泣キ虫ナ死神
むかしむかし、今よりずっと未来の話。
そこには青い空と、それを映し出す水面だけがありました。それ以外には何も見えません。陸地も、建物の影すらありませんでした。
今日もただ雲が流れ、足元が揺れるだけでした。
そんなところに一人の女の子が立っていました。銀に輝く腰までストレートに延びた髪の毛と、影よりも黒いワンピースの裾が風でなびきました。
女の子の雲のように白い肌が地面に映り、波紋によって描き消えました。
女の子の肩に担がれた宵闇色の大鎌がキラリと空を映しました。
碧色の瞳は遠くを、何もない向こうを見つめて、女の子は一筋涙を流しました。
今日も、ここは悲しい。
、と。
女の子が涙を流していると、地面に一つの波紋が広がりました。
そこには一人の男が立っていました。女の子は男の方を向きました。
男は言いました。
「ここは何処だ?」
女の子も返します。
「ここは何処でもない。進めないし、戻れない」
「君は誰だ?」
「私は、誰だろう? 考えた事がない」
「君はそんな大鎌を持っているから、多分死神なんじゃないのかな」
「私は死神・・・・・・たしか、そんな名前だった気がする」
「なら君は死神だね。死神、君は何をするんだい?」
「特に、何も」
「ふーん、そうか。ここはそういう世界なんだね」
そう言って男はその場に座り込みました。
「君も座ったらどうだい?」
男は女の子にそう促し、女の子は大鎌の刃を水面に突き刺して、柄に腰かけました。
「きれいな景色だね」
遠くを眺めながら、男は言いました。
「そう」
女の子は目を閉じました。静かに。
~♪~
大鎌の柄に座りながら、女の子の視点は合っていませんでした。遠くを見ているのか、近くを見ているのかそれは分かりません。
隣に先ほどまでの男はいません。
チャパチャパと地面を蹴る音が響き男が再び現れました。男は膝に手を付き、肩で息をしました。
「ハァ、ハァ・・・」
「何処に行ってたの?」
女の子は関心がなさそうに、事務的に聞きました。
「ここは随分と広いからね、何処まであるのか確かめに走ってきたのさ」
「何処まであるのか、分かった?」
「いいや、何処まで行っても行ってもキリがないんで、戻ってきたんだ」
「そう」
「こんな世界を見るのは初めてだよ。早く始まりが見たい」
「世界・・・・・・なんのこと?」
「いや、いいんだ気にしないで」
そういって男は再び座り込み、遠くを見始めた。
~♪♪~
男が走ってから随分と時間がたった。当の男は、眉をひそめ腕を組み、パタパタと足踏みを鳴らしていた。
明らかにイライラしていた。
「何なんだこの世界は・・・! 一向に何も始まらない・・・! 誰が作ったんだ・・・!」
そんな男を見つめながら、女の子は一筋だけ涙を流した。
「おい、君はこの世界の住人なんだろ! なんで何も起きないんだ! なんで何も始まらないんだ!」
「・・・・・・」
「僕は世界の始まりを幾つも見てきた! 何度も何度も、何度も!!」
「貴方は、何に悲しんでるの?」
女の子が口を開いた。
「何も悲しんでなんかいない! 僕は――」
「貴方から、悲しみが流れてくる」
「だから何を言って!」
「ここは、死の世界」
「・・・・・・はぁ? ここは何処でもないって言ったのは君だろう」
「貴方に言われてから考えて、思い出した。ここは死後の世界。悲しみの場所」
「ハ、ハハ・・・・・・そうか、ここはこういう世界か。見てる人間に上映スイッチを押させるだなんて、随分と面白い設定だな!」
「貴方は死んだの」
「そういう設定だろ? 分かってるよ!」
「いいえ、分かってない」
そういうと女の子は座っていた大鎌を引き抜き男に突きつけた。
「貴方は死んだの。それを教える」
ザクリ、男の胸に大鎌が刺さった。しかし、
「なんで・・・何だこりゃ」
突き刺さった大鎌からは血すら出ず、男の体にはなんの異常もない。まるでマジックの道具のようだ。
「私は貴方の悲しみを狩り取るために、ここにいる」
「ここに来る人は、悲しい人たちだけ」「でもここでは泣けない」「そんな人たちのかわりに泣くのが私」「貴方の悲しみが何なのかは分からない」「でも、貴方の悲しみは感じる」
「貴方は何に悲しんでるの?」
女の子の平坦な口調に、男の怒りも徐々に小さくなっていった。
「何が悲しいって・・・・・・決まってるだろ。さっきも言ったけど僕は世界を幾つも見てきたんだ、幾つも幾つも、世界の終わりをね。僕がどれだけ好きになっても、肩入れしても、その世界は生まれたときから滅びることが決まってる。それをずーっと。気がおかしくなりそうだったよ。いや、おかしくなったから死んだのか・・・・・・ははは・・・・・・」
「私は、貴方の死ぬ前も、これからも知らない。けれど幸せになってほしいと思う」
「そうか・・・・・・幸せね、やってみたいな」
「貴方の、貴方が作れば良い。終わらない世界を」
「成る程、そういう手もあったね。それを目指して頑張って見るよ。んじゃ」
刹那、間もない間に男はそこから消えていた。
女の子はそれを見ると、静かに、声を殺して、嗚咽を溢した。
~♪♪♪~
むかしむかし、今よりずっと未来の話。
そこには青い空と、それを映し出す水面だけがありました。それ以外には何も見えません。陸地も、建物の影すらありませんでした。
今日もただ雲が流れ、足元が揺れるだけでした。
そんなところに一人の女の子が立っていました。女の子は一筋涙を流しました。
今日も、ここは悲しい。
、と。
どうも衣乃城太です。
新作ですが・・・相変わらずグダってます。
感想とかもらえると嬉しいです。
以上、衣乃城太でした。