奈の仲間の味方とは限りません。第一、今は敵です。それに、何も生み出せず、操る事しかできないような人達など――――」

仲間であっても足手まといです。

その言葉をきき、尾田の眉間にしわがよる。

「言ってくれる、言ってくれるじゃない。『魔法使い』だかなんだか知らないけどね、『能力者』舐めんなっ!!」

そういって、手に持っていたライターを女性の方に投げる。 そのライターが女性の5m程度前までにたどり着くと、急に周りごと大爆発した。

「空気って火がつくと爆発する成分をたくさん含んでるのよね。今回は水素を使ったけど。死なない程度の距離にしといたから安心して。」

「本当に、お前って怖い奴だな……。」

少なくとも相手にはしたくないよ。

「二人とも下がった方がいいよ。」

花鉈がそういって、火の中を見つめる。

「何言って―――」

火の中から突然、何かが飛んできた。

これは…………壊れたライター?

「危なかったよ、全く。」

突然、女性が目の前に飛び降りてくる。

2mほどの火を飛び越して。

「まだやるの。全くこりないの。」

尾田が再びライターを取り出す。

どんなものを生み出すかがわからない故に、俺には出る幕はなかった。

「次は私も攻撃するわね。」

そういって、石ころを八個拾う。そしてそれを、尾田に投げた。

「なっ!?」

尾田が声をもらす。辛うじて石を避けたものの、石ころはとてつもない速さで尾田に向かってきたからだ。

「どうなって……!?」

「思い出した、多分その人は『強化』するんだった。『ある物体の限界以上の力を生み出す力』なんだよ」

花鉈がそう告げる。

「そうそう、加奈のいう通り。さぁどう対抗するのかな?」

声は、尾田の後ろから聞こえた。いつの間にか回り込んでいたようだ。すぐさま、女性が尾田を叩こうとするが、尾田もなんとかしゃがんで避ける。

けれど、それの避け方は駄目だ。駄目なんだ!!

次の行動パターンを理解した俺は、尾田を押しのける。

案の定、女性は蹴りをかましてきた。蹴る力が強化されているうえに、運悪く、鳩尾に入りひどい痛みが走る。

だけど、こいつ――

「お、お前はこの力で尾田を蹴ろうとしたのか……!?」

鳩尾の痛みをこらえつつ女性を睨む。女性は目を反らし、ため息をつく。

「悪いのかしら。これが気絶する勢いだったのよ。仕方ないでしょう。」

「ふざけんなよ……!!この勢いだったら、尾田は火の海にまで吹っ飛ばされていたじゃないかよ!!」

無理矢理立ち上がると、女性がすぐさま後ろに下がる。

「少し、黙りなさい……!!」

石をこちらに投げてくる。狙いは足のようだ。

だめだ、これで終わりだ。終わり……?いや、何かにひっかかる。

「式!!あなたの力で!!」

そうだ、この石も……!!

高速でとんでくる石が足にあたった瞬間、それは砕け散った。

「何を……!?」

すぐさま俺は女性のところまで走り出す。

「これなら!!」

女性が俺を殴ろうとしてくる。けれど、それは俺にダメージを与えない所か、拳に傷をおわせた。

「どうして……!?」

「俺は、『この世では普通は存在しえない力を操る』能力なんだよ。強化された石だって同じだ。『高速でとてつもなく硬い』石や拳を、お前の使っている能力で『低速でとてつもなく脆い』石や拳に変えられる。」

そういって俺が女性に平手打ちをしようとする。

しかし、何かに腕を止められる。

「へぇ、でも二つ一遍には操れないのか。」

女性の後ろから、いかにも適当そうな男が現れる。さっきの電話相手のようだ。

「何をしたんだ……!!」

「『隔離』だよ。俺の能力。」

男性が近寄ってくる。

その瞬間、尾田がそいつに警告する。

「それ以上近づいたらあなたの付近の酸素を奪うわよ。」

「ちょっ、ちょっと待てよ!!別に敵対したいわけではないんだ!!」

「じゃあ何しに……!!」

待ってましたというが如く、適当そうな男が微笑する。

「仲間にしてくれないか?」


        9


昨日を思い返すと、本当にいろいろと起きた日だったと感じる。

たった一人、花鉈が始まりだった。いや、まだ始まったばかりらしい。昨日戦ったあいつらが言うには。

見張りだといって、俺の部屋の隣に引っ越してきて、「明日お前の家に集合」とか言い出したあいつらが言うにには。

けれど、本当に、花鉈にであえてよかった。隣にいる花鉈にであえて――――隣にいる?

俺が凝視すると、花鉈がえへっと笑う。

「……な、なんでお前は隣にいるんだよ。」

戸惑い以外頭には存在しなかった。

「いってなかったっけ?私一人で寝れないんだよね。怖くてさ。」

「何が怖いんだよ。」

「幽霊。だからこれまでは昼夜逆転してたんだよ。」

そういって、もう一度笑うと花鉈がいった。

「これからよろしくねっ式っ」

俺は、ついついその笑顔を見て微笑んでしまった。


ここまで読んでくれてありがとうごさいます。

一応、今から言葉足らずでわかりにくい単語の補足をさせていただきます。


能力……『何かを操る力』のことです。主人公の世界に存在する人が使えます。


魔法……『何かを生み出す力』のことです。ヒロイン(花鉈加奈)の世界に存在する人の一部が使えます。


並列世界……ヒロインの住んでいた世界です。廃墟が並列世界をつないでいますが、行き来することは普通不可能です。



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